手の届く範囲のエシカルで、世界を変える(『エシカルコンビニ』ディレクター・早坂奈緒)
現在の活動ときっかけ
──今月のテーマは「プロテインと行動(アクション)」。今回はエシカルなモノ・コトを取り扱う『エシカルコンビニ』でエシカルディレクターを務める早坂奈緒さんからお話を伺います。
早坂:はじめまして、早坂で す。私 は アパレルで13年間プレスを担当した後、大学の友人が 立ち上げた布ナプキンの会 社に入り、環境配慮や サステナブル、エシカルについて意識し始めました。 さらに学んでいくうちに、自分の知識やスキルを会社 の垣根を超えてシェアしたいと思い、エシカル領域の 展示会などでキュレーターやディレクターとして活動 することにしました。
──その後『エシカルコンビニ』もスタートしたと伺っています。
早坂:はい。『エシカルコンビニ』のコンセプトは「気づき の輪を広げ国や人種、会社の枠を超えて、“気づきの 連鎖”を大きくし行動することにより、傷んでしまった 地球再生への一歩となること」です。現在は都内の店 舗とECサイトも運営しながら、衣食住全てのカテゴリ でエシカルな製品を販売しています。
──今後、消費者のエシカルへの意識はどのように変化していくと思いますか?
早坂:難しいですね。そもそも自分が、エシカルを特段意識して生きているわけではないんです。例えばですが、誰しも空気を吸うと思いますが、わざわざ「酸素吸ってます」とは言わないですよね。同じようにわざわざ「私、エシカルなものを使ってます」と掲げることって少し変。もしかしたら私が今『エシカルコンビニ』という名前やエシカルディレクターという肩書きがあるのも恥ずかしいことなのかもしれません。単純に一人一人の手が届く範囲がエシカル製品になれば、世界は変わります。でも初めはきっかけがないと難しいから『エシカルコンビニ』が意識を変えるきっかけになれば嬉しいです。
──『エシカルコンビニ』はこれからどのように展開していくのでしょうか。
早坂:店舗を増やしていくことはあまり考えていないんです。矛盾しているとは思うのですが、結局はたくさん売るためにモノを作ることも違う気がします。もちろんブランドさんとしては物販として売り上げを伸ばしていくことが大切です。でもモノを作ること自体、環境に影響を与えているんです。例えば「コーヒー豆の出がらしのカスからできたコップ」があったとします。一見、ゴミをプロダクトにして環境に優しいと思うかもしれませんが、コーヒー豆の出がらしって土に撒けば肥料になる。つまり、わざわざプロダクトを作る方が製造・流通の過程で、過剰なCO2排出をしている場合もあります。
──たしかに。
早坂:だからこそ、人間のエゴが混ざった商業的なエシカル製品は見極める必要がある。なんでもかんでも持続可能を理由にモノを作ることは良くないなと思います。
原点は子供時代
──早坂さんの子供時代について教えてください。
早坂:一番のエピソードは小学校生の時、祖父母が経営しているお惣菜屋さんが、今まで添加物が入っていたものから無添加のものに方向転換をしたことです。家族全体の記憶に残る出来事で、その瞬間から家の食事も一気に変わりました。最初はもちろん味が薄くて物足りなさを感じていたのですが、続けていると不思議なもので身体が慣れてしまうんです。すると逆に、添加物が入っているものを受けつけなくなる。味や香りがダメになるというよりは、胃がムカムカしたり、便通も悪くなったりするなど、身体が受け入れられなくなりました。
──方向転換、さすがです。
早坂:本当にそう思います。祖父母は勉強しながら無添加でも美味しく食べれるようにするには、どうしたらいいだろうと試行錯誤していました。私も今は絶賛勉強中。でも、身体が作られる子供時代にそのような食事に切り替えてくれた祖父母には感謝しかありません。これからも続けていきたいですね。
──最近はエシカルという文脈でも、添加物を気にする女性が増え始めています。
早坂:とても進化していると思います。今は添加物が入っている方を選ぶ人が少ないのではないでしょうか。祖父母は30年以上も前から、こんな時代がくると信じてたので感動しているはず。布ナプキンも同様で、近頃は「フェムテック」という言葉があるように、一般の方々にも広まり始めています。大手アパレルから転職した途端に周りから「どうしたの」と聞かれるくらい無名だったのが、ここ10年でドラッグストアやコンビニでも手に入る。もちろん海外と比較すると日本は遅れていると言われますが、確実に進んではいます。
──意識せずとも、自然とエシカルなものを選べるようになって欲しいなと思いました。
早坂:うんうん。例えば私は、子供が誕生したことで、オーガニックな衣類を選ぶことが増えていました。子供って素直なんです。例えば化学繊維の服を着させると「痒い」「痛い」「ちくちくする」と着なくなるんですよね。食べ物も一緒で基本的に子供のためにオーガニックな製品を自然に取り入れるようになりました。この生活スタイルは仮に子供が大人になってからも続けていきたいです。
言葉に惑わされない
──そもそも「エシカル」とはどのような概念なのでしょうか。
早坂:エシカルとは「倫理的・道徳的」と直訳されます。 地球環境への配慮や人権の保護など、地球上のすべて の存在がより良くあることを目指す行動や活動ですね。
──日本では言葉だけが一人歩きしている気もします。
早坂:きっかけとしてはいいのですが、言葉だけが 流 行ってしまうのは、本質的ではありませんよね。 「みんながやっているからやる」のではなくて「じゃあ、 何でみん ながやっているんだろう」という背景に まで疑問をもって欲しいです。子供の質問みたいに 「何で?」「どうして?」を突き詰めて、まずは周囲と エシカルについて語りあうことが大切だと思います。
──なるほど。
早坂:もちろん、正解がないからこそ、対話自体は大変 です。でも続けていると、自分が納得できないことに 対して疑問を投げかける練習にもなると思います。 私を含む消費者であるみなさんが、流行ではなく、本来 やらなければいけないことを自覚することから始め なければいけません。
──忙しい中で、対話をする時間をとれない人も多い気がします。
早坂:たしかに、忙しいと考える余裕すらなくなりますよね。だから信頼できるブランドが必要なのではないでしょうか。あと私は物理的な五感ではなく「第六感(シックスセンス)」が大切だとも思います。もちろん、買うことが「投票」であるという意識も忘れてはいけません。
──『KOREDAKE』もまだまだ改善段階ですが「第六感」でいいなと思っていただけるよう努めていきます。
おすすめはゴミ拾い
──エシカルな暮らしを発信する早坂さんは、これからの未来に起きる社会課題をどのように捉えていますか?
早坂:難しい質問ですね。正直、2030年までにSDGsを実現できるかはわからないと思います。でも、テクノロジーで解決できる環境や社会問題は増えてくるだろうし、原始的な生活に戻るというよりは、近未来的な進化の仕方を人間はしていくのではないでしょうか。誰しも本当の現実を知れば、やるかやらないの選択肢は持たなくなる、と思うんです。
──私たちが日常からできるエシカルなアクションがあれば教えてください。
早坂:「ゴミ拾い」はおすすめです。手軽で、洗練された街 にも意外とゴミが落ちているという気づきが生まれる ので、人の意識を変えやすいと思います。ゴミといえば 浜辺のビーチクリーン活動は有名ですが、わざわざ海に ゴミを捨てる人はいなくて、街でポイ捨てされたゴミが 雨や風で川に流されて海へ運ばれているんです。
──街でのゴミ拾いが海を守ることに繋がるんですね。 『KO R E D AKE』では 環境月間の6月から、付属の スプーンをもらわずに購入すると、ゼロ・ウェイストを 推進する自治体に寄付するという取り組みを始めまし た。ブランドとしては、そ もそもゴミを出さないこと から始めていきたいと思っています。
早坂:素敵です。ゴミを拾えば、自分がいかにゴミを出しているのかを知るきっかけにもなる。その結果、マイボトルを持ち歩くような意識も芽生えるかもしれません。ペットボトルを買わないだけでペットボトルのゴミは確実に減ります。
──小学校で地域のゴミ拾いをしていたことを思い出しました。
早坂:私は以前、娘を連れてビーチクリーンの 活動に参加したことがあります。汗だくになりながら ゴミ拾いをしていてふと、本当のビーチって、子供たちが ゴミではなくて貝殻を拾うところなはずだ、と思いました。そして未来の子供たちにまでゴミを拾わせる ことを想像したらやるせない気持ちになりました。孫の世代までには、ゴミ拾いではなく貝殻拾いができる 地球を目指したいです。
──私たちも一緒に目指していければと思います。早坂さんがエシカルな活動をする中で大切にしているマインドはありますか?
早坂:私はできることから始めています。例えば布ナプキンも違和感があるのなら、家だけで活用してみるとか、紙ナプキンで環境に配慮されているものを選択するとか。エシカルを白か黒で判断せず、やれない自分を責めないで欲しいです。もちろん危機感はあって、人間の歩みを地球は待ってくれないとも思います。でも着実に進んでいることは事実だから、これからも多くの人がエシカルなアクションを起こすきっかけを提供し続けていきたいです。
──最後になりますが、早坂さんにとってのウェルネスを教えてください。
早坂:エシカルと一緒でウェルネスも、ごく普通なこと ではないでしょうか。こんな私でも心身のバランスを 崩します。でも崩れてしまった時、自分の中で立て直し 方を知っていることが大切。当たり前のように心身の バランスを保てることが、私にとってのウェルネスです。
──貴重なお話をありがとうございました。
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