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【現像 #28】 思い通りの色でプリントするための考察・検証。 結論「プリントして確かめる」

はじめに

撮った写真をプリントするとモニターで見たのとは違いますよね。
そもそも透過光(モニター)で見るのと反射光(プリント)で見るのとでは同じになるはずもないのですが、分かってはいても若干ヘコみます。笑

なるべく理想のプリントが出来るようになるために、色の仕組みを理解しておくのは重要と思います。すでにタイトルに結論を書いてますが、最終的にはプリントして確かめるということであっても、そのための仕組みを理解しておけば、制約は何なのか、どうすれば理想に近づけるのかなど、プリント環境を考慮して計画的に進められると思います。

今回はその辺りをお話したいと思います。



カラースペース(色空間)

色度図

人間が認識できる色の範囲を表したものを色度図といい、次のような図で表されます。

色度図


モニターが表示できる色の範囲(色域:しきいき)

人間の認識可能な色の範囲に対して、モニターが表示出来る色の範囲は以下のような三角形の範囲内になります。モニターの種類によってsRGB対応とかAdobe RGB対応とかあると思います。MacではDisplay P3と呼ばれる規格が一般的になりつつあるかと思います。

また、カメラのraw dataはこれらより広いので、たとえ豊富な色情報があったとしても、上記に挙げたモニターではすべての色を把握しながら色調整を行うことは不可能となります。

一般的なモニターの対応色域

そのため、現像時の色空間(作業色空間)をsRGBやAdobe RGBとすることで、その外側の色もその範囲内に強制的に収め、見える範囲で色調整を行うのが一般的かと思います。

ただし、MacでAdobe RGBの色空間を設定しても、Display P3からはみ出したAdobe RGBの色空間は、モニター上で色再現できないということになります。本当はもっと鮮やかな緑があるはずなのに、みたいな。
逆に赤の範囲は十分カバーしてますね。

Display P3(半透明のグレーの範囲)より、
緑色から青色にかけてAdobe RGB(黄色の三角形)の色域が広い。


プリンターが印刷できる色の範囲

ここでプリンターが印刷できる色の範囲を見てみましょう。実は、モニターで見えないどころかAdobe RGB色空間よりも大きい場合があります。
これはすなわち、プリンターが印刷できる色の範囲をわざわざ削ってしまっているということになり、非常にもったいない気がします。

いびつな青色がプリンターの色域。
特に緑から青にかけて、黄色のAdobe RGBより広い部分がある。
プリンター:EPSON EW-M973A3T
プリント用紙:EPSON 写真用紙<光沢>


このプリンターの色情報を失わないくらいに広い色空間の定義もあるようで、その一つに広色域RGB (Wide-gamut RGB) というのがあります(Adobe Wide RGBとも呼ばれる)。この色域を設定すればプリンターの性能をほぼ発揮できそうです。

モニターに関しても、Display P3のモニターを使用している場合、作業色空間をAdobe RGBに設定すると表示できる赤をカットしてしまうことになるので、モニターの色域を内包するWide-gamut RGBを使用するとさらにメリットがありそうです。

Wide-gamut RGB(ピンクの三角形)がプリンターの色域(いびつな青線)や
モニターのDisplay P3(半透明のグレーの三角形)をほぼ含んでいる。

注)ただし、あくまでもモニターの色域外の色は見えません。



プリントに向けて

作業方針

現状の技術的な背景から以下のような制限があると思います。

  • 必ずしもモニターで全ての色域を見ることは出来ない。

  • プリンターの色域はAdobe RGBよりも広い場合がある。

なので、プリンターの色域を最大限活かしたいなら(なるべく人間が見た色に近づけたいなら)作業色空間をなるべく大きくしておいて、モニターで把握可能な色を見ながら調整し、実際にプリントしてどうなるかを確認するのがいいのかなと思います。

例えば、モニターがDisplay P3の色域であっても、作業色空間はWide-gamut RGBにして、実際にプリントしたもので確認する、といった感じ。
もっとも、元の写真がどんな被写体かにもよると思います。葉っぱの鮮やかな緑やコバルトブルーの海などには効果がありそうです。


プリンター用紙による違い

実は同じプリンターでも印刷する用紙によってプリントの色域が異なります。

以下にプロットしましたが、ヴェルヴェットファインアート紙、スーパーファイン紙、フォトマット紙は、Display P3のモニターを使用し、Adobe RGBの作業色空間を指定すると、印刷可能色域のほぼ全てをモニターで見ることが可能なまま色調整が出来そうです。

上記3紙はほぼDisplay P3(半透明のグレーの三角形)の範囲に収まっている。



検証

プルーフシミュレーション

次の写真を使って検証してみました。作業色空間対して対して印刷でどうなるかを見るやつです。条件設定は以下の通り。
作業色空間:Adobe RGB(この検証機能の設定にDisplay P3が無かったので)
プリンタープロファイル:EPSON EW-M973A3T + EPSON 写真用紙<光沢>

RawデータをsRGB、Adobe RGB、Wide-gamut RGB (Adobe Wide RGB) の作業色空間でJPEGに現像し、それぞれでプリントのプルーフシミュレーションを行いました。

元画像


灰色に塗られたところが、モニターで見たのと異なる色合いでプリントされますよ、って範囲です。

sRGBの色空間で現像したものがこちら。

sRGB


Adobe RGBの色空間で現像したものがこちら。

Adobe RGB


Wide-gamut RGB (Adobe Wide RGB)色空間で現像したものがこちら。

Wide-gamut RGB (Adobe Wide RGB)


上からの順序どおり、sRGB → Adobe RGB → Wide-gamut RGBになるに従って、灰色部分が増えていくことがわかります。

このことから、以下のように考えられると思います。
・色域が狭い色空間で作業するとプリントとの差は少ないが、印刷可能な色域を削ってしまう可能性がある。
・色域が広い色空間で作業するとプリントとの差は大きいが、印刷可能な色域を多く含むと思われる。

つまり、Wide-gamut RGB (Adobe Wide RGB) にすることでAdobe RGBやsRGBよりもプリンターの色域を削ることなくプリントできる方向になる、と言えると思います。


プリント比較

Raw dataをsRGB、Adobe RGB、Wide-gamut RGB (Adobe Wide RGB) の作業色空間に設定した状態でプリントしてみました。
プリント用紙:EPSON 写真用紙<光沢>
この写真の場合、見た目では差があるようには見えませんでした。笑

左から、sRGB、Adobe RGB、Wide-gamut RGB (Adobe Wide RGB)



結論

どのくらい広い色空間で作業するかは、状況次第かなと。

被写体の色が鮮やかなら(モニター上で確認できなくても)広い色空間で勘を頼りに色調整するとか、色域の狭いプリント用紙での印刷を予定しているなら、Adobe RGBの色空間を設定して(その色域に収めて)ほぼ全ての色がモニター上で確認できる状態で色調整するとか。

注)あえて狭いAdobe RGBにする必要はないように思えますが、実はAdobe RGBとWide-gamut RGB (Adobe Wide RGB) では白色点の位置(色温度)が異なります。前者は6500K、後者は5000K。印刷用途では5000Kと言われてますが結構黄色寄りな感じがしてしまいます。どちらで現像するかは好みかなと。

というわけで結論としては、これまで述べたような事を考えながら、

「プリントして確かめる」

ということかなと思います。



正しい色を見るために

モニターのキャリブレーション

以上、色について色々述べてきましたが、結局モニターの色がずれていたら元も子もありません。モニターは経年変化で色がずれてきますので、正しく写真の色調整を行うには、定期的にモニターの色調整(キャリブレーション)を行う必要があります。


この製品だとモニターの色域が実際どうなのかも確認することが出来ます。

所有しているMacBook ProではDisplay P3のカバー率99%でした。
計測誤差か分かりませんが、調整の結果、ほぼスペックを満たしているのが分かります。

赤:モニターの色域
黒:Display P3の色域


所有しているWindowsノートPCではsRGBのカバー率95%でした。
色度図の外側に広く伸びているので、より広い作業色空間(Adobe RGBなど)を使えばその部分は鮮やかに再現されますね。

赤:モニターの色域
黒:sRGBの色域



おわりに

いかがだったでしょうか。
最終目標をプリントに置いて検討してみました。印刷前からある程度当たりをつけてプリントしたり、少ない印刷回数で追い込めたりするとかっこいいですよね。笑

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

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