三日月
282.オレンジの海にはオレンジ色をした恐竜が棲むと話す子の傷
283.煮る前の鯏(あさり)を一瞬飼うやうな吾々が為す口づけや佳し
284.天と地が逆転していて美しい風はそのまま耳を二度咬む
285.三日月を見ればニャーコを思い出すブラシに刺さる隕石の跡
(全身の力を抜いて漂えぬ惑星だから酔っている春)
愛すると言った口
幸せを祈ったこの両手で
他人に唾を吐いたことがあるし
誰かを押し退けたこともある
「でもそういう強さがないと
バランス取れませんから」
とかなんとか言って欲しくて
五千円を支払ったこともある
【今、私は私の身体の端っこを片方ずつ持って
せーので引っ張ってくれる方を募集しています】
そのまま破ってください、びりびりって
人間が破れる音はきっと忘れられない
「申し訳ないけど」からはじまる
夢と希望のエレクトリカルパレードを見た
てんつくてんつく、たどたどしくて
てんつくてんつく、踊る気にはなれない
どうせパレードが終わればみんなひとりを旅する
しらけてる私は最高に澄んでる
この前ワークマンで靴を探してたら
お前なぞワークマンではないわと言われて
そんならウォークマンですかねと返したら
無視されて悲しかった、
何者にもなれないと思った
愛するとは難しいな
返信してタブを閉じて
あなたを抱きしめる想像をしたら
それは間違いだろ、って感じの
雨が降ってきたから
なんか言おうとしたら
口の中に冷たい雨が溢れてきて
溺れることの怖さと甘さを知りました
存在を肯定し合うために発明された
いいねフォローハッシュタグに
誰かが自殺したニュースが重なっても
まあ懲りないよね
懲りる訳にはいかないし
流されていると言われても仕方ない
分岐も合流もしたことがないから
どうしたら良いか悩んでいます
#たったひとりで
昨日は私と同じ髪型の子どもと一緒に
画用紙をちぎって遊びました
机の上にオレンジ色の海が広がっていて
恐竜と三日月が泳いでいて
思いの外美しくて、世界は
あなたにも見せたいと思った
そういう傲慢な自分を嫌だなと思った
こんな世界でも少しずつ変わろうとしている
近ごろのあなたがちょっと好きだ
私はといえば少し痩せたので
あなたの殻をこじ開けようとする奴らを
全員捕まえて大きな釜で煮て
うどんにまぶして食べたいと思います
ぜんぶ美味しかったことにできます
だからあなたが傷つく必要はない、って
私はまた傲慢な気持ちでいます
(天かすは”かす”の癖に美味しくてずるい)
白状すると私は化け猫でした
しっぽは昔の恋人たちに取られまして
今はまあ、つるりとしたお尻しかありませんが
三日月を見ると失った尻尾のことを
本当はあなたを取り戻したくなって
空の金魚鉢を抱えながら
ぼんやりとしています
いつまでも