「情報生態系の汚染」という話
まえがき:情報生態系の汚染
フェイクニュース。誰もが一度くらいは聞いたことがある言葉でしょう。高度に発展した情報社会では、フェイクニュースがしばしば問題視されています。
有名な話で言えば、2016年のアメリカ大統領選挙期間中に「ローマ法王がトランプを支持した」とか「クリントン候補はIS(イスラム国)に武器を売っている」と言ったデマがネット上で広く拡散され、選挙に、民主主義そのものに悪影響を及ぼしたのではないかと言われていることでしょう。
このようなフェイクニュースには当然問題があります。しかし、そもそも「フェイクニュース」とは何なのでしょうか。実は私たちはあまり「フェイクニュース」について詳しいことを知らずにこの言葉を多用しています。そして、この「フェイクニュース」という言葉の多用には問題があるという指摘もあります。
そこで本稿では、フェイクニュースとは何なのか、なぜフェイクニュースは生まれ、なぜ拡散されるのか、といった本質的なところからこの問題に向き合っていこうと思います。
第Ⅰ章:「フェイクニュース」の問題
本稿でカギとなるワードの「フェイクニュース」とは、そもそも何なのでしょうか。コリンズ辞書では次のように説明されています。
フェイクニュース 名詞
ニュース報道の体裁で拡散される、虚偽の、しばしば扇情的な内容の情報
(『Collins Dictionary』)
フェイクニュースとは「ニュース報道の体裁で拡散される、虚偽の、しばしば扇情的な内容の情報」であるというのが辞書的な意味でのフェイクニュースです。
また、計算社会科学の研究者であるノースウエスタン大学のデイヴィッド・レイザーらが執筆に名を連ねた「フェイクニュースの科学(The science of fake news)」では、フェイクニュースを「ニュースメディアのコンテンツを模倣しているが、組織としてのプロセスや意図が欠如した、捏造された情報」と定義しています。
どちらにも共通しているのは「ニュースの体裁を取っているものの、情報の正確性や信憑性を担保するための編集理念に基づいていない情報」ということです。
しかし、こうした定義だけでは不十分だと計算社会科学者の笹原和俊は指摘しています。
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