2017年11月の記事一覧
プリンセス・クルセイド #5 【魅惑のプリンセス】 3
突然現れたその女性は、明らかに挙動不審だった。目は焦点がまるで定まらず、瞳が常に宙を泳いでいる。腕はだらんと垂れさがり、足を時折よろけさせては奇妙なステップで姿勢を保つ。端的に言ってしまえば、こうして立っていることがある種の奇跡にすら見えるほどに不安定な格好だ。
「えへへ……なんだぁ、お前。いい年こいて……英雄気取りかぁ?」
舌が上手く回らないのか言葉を繋ぐことができず、息も荒い。しかしそ
プリンセス・クルセイド #5 【魅惑のプリンセス】 2
赤毛の少女の姿をイキシアが捉えた瞬間、すべては手遅れになった。折れたダガーの刃が宙を舞う。メノウはその軌跡を目で追ったあと、対戦者を見据えて静かに手を差しだした。
「いい勝負だった。私が勝てたのは、紙一重の結果に過ぎない」
「あ~……そうかな?」
対戦相手の少女は曖昧に答えながら右手で頭を掻いた。彼女の黒髪のポニーテールが左右に揺れる。左手には、刃が折られたダガーの柄。
「……ま、盛り
プリンセス・クルセイド #5 【魅惑のプリンセス】 1
『敗北は常に尾を引く。いかに気丈に見える人間でも、時には涙に暮れ、ベッドから起き上がれないこともあるだろう。人生とはそういうものだ』
父の蔵書の一つである『剣聖――言葉の剣――』の132ページに記載された名言を横目に見ながら、アンバーはしおりのように挟まっていたメモを取り出した。
『アンバーへ。このまま負けてはいられませんわ! 闘いに行ってきます』
「もう……イキシアったら」
アンバ