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読了のおっさん25 宝石の国(市川春子/月刊アフタヌーン)

今日も、おっさんが全巻読んで面白かった漫画をご紹介です。
個人の感想であり、感じ方はそれぞれなれどご参考に。

概要的なネタバレは含みます。


宝石の国(市川春子/月刊アフタヌーン)
2012年~2024 12巻(全13巻2024年秋最終巻発売)

① タイプやテーマなど
 ファンタジー、生命と死、解脱、仏教、宝石、人間、魂、営み、月、他力、無

② 簡単な内容
 人類が滅んでかなりの年月が経過した地球での物語。地球に宝石と呼ばれる鉱物生命体が発生した。宝石は僧侶の姿をした「先生」と呼ばれる存在によって導かれ、社会生活を営みつつも、月より襲来する正体不明の敵「月人」との戦いに明け暮れていた。
 こうした世界に新たに生まれた宝石で、主人公の「フォスフォライト」は、硬度も低く、若くて知恵に乏しかったため、自身の存在意義に悩んでいた。
 仮に得た博物誌編纂の仕事に納得出来ずも、周囲の他の宝石たちとの関わりや、月人の襲撃によって役割を変えつつ、今までの宝石とは異なった、物理的・精神的な欠損、補完を遂げ、異質な存在へと変わっていく。
 やがて、フォスフォフィライトは自身の変化や経験に伴い、「先生」の有り様や月人の正体に疑問を抱くようになり、この世界の成り立ちや人間の秘密といった真実へと近づいていく。

③ 読みどころ
 非常に難解なストーリーである。どうやら仏教をモチーフに物語が構成されていることは、前提知識があれば読み取れるのだが、なにせ現実世界との乖離があまりにも大きい。世界観の大筋がはっきり見えるのは物語の中盤以降である。
 また、先生が謎すぎる。月人ともう一つアドミラビリス族という種族がいて、都度説明はされるけど。。。? と言う感じ。admirabiliとは日本語で立派とか称賛すべきと言う意味だが、であれば立派な種族かというと、読んでいてさっぱり分からない(後に読み進めても、そう言うことかと腑に落ちるかというとなんとも言えない)。
 とにかく理解が容易ではないストーリーと世界なので、馴染むまでは時間がかかると思う。そう言う意味では読みどころになる部分は、世界観の速やかな把握にチャレンジする読者の過程全部かもしれない。

 読み応え自体はあると思う。理解を諦めなければ。

 例えば宝石が可愛いらしいと感じてとりあえず読めちゃう人はともかく、仏教への造詣から手繰り寄せるようなアプローチがない限りは、中盤までは難行苦行かもしれない(仏教だけに)。


④ 雑多な感想
 おっさんも多少は仏教の心得があるが、コミックスのキラキラした外装、パラパラとめくってみて女の子っぽいキャラクターばかり出てくるファンシーな世界観、多少読んだだけではさっぱり掴めない中身に、ハードルの高さを感じてしまう。
 友人のトガッサンのお勧めがなければ、生涯を通じて手に取るかどうかも分からなかった作品である。

そして繰り返すが、序盤だけではよう分からん。

 
 輪廻転生ではなく解脱の話だろうなどと気がつくのはだいぶ読み進めてから。
 終始可愛らしい絵で、バトルによって粉々になったとしても残虐さを感じない。加えて宝石は砕け散っても破片を集めれば復活する設定でもあって、生身の実感が全然ない。
 当初は世界観の理解や敵対勢力の見えなさ、キャラクターの性別不詳、人間とちょっと心の構造が異なる感じなど、キャラクターも含めて掴みづらい。宝石だけに無機的といったところだろうか。
 ただ無機的と言っても「変化」はクッキリと読み取れるため、何かの目的に向かって収束していることは予想できた。X(旧Twitter)でもレビューされていたが、成る程、十牛図に準えてある。また、その変化に辛うじて(辛うじてというと怒られそうだが)、キャラクターの中に人間らしさの断片を感じ取れ、そこから感情移入が進んで先の展開を知りたくなっていった。そして最新刊まで比較的スムーズに読むことだできた。
 
 少々ネタバレになるが、終盤は月人との関わりの中で、キャラクターも大分有機的になってきたと同時に、人間らしい地獄や絶望を思わせる描写も出てくる。ここまで読むと、その描写の果ての展開にある作者のメッセージが気になってしまう。

 誌面では完結したとはいえ、最終巻はもう少し先の発売。108話という話数や、コミックスの発売日も仏教に因んでいるらしいのだが、随分と拘りを感じる作品である。


⑤ その他
 面白いかどうかというより「読みたくなる」がおっさんの正直な一言感想である(まあ面白いのは間違いないのだが)。

 よくある漫画とは全然違うタイプの物語なので、例えばキャラクターの人気や好みに対する批評や、男と女のラブロマンスへの期待といった、ある意味大衆芸能的な見方はそぐわないように思う。とはいえ逆に、これは高尚な芸術作品だからと、気障な批評を許すような作品でもない様に思う。
 ではおっさんはどう見ているのかと言うと、なんとも言えないとしか言えない。前述と矛盾する様だが、雰囲気で読み切っちゃってもいいし、勝手に頭の中で仏教の理屈で考察してもいいし、読み手の性別や年齢、下知識などによって、結構自由な解釈ができそうに思うからだ。部分的にはちょっと捻った絵本のような面もあるし。

 これ映像化できるのかなとも思ったが、あっさりテレビアニメ化されていた。

 おっさんは未視聴だが、原作一通り読んで、これは見るべきなのかちょっと迷うところ。多分良いんだろうけど。。。おっさんが自分なりに組み立てた作品の世界観をアニメで安易に塗り替えたく無いなという感じもしている。


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