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真・読了のおっさん3 グレートギャツビーを追え ジョン・グリシャム 著/村上春樹 訳
おっさんが読んで面白かったと思う「活字本」を紹介します。
<概要>
■ タイトル他
小説
タイトル:グレートギャツビーを追え/(原作タイトル)CAMINO ISLAND
作者:ジョン・グリシャム 著/村上春樹 訳
出版年:2020年
分類:小説家、読書家、アメリカ、現代、ミステリー(盗難)、裏取引、スパイ、FBI、捜査、稀覯本
■ あらすじ
フィッツジェラルドの著書【グレートギャツビー】の直筆原稿が大学から盗まれる。窃盗犯の一部が、現場に残された証拠から逮捕され、
残りの犯人と、盗まれた原稿を追うFBIと、独自に調査を進める民間調査会社があった。借金だらけでスランプの若き女流小説家マーサーは、
大学講師の職を失い、小説家の道をあきらめていたが、本件を追う民間調査会社のエージェントから、高額の報酬でスパイ捜査の手伝いを依頼される。
稀覯本の収集家で書店経営者の男ブルースが、盗まれた原稿を所持していると踏んだ調査会社は、マーサーをブルースに接近させるが。。。
<読みどころや感想など>
■ 完全に現代モノ
ラップトップやスマートフォンは勿論、最新のセキュリティシステムやインターネットの技術が盛り込まれた世界での盗難事件。
この手のミステリーは、読み手の納得感と犯罪の仕掛けやプロットとのバランスから、一時代前の時代背景が用いられがちだが、
本作は完全に現代であり、犯人グループの一部が極序盤でアッサリ捉えらえたり、最新の操作で殆ど目星がついていたりする。
また、それ以外のシーンでも、インターネットホームページの描写や電子書籍の描写、eメールなどでの不自由のないやり取りがあり、
それでも緊張感や、先が気になる展開が続くところに、著者の技術や工夫が感じられた。
■ 稀覯本
キーワードとして「稀覯本」がある。海外で初版本や直筆原稿などを高額で取引するブローカーやコレクターが存在し、それなりのマーケットになっている
という作中の描写があり、物語に大きくかかわってくる。日本でもなくはないが、アメリカの熱量は明らかに高く、裏取引も行われているらしいとの物語だ。
良くある物語では、窃盗犯が狙うのは古美術品や宝石などになると思うが、それが稀覯本であるというのが面白く、小説家の主人公、今回敵方の書店経営者、
それらを囲う人物達が、書き物、或いは稀覯本を軸に対話や捜査上の攻防を繰り広げるところに熱中できる。
■ アメリカの作家たち
現代のアメリカでは、書店経営者と作家たちが蜜月の関係にあるようだ。売れない作家や、過去に売れたが今はスランプといった作家と書店が直接交流を持ち、
コミュニティやビジネスを形成している場面があった。日本でもそれなりに似たようなコミュニテイはあるとは思うが、有名出版社の権威主義的な業界体制といった
イメージがどうしても大きく、その意味ではこのようなアメリカの作家たちの有様は新鮮に感じた。
<その他>
■ 結末(ややネタバレ)
結末がかなり良い。窃盗犯罪や、非合法な(或いはそれに近い)取引で利益を得るものは現代もそれなりに多くいると思うが、良し悪しは別として、何とも言えない線で、
懸命に、強かに、自由に生きる人たちの存在を考えないわけにはいかなくなる。
また、とかく人と人とのつながりがドライになった現代でも、やはり情にほだされ、葛藤が湧くものであるものだと、感じずにはいられない。
そして存分に意外でもある。そのようなラストだった。かと言って、これは人によるかもしれないが、読後感もモヤモヤしないいい塩梅に思う。
■ 差し挿まれる小説談義
複数の小説家どうしの会話、複数の小説家のキャラクターを感じることができる場面がある。書き物を生業とする人は、海外ではこんな感じなのかと、
なんとなく想像できる。また、書店経営者のブルースはかなりの読書家でもあり、それに裏打ちされた、良い小説を描くための指南も書かれている。
どれもなるほどと思えるような内容である。
読書家は勿論、小説家になろうとしている人、本や出版業界、あるいは希少品(本作では稀覯本)のマーケットなどに興味がある人、
色々な人にお勧めできる名作と思う。
■ 村上春樹:訳
非常に有名で自身の作品も面白い村上春樹氏が翻訳している。翻訳はその作家に合ったもの、面白いと感じたものについてすることが多いと聞くので、
ある意味「村上春樹先生推薦の書」と言っても良いのではないだろうか。こうした面でもある程度読んで間違いない作品なのではなかろうか。