多分歌が聞こえる

もう歩けないよと言って力が抜けたまま、手を差し出した。この手を掴んで走って欲しかった、全速力で。僕の息切れも聞こえないフリをして、走り切って、息の上がった僕が地面に転がって、ぜえはあと全身で呼吸をする所を見下ろして、笑っていてほしかった。
僕のことめちゃくちゃにしてよ。背中、ワイシャツの下を、汗が流れる感覚がして心の中で、夏にどうにかされる前に、君が僕を、どうにかしてくれと願った
君ならいいよ、君が良いんだよと叫んでも、それが心の中だったら君には伝わらないだろう、じゃあ、なら、いくらでも叫んでいいだろう、そうやって、差し出した手もそのままに、願望を視線に込めて彼を見つめても、当の本人はしばらくジッ、と僕の手首あたりを見つめた後、おもむろにその手首を、指先で優しく触ったかと思いきや

「ふふ、日焼け止めを塗ってない腕が、太陽に照らされ続けるなんて、かわいそう。」

と、目を伏せたまま笑った。その背後には、黒い雲が、ゲリラ豪雨が、もうすぐ。

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