更待月のこぼれ話 〜又吉直樹「東京百景・草月ホール」〜
先日、とある劇団の舞台を観に行った。
場所は赤坂・草月ホール。
舞台を観に行くのは好きな方だと思うが草月ホールに行くのははじめてだった。
もちろん目当てはその劇団の作品だったので、会場のことは特に意識していなかった。仕事の帰りに間に合う場所だな、というくらいの認識だった。
それから数日後、寝る前にふと開いた又吉さんの随筆集「東京百景」に
赤坂・草月ホール
と書かれていることに気がついた。
そうか、あの草月ホールはこの草月ホールなのか。
わたしは特に東京百景の聖地巡礼もしたことがなかったし、自分がそこに行くなんてこと想像もしていなかったので、全く結びついていなかった。
たまたま偶然行っただけなのに、急に草月ホールに愛着が湧いてくる。
あらためて、東京百景の赤坂・草月ホールの話を読み返す。
そこは又吉さんが昔、4組のお笑い芸人の方々と組んでたユニットラ・ゴリスターズのコントライブでの出来事が書かれている話だった。
ライブ当日が又吉さんのお誕生日で、ライブ中にサプライズのお祝いがあるのでは…とソワソワするというお話だ。
それがあの草月ホールであったことだったのか。
いったいいつの出来事ことだったのだろう。
文章の中には「数年前」と書かれているだけだったので、試しに
「ラ・ゴリスターズ 草月ホール」で検索してみると、
2009年6月2日ラ・ゴリスターズ幻のライブ草月ホール
と出てきた。
間違いない。6月2日は又吉さんの誕生日だ。
2009年のあのステージに又吉さんはいたのだ。
そして13年後、わたしはその場所に行ったのだ。なにも気づかずに。
どうにかこれは運命だとこじつけたいが、全くもって運命的な要素はひとつもない。
2009年ということは又吉さんは29歳のお誕生日だったのだ。
29歳の又吉さん、おめでとうございます。
2009年のわたしはというと、今までの人生の中で一番懸命に生きた年だったかもしれない。
夫と生きた年だ。夫は又吉さんと同い年だ。
夫は翌年亡くなった。
もし、この草月ホールの話を夫が聞いたら、
「すごいやん。それは運命やで。」
ときっと本気で言ってくれただろうな。