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ウルトラセブンの反省・第5話「消された時間」~三つの脚本とシナリオの変遷
本エピソードは前回の記事でも数多くの問題点について色々解説をさせてもらいました。
本話の問題点を再度まとめると、
ビジュアル重視や番組アピールありきの演出でシナリオがおざなりにされている
シナリオが「宇宙人の暗躍」にばかり目が行き過ぎて、打開策にまで手が回っていない
キャラの設定が推敲されていない(ダンやフルハシ)
冗長なシーンが多くて纏めきれていない
仕上げの編集が雑
以上の点から突っ込み所の多いシーンがとても目立ってしまい、結果として完成度の低いエピソードになってしまいました。
脚本自体も未完成の疑惑がある出来栄えなのですが、本当に未完成なシナリオなのでしょうか?
三つの脚本の変化
第5話の脚本は「準備稿」「決定稿1」「決定稿2」の三種類が存在します。
準備稿はウルトラセブンの全シナリオの中でも非常に最初期に制作されています。
![](https://assets.st-note.com/img/1731416477-EpZ7exwclyamu6vOh9N5TbRC.png)
初期のシナリオは特にSF要素を全面に押し出したような物が多いのですが、作品のフォーマットもあまり固まっていないという印象も強いです。
準備稿・決定稿1
「消された時間」の準備稿と決定稿1の大筋はほぼ同じで、以下のようになります。
![](https://assets.st-note.com/img/1731254429-s2WoXqLhKZjytdDvGS36w7uC.png)
準備稿から決定稿1にあたって変更点は色々ありますが、完全に削られた内容は以下の通りです。
モロボシ・ダンが見習い隊員という設定
ユシマ博士が万能スポーツマンである設定
冒頭の時間停止シーンで円盤が出現してユシマ博士を洗脳する展開
ホテルにユシマ博士を送るシーンにアンヌがいる展開
警戒中のアンヌがダンとデートをしている気分な展開
ユシマ博士を倒したセブンが真相を話す展開
クライマックスの戦いが宇宙空間という展開
エンディングでホークが朝日と共に帰還してくる展開
準備稿の段階では実はセブンとビラ星人との戦闘シーンは存在せず、ホークと一緒に円盤群と戦う展開のみになっています。
決定稿1で追加・変更された要素はかなり多いです。
ユシマダイオードの設定が追加
ロケットの到着を知らせるアナウンスのシーンが追加
ホテルで警備中の防衛隊員に時間停止光線が発射される展開が追加
ホテルでのビラ星人の会話に、「ダイオード」と「ダン」に関する内容が追加
ユシマ博士が夢を見た内容が「ザリガニのお化け」から「地球防衛軍内に宇宙人がいる」に変更
直後にユシマ博士を怪しむダンの独白が追加
レーダー室のシーンの合間が、駐車場でハッとするダンから作戦室での会話に変更
レーダー室の機械が爆発する展開が追加
非常招集のシーンでフルハシが長官に怒られる展開とユシマ博士が「スパイがいてダイオードを盗まれた」という話が追加
ホテルでユシマ博士とダンが争い、ビラ星人の援護攻撃でダンが気絶する展開が追加
ホテルでダンがアンヌに起こされる展開を追加
見張りのフルハシはダンに起こされずアンヌに怒られる展開に変更
宇宙船団襲来のアナウンスと警備隊が出動準備するシーンが追加
セブンとビラ星人の戦闘シーンが追加
ユシマダイオードやスパイの設定は決定稿1から登場したものですが、両方ともこの段階ではポッと出の扱いであり、シナリオには全然活かされていません。
なお、この決定稿1まではフルハシは決定稿2と違ってちゃんとユシマ博士のボディガードの勤めを果たしています。
ただし、やっぱりかませ犬の扱いなので全然役に立っておらず、アンヌからは「やっぱりあなたには無理だったのね!」と眠ったまま罵倒される手厳しい展開になっています。
決定稿1のドラマの山場は、本編で言えばダンがユシマ博士とビラ星人の暗躍を突き止めて格闘する場面までとなり、それ以降が円盤群やビラ星人との戦いになります。
モロボシ・ダンの透視能力によって敵の暗躍が突き止められるという展開が打開策となっており、ダイオードやスパイの設定以外は、ドラマ全体の大筋としてはこちらの方がスムーズではあります。
決定稿2
最終である決定稿2においては、さらにシナリオが大幅に改訂されており、変更点はかなり多く、
博士が乗ってくる乗り物がロケットからジェット旅客機に変更
滑走路に旅客機が着陸するシーンが追加
出迎えをする場所がモノレール乗り場に変更
モノレールで移動するシーンが追加
ホテルで見張りをしてるフルハシが博士と一緒に寝ずに、隣の部屋で待機する展開に変更
博士がホテルで洗脳されてダイオードを捨てさせられる展開が、ビラ星人の光線で細工される展開に変更
レーダー室にダンが同行してダイオードを取りつける展開に変更
非常招集のシーンでユシマ博士がダンに疑いをかける内容に変更
パトロールに出る偵察機がホーク3号に変更(円盤に撃墜される展開は削除)
ダンがユシマ博士を怪しむ(2回目)のと、フルハシと廊下で会うシーンが追加
アンヌとの警戒シーンやホテル内での展開~博士が逃げる展開は削除
ユシマ博士が破壊しようとする場所が作戦室からホーク1号に変更(人払いをする展開は削除)
ダンがスパイ容疑をかけられて独房入りさせられる~セブンに変身して脱獄・事態を解決する一連の展開が追加
エンディングがメディカルセンターから、パラボラアンテナとポインターのシーンに追加と変更
決定稿2では主にダンがスパイ容疑をかけられるという内容に対して深く踏み込んだものになっています。
他にもモノレールや滑走路のシーンなどビジュアルに訴えた展開になっており、本話の演出を担当する円谷一監督がやはり地球防衛軍基地に対するアピールを盛り込もうと脚本家と話し合いをしていたことが見て取れます。
脚本が未完成であるワケ
さて、この最終決定稿となった脚本なのですが、実は所々に決定稿1のままで訂正されていない部分がかなりあります。
例えばユシマ博士が乗ってきたのはジェット旅客機に変更されているのに、ビラ星人などのセリフでは「ロケット」のままになっています。
他にも決定稿2ではレーダー室にダンがいるのに、合間の作戦室のシーンでは決定稿1のままでダン(本編ではアマギ)がいたりと脚本のチェックをしていないことがはっきり分かるのです。
脚本が改稿されるにつれて、その都度設定や展開が追加・変更されているので、それらが纏めきれていないこともはっきりします。
これが最終的に決定稿2で新たに追加されて後半の主体となった「ダンがスパイ容疑をかけられる」という展開までで止まってしまい、その打開策にまで行き届いていないシナリオの粗さにも繋がっているのです。
やはり第5話は脚本がシナリオ部分以外でもちゃんと添削されておらず、未完成だというのは確定と言えるでしょう。
まとめ
以上の点から、本話はシナリオ上で必要ない展開と必要ありな展開がそれぞれ存在します。
一番必要なのはもちろん「ダンが身の潔白を晴らす」「ウルトラ警備隊がビラ星人の陰謀を知る」という展開です。
反面、一番不必要なのは「ダンが脱獄して事態を解決する」展開です。
他にも冗長になっていて二度手間になっている「ユシマ博士の時間停止シーン」や「ダンの独白」などは一つに纏めて他のシーンと尺を合わせたりすることも必要です。
脚本には大体、「準備稿」「決定稿1」「決定稿2」とありますが「改訂稿」「最終決定稿」という具合に、ちゃんとブラッシュアップされた脚本がもう一つ必要だったことでしょう。
ちなみにこのエピソードの些細な問題点として「光学合成に費用がかかり過ぎ」というものがあります。
本話にはビラ星人がテレビに映るシーンや時間停止シーンなど、かなり多くのシーンで光学合成が用いられており見所ではあるのですが、そのせいでやたら費用がかかっています。
同時制作の第1話も光学合成に平均的なエピソードの2~3倍(145万円)は費用がかかっていますが、本話はさらにその倍(285万円)というとんでもないものになっているのですね。
#ウルトラセブン#マイティジャック
— 畔上達也 (@PL34zxXkAWJScz7) August 19, 2022
「定本円谷英二随筆評論集成」(2010年、ワイズ出版)より。
驚嘆するのは『ウルトラセブン』におけるオプチカルプリンターの使用料。1話辺り538万円の予算で「魔の山へ飛べ」205万円、「消された時間」285万円は高過ぎる!😲それに対し「狙われた街」が6万円とは🤔 pic.twitter.com/elBRm09I4B
東野さんこんばんは。お疲れさまでした。
— あんぎらす2世 (@56Na8PCROM2Q3Ln) October 14, 2023
特撮物は予算が減ると光線が減り着ぐるみのしっぽがなくなると言われてますね。
合成については昔いろんな本を読んだものです。オプチカルプリンターも使うのに使用料を取られるんですね(自社の番組なのに) pic.twitter.com/PCpVU8qsjF
ウルトラセブンは後半で予算不足になってしまったので、もう少し光学合成をしなくても良いような配慮も必要だったのかもしれません。