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『ウルトラマン』と『ウルトラセブン』第1話の比較~セブンの問題点とは?

第1期ウルトラシリーズの金字塔であるウルトラマンの第1話「ウルトラ作戦第一号」とウルトラセブンの第1話「姿なき挑戦者」には興味深い共通点がいくつもあります。

演出を担当したのはどちらも円谷英二監督の長男である円谷一監督で、脚本もメインライターの金城哲夫氏が手掛けています。

変わった逸話として両方のエピソード共に、前番組の放送話数が短縮された影響で、テレビ局に納品されたのが放送日のギリギリという点も同じです。

番組のスタートという最初にして非常に重要な部分だけに、両方の回で番組のアピールポイントを惜しみなく視聴者に見せていますが、比較してみるとウルトラシリーズとして、それぞれアピールしたいものとそれに伴う物語の転がし具合が大きく違っているのが分かるのです。



両エピソードの比較

まず、両方のエピソードのシーンは大まかにまとめると以下のようになります。

放送時間はウルトラマンが「25分21秒」 ウルトラセブンは「25分18秒」

一つ分かるのが、ウルトラマンとウルトラセブンが後半で登場する時間に大きな差があります。
ウルトラマンは放送時間の約25分までに8割が経過した所で登場し、ベムラーと3分ほど戦闘を行っています。
対するウルトラセブンは9割が経過してやっと登場しています。しかも、その後の見せ場は円盤内でクール星人を出会い頭に倒して、円盤を宇宙で壊すだけと非常に呆気ないです。

最大の違いは、ウルトラマンでは番組の主役の見せ場を十分に見せることができているのが、セブンの方ではそれができていません。なのでウルトラセブンの活躍という一点においては、ウルトラマンよりも完全に物足りないことになります。

何故、物足りなく感じるのかは一目瞭然です。ウルトラセブンは物語のテンポがウルトラマンより悪いのです。
セブンの方ではアピールしたい要素が多すぎたために、肝心の主役であるウルトラセブンの活躍という最大の見せ場を用意できなかったのです。


アピールポイントとは?

それぞれのアピールポイントをまとめてみると、明らかに違います。

ウルトラマンの場合

  1. 科学特捜隊の活躍

  2. ジェットビートルと特殊潜航艇S号の活躍

  3. スーパーガン(光線銃の活躍)

  4. 巨大怪獣・ベムラー

  5. 巨大ヒーロー・ウルトラマン

  6. ウルトラマンの目的

  7. ヒーローと怪獣の対決

巨大怪獣と人間の戦いや、そこに至るまでのドラマやサスペンスを描いたウルトラQからスケールアップしたウルトラマンですが、実際はQの延長線のような構成であり、そこに新兵器や巨大ヒーローをプラスしたのが大きな違いです。

ウルトラマンでは一番アピールしたかったのが番組の主役であるウルトラマンと科学特捜隊の活躍であり、登場怪獣のベムラーもまたウルトラマンの対戦相手として強い存在感を放っていました。

物語の起承転結も

  1. 事件が起きて、ウルトラマンが目的を話す

  2. 科特隊が出動してベムラーが登場する

  3. 科特隊とベムラーが交戦

  4. ウルトラマンが登場してベムラーを倒す

となっており、非常にテンポよく進んでいるのもはっきりします。

上記の表を見てもジェットビートルに特殊潜航艇S号、ウルトラマンがそれぞれ適度な時間で活躍しており、バランス良くアピールをしているため、番組構成上としては文句なしと言えたでしょう。

ウルトラセブンの場合

  1. 宇宙人の暗躍

  2. ウルトラ警備隊とその隊員たち

  3. 地球防衛軍の基地

  4. 地球防衛軍の組織の仕組み(参謀や長官など)

  5. ウルトラホークの活躍と発進

  6. ウルトラホークの分離・合体

  7. ポインターの活躍と発進

  8. モロボシ・ダンの初登場

  9. 都市破壊シーン

  10. ホーク対円盤の空中戦

  11. カプセル怪獣の活躍

  12. ウルトラセブンの活躍

ウルトラマンからさらにスケールアップしたセブンですが、アピールの要素が物凄く増えています。
宇宙からの侵略が作品のテーマである以上、宇宙人の暗躍が物語の主軸になるのはもちろんですが、その中で地球防衛軍やウルトラ警備隊、さらには防衛軍の秘密基地の紹介などが細かく描写されています。

ウルトラマンの科学特捜隊は冒頭で軽く説明されただけだったのですが、ウルトラ警備隊と地球防衛軍についてはどんな組織であるかもしっかり紹介しています。

メカニックについても専用車のポインターからウルトラホーク1号、さらには分離合体と惜しみなく新機能満載の特撮シーンが描かれます。

このメカニック関連については特に力を入れているのが明らかですが、これは製作初期はサンダーバードの影響が特に強かったことも関係しています。
そのため、この第1話で制作側が一番アピールをしたかったのが、ウルトラセブンでも新要素の一つであるカプセル怪獣でもなく、メカニックや防衛軍基地そのものであったことがはっきり窺えるのです。

物語を起承転結で分けた場合、

  1. 事件が起きてウルトラ警備隊に任務が与えられる

  2. ウルトラ警備隊がパトロールに出動、モロボシダンが登場して円盤に襲われる

  3. クール星人が総攻撃を開始し、ウルトラ警備隊が作戦を練って出撃する

  4. ウルトラ警備隊と円盤が交戦し、ウィンダムとウルトラセブンが敵を倒して事件が解決

となるのですが、上記のアピールポイントを詰め込んだおかげか各部における内容がウルトラマンと比べるとかなり込み入っており、物語の進行も説明や会話シーンが多いためかやや遅いです。
ウルトラマンの方では無かった都市破壊シーンも存在することから、なおさら他のシーンが割を食っています。

ウルトラ警備隊が最初に動き出す7分半頃は、ウルトラマンではとっくに科学特捜隊が出動した後でウルトラマンも目的を話しています。
さらに科学特捜隊は17分頃にはベムラーと戦闘を開始していますが、ウルトラ警備隊がクール星人と交戦するのは19分も経ってからと、大きな差があります。

この物語を進めるテンポの違いが、両エピソードの明暗を分ける重要な要素となりました。


ウルトラセブン第1話の問題点

この第1話と、同時制作の第5話「消された時間」は両エピソード共に制作側のある思惑が見えてきます。
それは「番組のアピール」です。

第1話と第5話は番組のアピールありきで作られているような演出が多々見られ、結果として作品の完成度がやや粗くなっているのです。

第1話は地球防衛軍基地、ウルトラホーク、ポインター、カプセル怪獣とアピール要素を盛り込み過ぎているので、それぞれがややダイジェスト気味な演出になっています。

特に新要素のホークの分離合体やカプセル怪獣のウィンダムはすぐ終わってしまうので、十分にアピールが出来たとは言い難いです。

ウルトラセブンの存在感も第1話にしてはかなり影が薄く、あくまで物語を幕引きさせるための役割でしかありません。
故にウィンダムと同じく中途半端なアピールだったと言えます。

しっかりアピールができたのは、特撮部分で言えばウルトラホーク1号そのものやポインターの機能、ドラマ部分は地球防衛軍の組織そのものや都市破壊シーンだったと言えます。

実は、この一番アピールできた部分が本話におけるもっとも冗長なシーンとなっています。

都市破壊シーンは迫力があるのですが、その合計時間は何と約1分20秒とかなり長いです。

円谷一監督は第5話の編集時にも「せっかく撮った特撮シーンは使わないと勿体ない」と本編のシーンをカットして、話が繋がらなくなってしまうミスを犯しています。
この都市破壊シーンが長いのも、恐らくは同じ理由なのでしょう。

都市破壊シーンはライブ映像としても再利用ができ、実際に第10話では本話の破壊シーンが流用されています。
なので、本話はそんなに長くしないで、適度な時間で切るべきだったと言えるでしょう。

他にも本話ではゲストであるヤマオカ長官や、他の参謀たちが画面に出ている時間が多く、結果的にウルトラ警備隊の影が薄くなっています。

  1. 序盤でキリヤマ隊長と話す(1分52秒)

  2. Bパート冒頭でキリヤマ隊長と話す(57秒)

  3. クール星人と話す(1分04秒)

  4. コンビナート破壊後に話し合う(28秒)

等々、ウルトラ警備隊よりかなり目立っています。

このように冗長なシーンが多いため、以下のシーンが放送では尺の都合でカットされています。

  1. ダンとアンヌのメディカルセンターでの会話(あなたの地球~に繋がる)

  2. ウルトラセブンの命名シーン

  3. ダンの決意表明

いずれも主役であるダンとセブンに関するものばかりで、これらの重要シーンがカットされたために、余計にウルトラセブンの存在感も薄れているのです。

カットされた一番の理由は尺不足だったそうですが、もう一つの理由が「何でもかんでも説明するばかりではいけない」というものだったそうです。

納得できる理由ではあるのですが、その判断も徹底できたとは言えません。
何故なら、「ウルトラ警備隊について、細かく説明するシーン」があるからです。

序盤でナレーションがキリヤマ隊長や他の隊員達を出身地や年齢と一緒に紹介するシーンがありますが、実はこれは脚本には存在しないものでした。

アンヌの紹介はちょっとしたギャグになっているのですが、ナレーション以外の隊員の紹介については名前がそれぞれ呼ばれており、フルハシについてはダンがどういったキャラなのかを口にしています。
結果的に二度手間になってしまっているのです。

後のウルトラマンAではTACの隊員を紹介するシーンがありますが、人物がどういうキャラでどんな特技があるのかは、エピソードの中で少しずつ明かしていけば良いだけなので、本話については余計なシーンだったと言えます。

やはり、本話の演出を担当した円谷一監督は、ウルトラセブンでもカプセル怪獣でもなく、地球防衛軍そのものをアピールしたかったのであろうことがはっきり分かります。

ちょっと積極的にアピールすべき所がズレていたように思われます。


余談

第1話~第3話の細かい問題点として、「エンディングの構図が全く同じ」というものがあります。
これらのエピソードの最後のカットは、ウルトラホークかウルトラセブンが空の彼方に飛んでいくというものになっているため、3話連続で同じ演出が続くので、番組構成上でもかなりワンパターンなものとなってしまっています。

第1話 下に霧がかかっている
第2話 霧が少ないので、流用ではなくそれぞれ別カットなのが分かる
第3話 ホリゾントが同じだが、山の形が違う

このようにウルトラセブンの第1話は他のエピソードとも比較しても、演出のバランスが悪いことがよく分かります。

アピールしたいことを欲張り過ぎて、取捨選択ができず、結果的に作品の完成度が悪くなったのだと感じることができます。

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