ウルトラセブンの反省・第11話「魔の山へ飛べ」~実質的なセブン最後の操演怪獣
ウルトラセブンではウルトラマンと違って操演タイプの怪獣・宇宙人と戦う機会が多くなりました。
第5話のビラ星人で初めてまともな操演キャラとの戦闘シーンが作られた訳ですが、操演は手間がかかるため、この第11話におけるナースを最後にマリオネットで動く操演オンリーの怪獣や宇宙人との戦闘シーンは作られなくなっています。
21話のアイアンロックスのように動かなかったり、23話のガブラはマリオネットですが首だけなので、ナースこそが本格的なセブン最後の操演怪獣と言えるでしょう。
怪獣ナースの特撮
上記の記事でも書いていますが、本話におけるナースの特撮ははっきり言って非常に出来が悪いです。
円盤の形態はまだ及第点といった所ですが、肝心の竜形態はウルトラホークとの空中戦では釣り糸をメチャクチャに動かしているのがハッキリ分かってしまうほど、雑なアクションとなってしまっています。
セブンとの戦闘時間こそ約98秒と平均よりは長い方ですが、肝心の内容は
円盤形態(約38秒)
セブンの周りをぐるぐる回って目を回させる→竜形態に変形。竜形態(約60秒)
セブンの体に巻き付いて締め付け→セブンが振り払ってバラバラにする。
というものです。
どちらの形態もアクションが乏しい上に間延びしているため、迫力に欠けた戦闘シーンと言えます。
このナースの特撮は、円谷英二監督にも「トリックシーンがなっていない」と酷評されているほどです。
本話の特技監督はウルトラQから参加している的場徹さんですが、ウルトラマンの最初期に一度降板しており、以降は快獣ブースカに参加していましたが、本格的な怪獣の特撮にはブランクがあったため、セブンの初期はやや衰えたのが分かるほどパッとしない演出になってしまっています。
ウルトラマンで降板する直前にはネロンガの特撮を担当しており、こちらではちゃんと尻尾のアクションを行わせたりと、怪獣の特徴をしっかり活かした演出を行っていました。
ナースは本編中でも尻尾を振り回すカットがあるので、普通にセブンを尻尾で叩いたりするアクションがあっても良かったかもしれません。
ウルトラセブン撮影日誌を見てみると、ナースの特撮は現場で事故が起きたりとトラブルの連続でかなり余裕がなかったことも乏しい演出になってしまったことにも繋がっていたのかもしれません。
ですが実のところ、ナースとの戦闘は全くアクションがつけられなかったのかと言うと、そうではありません。
スチール写真ではセブンが本編と違ってナースを掴んだり、円盤に光線を撃とうとしたりとアクションを取る物があるので、やろうと思えばできたと言えます。
他にも本作のナースの戦闘が乏しかったのは、脚本にも原因があると言えます。
脚本におけるセブンと敵怪獣・宇宙人の戦闘シーンの描写はエピソードごとにまちまちで、特撮現場におまかせとばかりに一行だけしか書かれていないこともあれば、しっかり戦闘シーンの様子を描いて大まかなイメージが作られていることもあります。
有名どころではキングジョ―やギエロン星獣、ギラドラスや恐竜戦車、リッガーなどちゃんと脚本上でもアクションを描写してセブンの戦いのイメージがしっかり作り上げられており、それが本編の激しい戦闘シーンとして実を結んでいます。
ナースに関しては円盤がぐるぐる回っている内に変形し、セブンに巻き付くという本編とほぼ同じようなイメージで描写されています。その結果が、本編での乏しいものとなった訳ですが。
同じ脚本家によるワイアール星人やエレキングも、実は脚本上ではナースのように細長い蛇のようなイメージで描写されており、蛇怪獣が巨大ヒーローと激しく戦うイメージが構想しきれなかったことがうかがえます。
やりすぎた光学合成
本エピソードは第5話「消された時間」と同じく、光学合成に多大な予算がかかっているという点があります。
レーザーの光線作画を合成するのはもちろんのこと、ワイルド星人が使用するカメラで人物がネガ反転したりと、エピソードのほぼ全域に渡って光学合成のシーンが用いられています。
光学合成シーンはウルトラシリーズの見せ場ではありますが、そのシーンが多いほど予算がかかってしまいます。
他のエピソードは平均して30~50万円程度、光学合成が多い初期のエピソードでも高くて100万円台半ばですが、11話や5話は予算が200万円以上もかかっているため、その影響でウルトラセブンが中盤以降に予算不足に陥ってしまうという事態も引き起こしていました。
しかし、製作スタッフが予算を抑えるために何も工夫をしていなかったのではないことも同時に見て取れます。
11話と同時製作の第9話「アンドロイド0指令」は特撮班がない本編班のみで製作されている低予算なエピソードです。
基本的にウルトラQ~ウルトラセブンの予算は1話につき538万円とされており、仮にこれが本編と特撮で二等分された場合、269万円ほどになります。
9話が270~300万円程度の予算で作られたと仮定した場合、浮いた分を11話の特撮に回したとすれば、ここまで思い切った光学合成のシーンが作れたことに納得ができるものとなっています。
他の監督のエピソードを見てみると、鈴木俊継監督は異次元空間が舞台となる第10話「怪しい隣人」において、光学合成をあまり使わない技法でSFチックな映像を演出し、その上で安く仕上げられているという無視できない事実があります。
円谷プロは光学合成のオプチカル・プリンターが全ての始まりだけあって、合成映像は見どころではあるのですが、やはり手間や予算もかかるというジレンマもあります。
11話はせめて光学合成の予算を半分か2/3くらいに抑えられるように工夫できれば、番組後半の予算不足が多少は緩和されていたかもしれません。
まとめ
以上の点から、本エピソードの問題点は
ナースの演出が貧弱すぎる
ストーリーの都合で光学合成をし過ぎ
だというのがはっきり分かります。
セブンとの戦闘は円盤と竜形態共々、アクションをいくつか付け加えて間延びしないような工夫が必要だったでしょう。
ハイスピード撮影によるスローな動きが一番ベストだったでしょうが、そこまでやる余裕は無かったはずなので、操演はビラ星人のようにもう少しゆっくりでも良かったように思われます。
また、本エピソードには制作の諸事情でアンヌ隊員が何故か登場しない点もありますが、今回の主軸は男の友情でもあるため、アンヌは宇宙パトロールに出ていると考えれば不自然ではないでしょう。
ドラマで気になる点と言えば、尺の都合かダンが復活してセブンに変身するまでの間の様子が省略されてしまっていることです。
ウルトラセブンでは他のエピソードでもダンが事件現場から遠く離れた場所で変身してかけつけることがありますが、今回はかなり端折りすぎと言えます。
傍から見ると、アマギ隊員の目の前で変身したとも見えてしまいます。
脚本上でも全く同じになっており、ダンが現地に向かう様子を補完する場面を何か用意できれば、不自然な部分をフォローできていたかもしれません。