『千夜千字物語』その20~誘拐
日曜日の昼下がり、音羽家の電話が鳴った。
ミドリコが出ると
「…を誘拐した」
と受話器の向こうから男の声がした。
ミドリコは“誘拐”という言葉に一瞬驚いたが、
リビングを振り返れば娘も息子もテレビを見ていた。
「誰を誘拐したんです?」
「旦那だ」
思い出すように「あ~」とだけ言って
ミドリコはしばらく考えた。
「一応聞きますけど、おいくら?」
「3憶だ」
「高っ!」
「旦那がどうなってもいいのか?」
「正直言ってしまえばね~」
「お、おい、それは困る。
じゃあ、1億でどうだ