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江國香織『パンプルムース!』いわさきちひろ

こんにちは。
此島このもです!

今日は江國香織さんの詩集『パンプルムース!』をご紹介します。

こちらはいわさきちひろさんの絵を江國さんが選んで詩をつけた本です。

パンプルムースという楽しそうでかろやかなタイトルと、いわさきちひろさんのふんわりにじんだ絵に惹かれます。



この本を購入した理由は江國香織さんの本だから。
私は好きな作家の本は集めたくなってしまうのです。

読むと、ああたしかにこれは江國さんの本だ、と確信することができます。

江國香織エッセンス、みたいなものをそこかしこに感じるのですよね。


例えば『あかるいからだのなか』という詩。

けがをしたら みてみて
からだがちいさくやぶれている
ちがでたらすてきね
ひふのしたで
おがわのように
ざあざあながれている ち
(後略)

文庫版53頁

江國さんは子供の頃に、筋肉を作る食べ物とか骨になる食べ物とかを献立表を見て把握し、食べたものたちが筋肉や骨になる様を真面目に想像しながら給食を食べていたそうなんです(何かのエッセイで読みましたが何に書いてあったか忘れました。みつけたらタイトルを書いておきますね)。

私自身は子供の頃は自分の皮膚の下に肉とか骨とかがあることは考えたくもなかったので(気持ち悪いと思っていました)、そのエピソードを読んだときになんと健やかな子供なんだろうと思ったんですよね。

血とか肉とか骨とかに対するイメージが、「グロくて気持ち悪い」じゃなくて「自分を形成する健康なもの」というイメージなのだと思います。

この詩でも皮膚の下の血を「おがわのよう」とか「くすくすわらいしたり」と表現して、まったく気持ち悪い感じがしません。

こういうところが江國香織さんだなあと思うんです。


それから、私が素敵だと思う詩は『おさけのみになるほうほう』です。

すてきなよっぱらいをみること
ゆかいはすてきとしること
からだをおんがくでみたすこと
せかいはすてきとしること

文庫版40頁

これを読むと詩っていいなと思えます。

なぜなら、実際より何倍もこの詩に出てくる「おさけのみ」が良いもののように思えるからです。

「おさけ」のイメージを構成する様々なものから面倒くさいものや悪いものを取り除いて、江國香織フィルターを通して素敵な成分だけを抽出して完成した詩の印象があります。

私の夫はお酒が飲めなくて、ひと口で赤くなって気分が悪くなってしまいます。

私自身も前の職場で飲み会に駆り出され、お酌を強要されたり酔っ払いのセクハラトークに耐えたりと良い思い出が全然ありません。

だから私がお酒に対して持っているイメージは全然「すてき」でも「ゆかい」でもないし、「おんがく」に関係してもいません。

私が真面目に「お酒飲みになる方法」を書こうとしたらたぶん「空きっ腹にアルコールを入れないこと。頻繁に水を飲むこと。無理しないこと。一気飲みダメ絶対。おつまみは塩分が高いので注意」のようなものになると思います。

でも『おさけのみになるほうほう』は詩です。

詩だからこれでいいんですよね。

これを読むと「おさけ」ってなんて素敵な飲み物なんだろうと思えます。

いわさきちひろさんの絵にもぴったりです。


それから、『コップがひとつあります』。これも好きです。

ハッとさせてくれる詩です。

(前略)
コップにいれると
のむものはみんな
コップのかたちに なる
(後略)

文庫版28頁

コップのことをひたすら描写する詩です。
その中で「コップに入れると飲み物はコップの形になる」これを読んで確かに! とハッとしました。

コップは飲み物を入れるものだ、と思っていたんですけれど、飲み物をコップの形に形成するものと言っても正しいわけですよね。

そうやって価値観を転換するのは面白いと思います。

別に「コップは飲み物をコップの形にする!」と気づいたところで何がどうなるわけでもないんですが、それでも面白いものは面白い。

この詩はコップに口をつけた時の感覚も描写されていて、私はああたしかに、と思います。たしかに、「コップにくちをつけると くちびるとくちびるのあいだで コップのあつみと かたさが わかる」なあ。

それは当たり前のことなんですが、普段コップに口をつける時そんなこと考えていなかったな、でもこうして文章を見せられるとたしかに私はコップの厚みや硬さを唇と唇の間で感じているな、と自分を再発見できます。

なんだかそれってマインドフルネスみたいだと思うんです。

マインドフルネスってわかりますか?

瞑想です。目を閉じて「今ここ」に集中するものです。

私が以前使っていた瞑想アプリでは、ガイド音声が入っていて「今ここ」に集中しやすくしてくれました。

その中で、「唇と唇が合わさっていることを感じて」とか「上瞼と下瞼が合わさっていることを感じて」とか言われるんです。

普段はそんな感覚気にしたことがありませんが、たしかに唇と唇が合わさっている感覚も、上瞼と下瞼がくっついている感覚も、集中すると感じることができるんですよね。

この詩はそんなことを思い出させてくれます。

普段は気にしていないけれど、たしかにそこにあるもの。

そういうところが好きです。


他にも江國香織エッセンスを感じられる詩はたくさんありますし、いわさきちひろさんの絵も素晴らしいものばかりです。是非是非読んでみてくださいね!

こっちの記事でも『パンプルムース!』の詩を紹介しています↓


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