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海に行って友達とハモニカ適当に吹き鳴らしたことある?/江國香織『すきまのおともだちたち』
安心させてくれる本。
友達っていいねと思わせてくれる本。
じんわり心をエネルギーで満たしてくれる本。
こんにちはー!
記念すべき初記事です!
さて、私のブログを素敵なお友達で埋め尽くすぞ! と思い「このものおともだちたち」のタイトルをつけたから(この記事が初見の方は知らんがなという感じだと思いますが、つけたんです)には、まずやはりタイトルの元となった本について書きたいと思います。
江國香織の『すきまのおともだちたち』です。
(ブログタイトルに関してはこちら↑をご覧ください)
好きポイント①
この本の世界観は、ちょっと変わっているんです。
ストーリー
この本では、新聞記者の女性があるときふいに「すきま」に落ちるように知らない場所に来てしまいます。そこには女の子やお皿や年取った風呂敷や豚の紳士がおり、ちょっと変わった世界観で暮らしています。
「ちょっと変わった」とはどういうことかというと、例えば女の子にはメグミとかサチとかそういった名前がありません。主人公が名前を尋ねると「あたしはおんなのこよ」と答えます。
また、本の中に寂れた村が登場しますが、あなたは「寒村(カンソン)」という言葉をご存知でしょうか? まさしく寂れた村のことを指す言葉です。
このお話に登場する寂れた村は、本当に「寒村」という名前なのです(そしてリゾート地は「リゾート」という名前をしている)。
女の子の名前が女の子であるのと同じように。
そして、寒村の住民は言います。「(村から人が出て行き空き家やシャッターのおりた店が増えたという説明のあと)でも、それは全然悲しいことじゃないんだよ。だって、寒村てそういうものだろう? 村には村の仕事があって、それはさびれることだったんだ」
つまり、この世界ではまるで言葉が先にあってその言葉を体現した人や物がそこにいる、といった様子なのです。
寒村に住む兄弟も「そもそものはじめから、二人兄弟としてこの世に存在している」のです。「アニキが生まれたとき、そこに両親はいなくて、弟の俺だけがいた」そうです。
私ははじめて読んだとき、なんとも不思議なその世界観の虜になりました。
好きポイント②
変わらないものって安心しませんか?
この本には歳月を経ても変わらないもの(人)が出てきます。
登場人物
この本の主な登場人物は、主人公の新聞記者と、すきまの世界に住む女の子です。
主人公は人生の中で何度もすきまの世界に行くことになります。
ある時は若く仕事が面白くなりはじめた時期。またある時は結婚したばかり。その後妊娠出産、退職…。人生に起こるさまざまなイベントをこなしながら、短いときで一年、長いときでも八年の間隔をあけてその場所に唐突にすべり落ち(そしてまた唐突に現実に戻ってき)ます。
けれども、女の子はずっと女の子です。そして主人公に「あなたはほんとに変わってるのね。会うたびに全く様子が違っているなんて、どう理解すればいいかわからないわ」と言います。
「だって、考えてもごらんなさい」
「そりゃあ世の中にはいろいろいるわ。子供も大人も、猫もカエルも。男もいれば女もいるし、おじいさんもいればお母さんもいる」
「でもね、女の子がお母さんになったり、おじいさんが中年の婦人になったりしたら、おかしいでしょう? 猫がカエルになったり、カエルが猫になったりしたら、わけがわからなくなっちゃう」
すきまの世界では、若い女性が中年の女性を経ておばあさんになることは猫がカエルになるくらい常識外れのことのようです。
女の子はずっと女の子。年をとらずずっと少女のままの友達。それってすごく不思議です。
でも私は、それがなんだか安心な気がしました。
たとえば、子供の頃すごく気が合って親友だった友達が、進学や就職に伴って離ればなれになると久しぶりに再会してもなぜだか話が合わない…そういう経験はありませんか?
私にはあります。
あんなにいつもいつも一緒にいて、将来一緒に住むならどんな部屋がいいかまで語り合ったのに、今ではもう遠い人みたいだ。
悲しい気持ちになりました。
けれども、この本の中ではずっと変わらない女の子がいて、ずっと友達なんです。
安心だなあと思います。
好きポイント③
友達っていいな〜〜〜〜と思える
主人公ははじめて女の子に会った時にはもう大人です。「新聞記者と女の子の友情」の情報しかなければ二人がどんな友情を築くのか想像しにくいかもしれません。
女の子は子供ですが人間としてとっても魅力的なんです。自分の意見をちゃんと持っているし、主人公を尊重してくれる。
どちらもとても大切なことです。
たとえば、そんな女の子と海に行ってハモニカを出鱈目に演奏するのはどうでしょう?
雷のなる強い雨の中を、一緒に歓声を上げながら自転車をこぐのは?
友情の素敵だと思う点は、思わぬ楽しみを発見させてくれるところです。
自分ひとりでは楽しくないことが、友達と一緒だと思いがけず面白くなることがあります。
観光地で自転車を借りて自然の中を走り回ったことがあるのですが、まさしくその経験がそれでした。一人ではやろうと思わないですし、誘われたのが家族でも断っていたと思います。
でも友達が誘ってくれたので乗りました。人生初の二人乗り自転車です。
めちゃめちゃ面白かった。その旅行の思い出の中で自転車に乗ったことが特別な輝きを放っています。心の中の宝石みたいに。
きっと二人乗りの自転車だったことが面白さに関係していたと思います。
非日常の中で協力して一緒に何かすることが面白いんです。
意図がすれ違うこともあるけどそれも楽しい。勝手に相手が休んで自分だけ大変にされる時があるけどそれも楽しい。隙を見て反対に自分が休んでみたりとか、とにかくなんでも楽しいモードです。
それがこの本の中の「一緒に海に行ってハモニカを出鱈目に吹き鳴らす」ことなんです。
ハモニカは女の子が主人公を誘った遊びですが、
反対に、主人公から提案して女の子の経験したことがないイベントを一緒に行う場面もあります。
女の子はその提案にはじめは動揺します。しかしいざ行ってみると勇敢にそのイベントを味わい尽くし「すごくおもしろいわ」と言うのです。
友達が提案してくれた未経験の遊びが、自分の知らないすごく楽しいものだった。
そんな経験も私にはあります。
例えばモンスターハンターというアクションゲーム。
私はアクション系のゲームが苦手で敬遠していました。しかし友達が誘ってくれたので始めてみるとはちゃめちゃに面白い! やはり操作が私には難しかったのですが、難しい操作をマスターして出来ることが増えていくのがすごく楽しいです。
それから、オンラインで遊ぶリアル脱出ゲームです。
遠く離れた場所に住んでいる友達にネット上なら一緒に出来るからと誘われました。
インターネットを使いつつ、キットの用紙を切ったり並べたりする謎解きゲームだったのですが、こんなふうに楽しい遊びのためにハサミを使うのって何年ぶりだろうと思いました。謎の難易度もちょうど良く歯ごたえがあり面白かったです。おすすめ!
私の知らない楽しいものを教えてくれる友達には本当に感謝しきりです。
この本の二人はそんな友情の良いところを再確認させてくれるんですよね。
読んでいると未経験の遊びに突入するためのエネルギーが湧いてくる、気がする。
あーー友達っていいなーーーーーーー。
おわりに
『すきまのおともだちたち』の私の好きポイントは以上です。ちょっと変わった世界観の中で変わらない友達がいてくれる、これはそんな本なのです。
他にも「すきまに渡ってしまう瞬間の描写が面白い」とか、「主人公が思いがけずお皿を怒らせてしまうが、考えてみたら怒られて当然の声かけだった」とか、面白いところはたくさんあります。
それから、女の子が「手に入れたものがあるの」と語り出す最後のシーンも絶品です。
欲しかったものを手に入れて嬉しいはずなのに、切なくなる。
私は友達のことを考えるとき、自分を主語として考えがちです。「私はあの友達が好きだ」「私はあの友達に面白いものを教えてもらった」というように。しかし友情は双方向なものです。
友達が私と友達でいるのは私が望むからという理由だけではなく、友達自身も私を必要としてくれていて、友達も私から影響を受けているのだ、最後のシーンはそれを思い出させてくれます。
そんな大切なことを思い出させてくれるこの本はやっぱり素敵ですね…しみじみ。
おわりに、関連(すると私が勝手に思っている)書籍を紹介してこの記事を終わります。
読んでくださってありがとうございました!
関連書籍
『絵本を抱えて 部屋のすみへ』江國香織
この本を読むとよく歌をうたう女の子への理解が進むと思います。魅力的な絵本の紹介もたくさんあってサイコーです。『ホテルカクタス』江國香織
『すきまのおともだちたち』の世界観が好きならたぶんこれも好きなのでは。帽子ときゅうりと数字の2の友情です。意味わかんないですよね。数字の2って。気になったあなたは今すぐポチりましょう!