落ち込んだときにはこんな歌/雪舟えま『たんぽるぽる』
こんにちは。
此島このもです。
先日、落ち込んでるときの心情には短歌がよく合うと記事を書きました。
上で紹介したのは穂村弘さんの短歌でしたが、穂村さんとはまた違った形で落ち込んでいる心に響く歌集があります。
それは雪舟えまさんの『たんぽるぽる』です。
雪舟さんは穂村弘さんの『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』のモデルになった人です。
穂村さんは雪舟さんから届いた不思議な手紙から着想を得て手紙魔まみの短歌を作ったのだとか。
『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』には危うい不穏な雰囲気の短歌も多いので、その着想の元になった人はさぞかし危なげな人なのか……と思いきや、雪舟さんは一見普通な、だけどめらめらと燃える愛をお持ちの方です。
その愛が『たんぽるぽる』にもあらわれていて、たとえば
エネルギー値が高い短歌だなあと思います。
その高いエネルギーはまつげに雪が乗っている「あなた」を伝説まで引き上げる。
でもわかるような気もするんですよね。好きな人と接しているふとした瞬間にぐわっとテンションが上がること。
その燃える愛は雪舟さんの小説『タラチネ・ドリーム・マイン』でも感じることができますが、この本についてはまた後日紹介しますね。
今日は短歌です。
私が好きなのはその包み込んでくれる優しさです。
前回ご紹介した穂村さんの短歌は一緒に落ちてくれる感覚ですが、雪舟さんの短歌は違います。
例えば
○「春の雨〜」は読んだときうわあいいなあと思ったんですよ。私は他人の苗字に対して素敵かどうかなんて考えたこともなくて。でも素敵と言われたら絶対嬉しい。
いやいやだけど、急にあなたの苗字素敵ですねって言ったら変な人だと思われない? しかも雨の中? そのために行くの?
そう、そのために行くんですよ雨の中。気持ちのいい春のしとしと雨の中を他人の苗字を誉めるために歩く。衝動的に。その自由な感じや自分の気持ちに正直な感じ、そしてその結果村上さんは嬉しくなるだろうなと思えること。全部が好きです。自分にも他人にも優しい印象があります。
○「おにぎりを〜」はすごく自由ですよね。おにぎりとソフトクリームを同時に食べるの? そもそもソフトクリームでおにぎりを飲み込むってできるの? 不思議に思いますが、でもこれは短歌。自由なんですよね。可能かどうかは関係がない。
そして可能なのかどうかを疑う私の気持ちを見透かしたように「可能性とは〜」と続く。
私は励まされた気持ちになるんです。
おにぎりをソフトクリームで飲み込むような、常識に縛られない自由な感性の人に「可能性とはあなたのことだ」と言われるのは嬉しいからです。
○「うちで一番〜」からは包み込むような愛を感じます。
面接に行くのは緊張するのでいいお茶でリラックスして、でも面接中にトイレに行きたくなったら困るのでおしっこを済ませて。
暖かくしては相手の身体をズバリ労っていますし、最後の「面接ゆきな」で「な」で終わっているのがすごく好きです。親しい間柄であることが伝わってくるから。
(親しい間柄の「〇〇しな」という言い方は方言で、慣れていない方にはきつい命令形に聞こえると以前聞いたことがあります。たぶんこの短歌の語尾はそれですね。「面接ゆきな😡」ときつく命令するのではなく、優しい感じで「面接ゆきな☺️」です)
○「ホットケーキ〜」は雪舟さんの短歌でトップレベルに好きです。
ホットケーキ持たせて送りだすというのでお弁当? と思ったら涙を拭く用……(夫の好物がホットケーキで、ホットケーキをお弁当にしたら泣く夫を励ますことができるので比喩表現として「涙が拭ける」と言っているのだとは思いますが……でも自由な世界だから私はホットケーキをハンカチみたいに使う短歌だと思いたい)。
現代の日本にも涙を見せるのは男らしくないから駄目と考える人もいるようです。そんななか涙が出たらこれで拭けるよとホットケーキを持たせるのは優しさじゃないでしょうか。夫の涙を認めているから。
それに「ホットケーキ」の語感が良いですよね。ほっとさせてくれるケーキって感じがします。ホットケーキはふんわり柔らかいし甘いしあたたかいし。涙を噴出させる心に渡すものとして完璧な気がします。
以前こちらの記事↓でも『たんぽるぽる』を紹介しました。
その中で触れましたが、『たんぽるぽる』の表紙ってまんまるな紙なんです(円形の紙が折り畳まれて表紙のカバーになっている)。
どうでしょう。この優しい自由な世界にまんまるな表紙がふさわしい気がしませんか?
他にも素敵な短歌がたくさんありますので是非読んでみてくださいね。
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