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シンガポール旅行記1日目‐③『冷めたサテーは誰のもの?』編
前回
登場人物
◯私…英語が全く話せない。大学受験で勉強した英単語は部分的に覚えているが、それも既に10年程前の記憶である。
◯夫…英語力は自称中学生レベルだった。しかし前回まあまあ英語が話せることが発覚する。
ホーカーに向かう
無事にホテルをチェックインできた私たちは、本日のメインイベントであるチャイナタウンのホーカーへ向かうことにした。
今回の旅では夫はグルメ、私は建物や街を見ることに重きを置いてあり、お互いに趣味趣向が異なるため『どこでホーカーを挟むか』というのは効率的にもかなり重要だった。
ホーカーとはシンガポールにある屋台街のことである。台湾やシンガポールでは外食文化が盛んな為、屋台街は多く出ており安く美味しい食べ物が食べられるらしい。勿論私はシンガポールに行くと決めるまでホーカーという存在は知らなかった。
夫には旅行に行く前から『チャイナタウンのホーカーに行って海南鶏飯を食べたい!』という強い強い望みがあった。
チャイナタウンにある「天天海南鶏飯」というお店が、るるぶやあらゆる旅行ガイドにも紹介されていて、有名かつ美味しいという噂だったのだ。因みに海南鶏飯とは簡単にいうとアジア風のチキンライスである。
チャイナタウンはホテルから徒歩20分のところにあった。
20分という長さは、歩くかバスに乗るか考えた時に最も悩むボーダーラインの分数だ。
私たちは話し合った結果、知らない土地のバスに乗ることに怖気付いて徒歩で行くことに決めた。
チャイナタウンに向かう途中の街並みは日本に似ているけどやっぱり雰囲気が違って面白かった。
建物の高さが違うのだろうか?地震大国の日本に比べて大胆に積み上げているような印象である。
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また、何より色味が違う。カラフルだ。このカラフルな建物たちを見るのがずっと楽しみだった。
日本の建物や文化は奥ゆかしさこそあるが、派手さや大胆さは海外に行かなければ味わえない。
建物を見ていると海外に来たことを実感する。
ところでシンガポールには『横断歩道では無いところで横切ってはならない』というルールがある。
破ると罰金になる可能性もあるのだ。
シンガポールに行くまで私達は「ルールは守らなきゃいけないから、横断歩道を探して渡らないとね」と言っていた。
しかしシンガポールの横断歩道は日本と違って基準が曖昧な為、実際に行ってみるとかなり苦戦した。
日本の横断歩道は必ず地面にシマシマが付いているので分かりやすいが、シンガポールだとひよこ鑑定士が雄雌を区別するくらい難しい。「これはシマシマが無いけど、みんな渡ってるから横断歩道ってことで良いのかな…?」という道が沢山ある。
一度強行突破で途中まで渡った人を見かけたが、そういう人に車は容赦無い。ずっと途中の島になっているところで呆然と立ち尽くしている人を見て「強行突破は辞めよう」と心に誓った。
永遠に横断歩道が見つからないと思ったら地下道からしか行けないパターンもあるので、シンガポールに行った際は要注意である。
チャイナタウンに着いたのは、曖昧だが18時くらいだっただろうか。そこまでまだ日は暮れていなかった。
チャイナタウンならではの建物に私は浮かれていた。
日本にある中華街ともまた雰囲気が違う。観光地として作られたというより、そこにはちゃんと文化が存在しているような感覚になった。あくまで感覚だが。
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しかし私達は既に若干疲弊していた。日本なら20分くらい余裕で歩くので油断していたが、やはり慣れない飛行機に無自覚な疲労が溜まっているようだ。
とにかくお腹を満たして少しでも元気になろうと誓い合った。
ホーカーはイメージ通り屋台のようにお店が左右にズラッと並んでいた。
先に席を取ってから食事を買いに行くのが一般的だが、席を取るのはティッシュでも何でも置いておけば良い。そこを横取りしないのも治安の良さを感じる。
因みに相席も可能なので、席が空いていないときは積極的に声を掛けるのが吉である。
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海南鶏飯を食べる
私達のお目当てはもう決まっている。
先述した「天天海南鶏飯」というお店だ。青い看板に白字で店名が書かれていることも予習済みだった為、私達の視界にはすぐその店の名前が入ってきた。
私達は一目散にそこへ向かった。
そうして店に向かって指をさした夫は言った。
「あのさ…閉まってない?」
夫が「しま」というくらいで私も完全にそれを目視した。
店は擁護しようも無いくらい閉まっていた。
一応近づいてみたが、人気店の筈なのに列はなく店員は後片付けをしているところだった。
旅行ではあるあるな出来事だが、私はこういうとき心臓がキュッとなる。
自分の行きたい店より、相手の行きたい店が閉まっている方が精神的に辛い。
夫の方を見るとやはり残念そうな顔をしている。
しかし案ずるなかれ、夫は屈強の精神の持ち主だ。
最初こそ「あちゃー」という感じだったが、次の瞬間には「しょうがない、他の店で食べよう。海南鶏飯は店によって味が違うから食べ比べした方が良いと聞いたしな」と早くも立ち直りムーブを見せた。
この立ち直りの早さと懐の広さは見習いたいところである。
因みにその後「天天海南鶏飯は諦めたの?」と聞くと
「いや、別日にリベンジする」と固い決意を見せた為、私達のスケジュールにはもう一度このホーカーに来るタスクが付け加えられた。この話もまた改めて書きたい。
私達は結局「麦士蔵海南鶏飯」という青看板に白字で名前が書かれた店で頼むことに決めた。
これは有名店の「天天海南鶏飯」が決めた風潮なのか、はたまたもっと前から決めたのか分からないが、海南鶏飯は青看板に白文字の店がかなり多い。惑わしてくるが、全くの別物である。
ところで私はシンガポール旅行に行く前、アジア経験者に揃いも揃って「タイ米はオススメしない」と言われていた。
パサパサしてるし、香辛料のような味がついているという。それが日本人の口に合わないらしいのだ。
そんな話を散々聞かされた後についに対面したタイ米だったので、正直あまり期待をしていなかった。
しかし結果的に、海南鶏飯は旅行中のランキングでも上位に上がるほどには美味しかった。
この日有名店には行けなかったが充分に満足できるくらいのレベルだった。
私は基本的に味の記憶力が悪く、数日経つと美味しいか美味しくなかったか以外覚えられない為、詳しいレポが出来なくて申し訳ない。
とにかくアジア系の料理も美味しく食べられたことが嬉しかった。
サテーを食べる
海南鶏飯を食べた後、折角だからもう一品食べて帰ろうという話になった。
人気店が続々と閉まり始めた時間帯ではあったが、まだ開いている店の中で列を成している店もあった。地元の人も「ここがダメならここで食べよう」みたいな候補が決まっているのかもしれない。
私たちはサテーを食べて帰ることにした。
サテーも旅行に行く前付け焼き刃で覚えた料理だが、簡単にいうと串料理だ。肉が刺さっていたり、エビなどの海鮮が刺さっていることもある。
私たちが選んだ屋台は最初から肉の組み合わせがセットになっていたので初心者でも選びやすかった。
二種類の組み合わせから選べたのでラム肉が入ったサテーを選ぶと、番号札を渡された。
私たちは店のルールも分からないので、呼ばれたらすぐに分かるように店のすぐ近くで立って待つことにした。
待ち始めて10分程経っただろうか。
私は一抹の不安を覚えた。
私たちの前に買っている人を見かけなかったというのに、番号が全く呼ばれない。
聞き逃しているだけで、既に番号が呼ばれているのでは無いだろうか。
そして私達の視界には、既に随分前に呼ばれて誰も取りに来て居ない皿がひとつ置きっぱなしになっていた。
「もしかして、あれが私達の皿では…?」
聞き逃していた場合、刻一刻とこの皿のサテーは冷めていく。
しかし店員は忙しそうだし、合間に声を掛けるのも気が引ける。
私は「気まずいけれど番号を聞くか」「もう少し大人しく待ってみるか」2つの選択肢を天秤にかけた。
しかしあれが私たちの皿なのでは?と一度思い始めると、もう私達の皿の気がしてならない。夫に「聞いてみようよ」と言っても「うーん、まあもう少し待ってみようよ」と答える。
皿に置かれている串たちを見る。既に冷め始めているのは見てとれた。
私の頭にある天秤は一瞬にして前者に傾いた。
もう一度言うが、私は英語が全く喋れない。
夫の持っている番号札の「9」を確認すると、ズカズカと店員の方へ近づいて私は皿を指さしながら聞いた。
「What Number this!?」
咄嗟に出た英単語を並べただけの英語である。
海外の人に話しかける出川の気持ちがよく分かった。しかしこういうのは、気持ちで伝わるものである。
店員は「Six!」と言った。良かった、この冷めたサテーは他の人のやつだ。私は安堵して夫に「違ったよ!」と教えてあげた。
しかし、そうなってくると何故こんなにも呼ばれないのか。
店員は次から次へと料理を作っては番号を呼んでいる。
飛ばされているのではないかしら…。ソワソワしてくる。
結局5分ほど待ってもまだ呼ばれず、夫に「もしかして9番飛ばされてない?」と冗談っぽく聞いてみた。
「いや、俺達の番号は6だよ?」
「え、9でしょ?」
夫の持っている番号札を再び見た。「6」の下にハッキリと横線が引いてあった。
…オーマイ。
「ごめん、私9だと思ってた」
「…なんだって!?」
さすがに「なんだって!?」とは言わなかった気もするが、このポンコツ妻の一言に、夫もさぞかし冷や汗が出たに違いない。
私は正直に白状して、コミック版ドラえもんの如く再び冷めたサテーの元に走っていった。
勿論、皿はまだそこにあった。
「This Number is six??」
もうこの店員に披露することは無いと思っていたのに、奇しくも再び出川英語を話す羽目になってしまった。
店員は答えた。
「No!Sixteen!!」
Six「teen」だった!!
あっっぶなかった。私がリスニング能力も乏しかっただけで、冷めたサテーはやはり私達のものでが無かったようである。
見ていなかっただけで、私達の前にも注文した人が何組か居たようだ。
丁度6番の皿が完成したタイミングだったようで、店員はそのまま手渡してくれた。
こうしてわたしたちは無事に温かいサテーを手にすることに成功した。
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サテーは焼き鳥に近いものかと思っていたが、
味付けはかなり甘く日本には無い食べ物だと思った。(甘辛いジャンルかもしれない)
甘い焼鳥は脳内がバグると言うか、「甘いのに、焼き鳥…?」という思考が追いつかない料理ではあった。
因みに付属のタレはナッツ系だったが、私達の好みではタレなしの方が美味しかった。付け合せのきゅうりと食べるのが一番美味しかった。
アジアンな甘い味付けがOKな人はきっと美味しく食べれると思う。
かくして私たちは腹ごしらえを終え、帰路につくかと思われた。
しかし夫の一言で事態は一変する。
次回、マーライオンを見に行く。
1日目あと少しだけ続きます。
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