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木ノ実 ひよこ
2020年5月30日 09:16
「ホンジツハ、セイテンナリ!」全身から流れる汗と共に飛び起きた。自分の寝言に驚いて起きたことに気が付くと、「夢か…」と独り言を呟いた。それくらい現実味を帯びた夢だった。しかし夢とは不思議なものである。これだけ心臓を揺らがせておきながら、歯を磨く頃には内容をすっかり忘れていた。覚えているのは、川本大輔という小学校時代の同級生が突然出てきたことくらいだった。透自身、
2020年5月23日 22:13
前より少し広くなったベランダで、タバコを蒸した。まだ陽が落ち切っていない街をぼんやりと見ながら夏が近づいていることに気が付いた。街はまだ俺を余所者だと思っている。目の前のマンションも斜め向かいの古いビルも余所余所しくこちらを向いていた。俺はスマホを取り出して、上倉隆一の『独りよがり』を小さく流した。この時間が、1番好きだ。2ヶ月前、東京の本社から田舎の支社へ転
2020年5月19日 16:39
バタバタとしていた部屋も静かになった。医者は寝ている彼女の横で立ち尽くしていたが、しばらくして小さなチェアーを側に置き直し座った。こんな小さな村では、これ以上この女性を楽にしてあげる方法も無かった。「せめて娘さんが間に合えば良いんだが…」医者は腕時計と女性を交互に見た。止めどなく雪が降り続いている。夜になってしまってからは白い地面に真っ暗な夜空が相まってその中を