
SNS恋愛小説/MAYBE〜糸電話〜第10話
《人魚の夢》
『人魚姫』
人魚姫は、海の底のお城で暮らす6人のお姫様のうち、一番下の姫のこと。15歳になって、海の上の方へ上がっていくと、船に乗った美しい王子様に恋をしてしまう。どうしても人間になって王子様に会いたくなった人魚姫は、海の魔女と契約を交わす。人間の脚をもらうかわりに、美しい声(舌)を無くしてしまうという契約。歩くたびにその脚は鋭いナイフを踏むように痛む。
それに、もしも王子様と結婚できなければ、海の泡になって消えてしまうというもの。
声を失った人魚姫は、王子様の船が難破した時助けたのが自分だということを話すことができず、やがて王子様は隣の国のお姫様と結婚してしまう。可哀想な人魚姫は… 海の泡に…なって…
K氏
『まあ』
突然、ポツンと通知音がしたと思ったら。
それはK氏からのDMだった。
まあ
『どうしたの?』
K氏
『俺、さっき飴玉と話したんだけど』
えっ?なんで?…
まあ
『何の話?』
K氏
『まあ、俺たちの話を飴玉にしてたんだね』
まあ
『してないよ』飴玉も言わないって…
あ… いや、そうじゃなくて。
K氏
『もういいよ。それに、俺のことを良く分かってくれてるのは、飴玉だって思ったんだ』
そんなっ!どういうことなの?どうして…?
でも、わたしはそれ以上何も返せなかった。返事もしてないわたしが、彼の好意だけにいつまでも甘えていたわたしが、どう引きとめればいいの!?
あ、そうだ!それでも今言おう。わたしだってK氏のことが好きだって。
言わずに終わるなんて、そんなの嫌だから!
そうしてわたしは、返信しようとするが、スマホの画面をいくらタップしても、…なぜか画面が反応しない!!
ちょっと待って、なに!?なんでっ?こんな大事な時に!
K氏
『じゃ、俺、飴玉と付き合うよ。それだけ言いたかったんだ』
ねぇ、お願いキーボード!動いて!動かな〜い…!!!!!
K氏
『じゃあね』
ちょっとぉ〜〜!!待ってぇぇーー!! …………
ハッと、目が覚めた。 頬に伝う涙。
夢…?
本をめくっているうちに、いつの間にか眠ってたんだ。
全部夢だったんだよね? 1つも本当じゃないよね…。
そう思っても、まだ涙がぽつぽつとこぼれた。
モヤモヤした心配と、本の内容がフュージョンしちゃったのか。
タイミング悪く読んじゃっただけだね。
ビックリした…。
わたしはテーブルの上に置いてあったハンドタオルをとると、涙を拭いて小さくため息をついた。

まるで、声が出せない人魚姫みたいだった、わたし。
人魚姫はもっともっと悲しかっただろうな。
あー…のんびり癒されるつもりの日曜に、いったい何してんだろ、わたし。
何時だろう? 11時45分か。
今日はK氏、短大もバイトも休みだよね。何してるかな?
MAYBEをひらいてみても、さすが日曜、ビィ友が見当たらない。
まだ起きてない組もいるかも?
どうしよう、K氏にDMでもしてみようかな。
と思い スマホを見つめて1分。あちこちボーッと見ながら2分。
返信がこなかったら変に落ち込んじゃいそう、今のわたし。
と、そこへ
DMの通知がポツン
【DM】
K氏
「まあ」

夢……じゃないよね?もうこれは。
まあ
「K氏、お休み?」
K氏
「そうだよ。もっと早くDMしたかったんだけど、待ってたんだ。まあの方からこないかなぁ?と思って」
あ、あはは。いつものK氏だ。
飴玉の話はやめとこう。
まあ
「すればよかった(*´∀`)」
K氏
「今忙しいの?」
まあ
「ううん、ヒマすぎて寝てた。変な夢みて、泣きながら起きたとこ」
そこまで言わなくてよかったか…。
K氏
「ヒマな時はDMくれよ。すぐ返せなくても、俺いつでも待ってるからさ」
あぁ、本当にあれは夢だったんだ。
K氏
「それと、泣くような夢って、どんなの?大丈夫?」
まあ
「人魚姫の本を読んでたらいつの間にか眠っちゃってね、似たような夢見たの」
そんな詳しく話せないからね〜汗
K氏
「俺、王子様だった?」
あー、それは… そうだけど、言ったら告白の返事したみたいになるし、ねぇ。
でも、黙ってるって YES になっちゃう?
否定しようとしたけど、それじゃ、まるで他にも王子様がいるみたいになるじゃん!それはダメだ。
K氏
「俺、そんな王子じゃないよ」
まあ
「それは、わかってるよ。そうじゃなくて」
他の言い訳をしようとした、けどその隙はなかった。
K氏
「俺は、他のお姫様を選んだりしない。だから、泣いたりしないでよ?」
その言葉を読んだ瞬間涙が、ぽろぽろっとこぼれて、これがDMでよかったと思った。
まあ
「うん」
K氏にはなんでわかってしまうの?
さっきの夢が全部、涙と一緒に流れて、消えていった。
K氏
「それに、人魚は泣かないんだ。涙が出ないんだけど、その分、心の中にたくさんの悲しみを抱えてしまうんだって」
うん、知ってる。
まあ
「K氏.詳しいんだね」
K氏
「俺、今 短大で童話についての研究課題やってるんだ。それで《人魚姫》を学んでるとこ。子供の頃から人魚姫って興味あって、なんか印象が強かったから。ハッピーエンドじゃない童話だろう?」
まあ
「そうだよね。でも原作では泡になった後、ちゃんと人間に生まれ変われる希望があるよ」
K氏
「そうそう、まあも詳しいんだな」
まあ
「わたしも好きだから。小さい頃から持ってるの、原作の本」
K氏
「あー ちょっと嬉しいよ。こういうの」
まあ
「わたしも」
大切にしてたお話。K氏も気に入ってたこと。人魚姫の悲しみを、知ろうとしてくれてたこと。
K氏
「まあは、人魚じゃないよ。それに俺も、本当はよく泣くんだ」
えっ、そうなの?
まあ
「本当?」
K氏
「うん、内緒だよ?」
まあ
「だれにも言わないよ」
ふたりの秘密ができたっ!
K氏
「けど、まあの泣いてる顔は、ちょっと見てみたかったな」
何言ってんのよ!見せない!笑
まあ
「だーめっ!!じゃあ、弟のお昼ご飯作るから、そろそろ行くね」
K氏
「あ、そうなんだ?…それは偉いね。じゃ、またDMしようね」
まあ
「K氏」
K氏
「なに?」
まあ
「夢のこと、ありがとう。嫌な夢、もう消えちゃった。じゃ、またね」
わたしがそう返して画面を閉じようとした時、ギリギリでもう一つ返信がきた。
K氏
「まあ、大好きだよ。行っておいで」
わたしは顔を真っ赤にしながらキッチンへ向かった。
あぁ…DMでよかったぁ。
それにしても、たしかK氏って18歳。わたしよりひとつ下だっていうのに、どうしてあんなにわたしの気持ち分かったり、欲しい言葉をくれるんだろう?意外と恋愛に慣れてたりして…。
わたしは、小さく浮き上がってきた不安の泡を、フルフルと頭から振り払う。
人魚姫を研究課題にしてるって、そんなの誰でもあることじゃないよ。
わたしがあの本を手に取ったのも偶然じゃなくて、K氏ともっと強く繋がりたいっていう気持ちから起こった事だった、そんなふうに思えた。
わたしは、簡単に残り物のご飯と卵、ネギ、ハムを取り出すとチャーハンを作り、あとは、インスタントの春雨スープをつけて、玲音を呼ぶ。
一緒にお昼ご飯を食べながら、学校帰りの友達との話やTV番組の話でひと盛り上がりした。
午後からは、玲音が友達と遊びに出てしまったから、本当に一人ぼっち。
変な夢を見るのも嫌だし、昼寝もやめとこう。
ま、MAYBEでも一回見てみよう。
【ビート】
ナッキー
「休みを満喫している皆さんへ、オレは今日も先輩とバイト入ってるぜ!」

あははっ
仕事しててもデート気分だなこれは。
あ〜、わたしもK氏にいつか会って、こんなふうに一緒にいるよー♪なんてビートしたりする日が来るのかな。来るのかなぁ…。
いいなぁ、ナッキーは。最初からリアルで出会った人だから。
こんな悩みないもんね。
その時、ふっと、バイトの常盤くんの顔が浮かんだ。
昨日、私服で来てた。薄い水色のパーカーにデニムのパンツ。
なんだか最初と印象が違って見えたのは、慌てて走ってきて髪がぐしゃぐしゃだったからかな? …いや、そうじゃない。
髪色が変わってた気がする。
最初の日は全然垢抜けてない雰囲気だったし。
うん、そうだ。髪色が少しブラウン系になってた。

休みの日だから染めたんだね、きっと。で、例のメモ帳を忘れてきたことを思い出して、あんなに大急ぎで取りに来た、と。
それを考えると、やっばりおかしかった。
…なんて、なんで休みの日に、職場の人のことなんて考えなきゃいけないの?
ナッキーのバイト先の件から思い出したんだった。
わたしも、そんな距離でK氏と会えたらいいのになぁ。