『あらゆることは今起こる』柴崎友香
四十代になって発達障害のADHDであると診断された著者が、その観点で自身の内なる思考や行動を主観的に見つめ直したエッセイです。
著者はこの診断を受けた後、改めて過去から現在までの自身の行動パターンを振り返り、その背景にあったものを分析して行きます。そのような過程の中で、ADHDが如何なるものであるかが、読者にも徐々に伝わって来るのです。
しかし、あくまでもこれはこの著者の場合の一例であって、程度も現れ方も人によって千差万別であることが、何度も強調されています。こうした障害が、独自の才能を開花させる例があるのは確かですが、それを短絡的に結び付けるのも間違っています。著者の小説家としての才能も、そうなのかも知れませんし、そうでないのかも知れず、ただ著者の特性が小説家という職業に合っていた、確かなのはそのことなのです。
障害を差別することは論外ですが、必要以上に特別視するのもよろしくないことです。それは「他の障害者、外国人や性的マイノリティに対しても」(p.175)同じことが言えます。あるべきなのは、そうした特性や属性をありのまま寛容に受け容れることであり、そのために、自身が持っていない特性や属性に対する知識を蓄えておくことは必要です。この本は、確実にその一助になり得ます。
内容の構成があまり整理されないまま書かれているのは、いつもの著者らしからぬところですが、これは著者のとりとめもない思考パターンを反映すべく意図的になされていることです。一方で、日々のあれこれの積み重ねから日常が作られていく模様を事細かに描写しているところは、紛れもなく著者の作品でした。口調に大阪弁が交じるのも、著者の素顔が垣間見えるようで、親近感が増しました。
[2024/10/24 #読書 #あらゆることは今起こる #柴崎友香 #医学書院 ]