『この夏の星を見る』辻村深月
2020年3月から、新型コロナウイルス感染症の大流行によって行動制限を余儀なくされた学生たち。茨城の高校、東京・渋谷の中学校、長崎・五島の高校で、個々の事情から天体観測の部活に属すことになった生徒たちは、やがて自作の望遠鏡による「スターキャッチコンテスト」に参加することになります。リモートではあっても、互いに協力し合いながら、次第に連帯感が生まれると共に、それぞれの萎縮していた気持ちに変化が現れます。やがてその輪は拡大し、より規模の大きな企画へと展開して行くのでした。
コロナ禍に関連した小説は多くありましたが、これ程までにコロナ禍による影響を直接的に扱ったものは初めての気がします。特に、多感な学生時代を、あらゆる事が「コロナの状況次第」(p.412)とされた彼ら彼女らが、実際にどのような境遇にあり、どのような気持ちで過ごしていたのかが、よく伝わって来ました。
不幸な時代であったことは間違いないのですが、そんな中でも、「コロナの年じゃなかったら、私たちはこんなふうにきっと会えなかったから。…悪いことばかりじゃなかったと思う。」(p.429)と感じることができた彼ら彼女らは、せめての事に幸運だったのだと思います。学生たちが見ようとしているものが輝く星であることが、実に象徴的でした。
舞台の一つになっている五島列島・福江島の鬼岳天文台には、私自身も星空ナイトツアーに行ったことがあり、あの静かな風景が脳裏に蘇りました。