「嫁姑問題」徹底推察
なぜ嫁と姑はいがみ合うのか?古今東西、とても普遍的なこの問題について昔から考えていたのでまとめてみた。
本格的に興味を持ったキッカケは、インターネットをフラフラしているとたまに出くわす某掲示板の家族板まとめサイトである。嫁姑の他にも親戚関係や不倫・離婚・修羅場・復讐など、幸か不幸か(?)筆者の身の回りではそれらの問題が何も起きていないため、どの記事の内容も「知らない世界の話」ばかりで面白くて夢中になり、読み漁った時期がある。嫁姑問題は特にその行動原理が全く謎過ぎたために気になってしまった。
考察しようにも身近にサンプルが無いので実際に見ることが出来ず、情報源はネットをはじめ各種メディアによるエピソード証言ばかりなため論拠として弱く、推察や推量の域を出ない事は残念ではある。
推察を進めるにあたり、この記事内ではこれ以降、某掲示板の表記に倣い
問題のある嫁(息子の妻)=ヨメ
問題のある姑(夫の実母)=トメ
と記載する事とする。
構造を把握する
普遍的ないがみ合いの発端になる内容をザッと羅列してみると
・ヨメの○○が気に入らない
・ヨメの能力に不備がある
・ヨメが対話に応じない
・トメに意地悪される
・トメがマウントを取ってくる
・トメからの干渉がウザい
・トメが孫を甘やかす
概ねこのような感じである。
どうもトメ側からヨメに対してアクションを起こし、ヨメ側がそれに対してストレスを感じて反撃するというパターンが多いようである。
ヨメからトメへの先制攻撃という証言もあるにはあるが少なく、その場合でもトメが意地悪をしている自覚が無いだけとも取れる。
「嫁姑問題」とはトメからヨメへの加害の問題なのだ。
そして、トメからのヨメいびりの内容が常軌を逸している。罵倒や小言・イヤミ・陰口は勿論、腐った野菜を送ってくるだの、ヨメの分だけ出前の寿司を取っていないだの、お風呂が水風呂に変えられているだの、最も酷い例ではアレルゲン食品をコッソリ食べさせようとする等、無知は罪とは言うが、下手をすれば本当に人が死ぬレベルである。単に気に入らない相手に対して普通そこまではしないし、仮にも大事な孫を育む母体に対しての嫌がらせとしては到底理解ができない。およそ理屈で説明のつかないヘイトが発生しているというのが「嫁姑問題」の最大の特徴である。
動機を検証する
トメが抱くヘイトの源泉は何なのか?ネット上にはこの問題について、トメの心理や原因をまとめているサイトが山ほどあるが、そのどれもが見識が浅く、的を射ているとは感じない。よく上がっている例を検証してみる。
【かわいい息子を取られた】
最も頻出だが違和感しかない。子供が可愛いのなら「母親と娘」「父親と息子」「父親と娘」でも条件は同じはずだが、それら3パターンでの問題は聞かない。例えば父親から娘の夫に対しての嫌悪は「お嬢さんを私にください!」イベントの時がピークであり、以降は関係が良好になるか疎遠になるかで険悪にはならない。性差は多少は有るかもしれないが「婿舅問題」などを一般的に聞かない以上、子供への執着説には無理がある。
【自分もかつてイビられた】
負の連鎖説。あるにはありそうだが、肝心の初代のイビリの発端が何だったのかと言う事が不明なままなので、原因の説明としては不十分。
【そもそもヨメが気に入らない】
【よそ者を家族として受け入れられない】
【若さに嫉妬している】
【ヨメを格下だと思っている】
これらの普通な嫌悪感では、理屈で説明のつかないヘイトを産む要因としては弱い。
【なぜだか理由が解らないけどとにかく憎い】
これには嘘が無いと思われる。結局のところ、当人たちは原因に自覚も無く、言語化も不可能なのだ。これまで挙げたような心理は、不可解なムシャクシャを納得するために、尤もらしい主張を並べた結果に過ぎないと言えるだろう。
この、なぜだかわからない嫌悪感を、厳選した証言から深読みしていく。
トメの真の心理とは
トメの言動を詳細に分析する。また、トメからこんな事をされた!というエピソードの例は山ほど発見できるので、その中からトメの心理を読み解けそうなものを探した。
【様々な嫌がらせやマウント行為】
これらの行為で目的としているのは、力関係・序列の確定と思われる。ここには性差が表れている。男性の場合は序列を争う場合、体格や筋肉量といった物理的に解りやすい要素で大方を決するために、行動はあまり必要ない。女性の場合、序列とは精神の優位であるため、相手の心へダメージを与えるという手段が適宜必要になる。女子間のイジメが陰湿なのと同じ構造である。トメはヨメに対して優位に立ち、相手を支配して思い通りに行動させる状況を作っておきたいらしい。
【過干渉】
家事のやり方・古いしきたりの押し付け・子育ての方針などに口を出してくる。特に印象的なエピソードとして、トメとは同居していないが、新居にトメの家のものと全く同じデザインの寝室の家具一式を送り付けられたというものがあった。トメには息子の家庭の暮らしを自分流で送らせたいという願望がある。
【長男のヨメは気に入らないが、次男・三男のヨメは優しい】
この手の証言はレアだが重要なヒントだと思った。
トメにとっては長男のヨメという事が特別な意味を持つ。
一連の推察をまとめるとこうなる。
トメは長男の家系に自分が守って来た家風を継承させたいが、それを受け入れなかったり、勝手に変えてしまう恐れがあるヨメを、あらかじめ屈服させておく必要がある。
これが心理の真理であろう。
理屈で説明のつかないヘイトの正体
結論から言うと、トメはアイデンティティの消失を危惧している。そのアイデンティティとは家風の事である。家事のやり方・育児の方針・家具の配置やデザイン・親戚との付き合い方など、長い婚姻生活の中で自ら磨き上げた生活の流儀そのものが自己の存在証明なのだ。家長は夫であるが、実際に家の中の一切を取り仕切るのは妻である。多くの場合、家父長制度では特に婚姻において女性は自由が無かった。数々の我慢をし、色んなことを諦めて、それに専念するしか無かった生き方が家のために尽くすだった。保守的なジェンダーロールを忠実に全うし、保守的な家名を継ぐという使命に強く縛られ、人生を捧げて創り上げたものは自分が亡き後どうなるのか?
トメから見たヨメは、自分が歩んできた苦労を何も知らず、敬意を持ちようがないまま、家風という生きた証を蔑ろにしうる脅威の外来生物に他ならない。これらの鬱屈とした想いを一言で言い表すのは確かに不可能だったのだ。
推察のまとめ
通常トメは、ヨメの肩を持つ文脈で悪者として語られる事が多いが、巷で言われてるような精神が幼稚で劣等感や嫉妬に狂う未熟な人間という訳ではない。どちらかというと真面目で勤勉で厳格な人であろう。抑えられない感情は、積み上げた努力と我慢が大きすぎた事の反動である。彼女たちは家父長制度の歪さが生んだ悲しいモンスターだったのだ。
筆者の母親も含め、トメ化していない姑は、ある意味不真面目なのか柔軟なのか運が良かったのか、何らかの理由で家風の継承に人生の全てを費やすまでには至らなかった人たちだと言えそうである。
今回の推察は問題の原因を知りたいがために行った思考の結果であり、真相に相当するトメの行動原理について、一応の結果までたどり着けたので満足である。したがって解決に関しての考察は他へ譲りたい。
時代が急速に変わってきている中で、家族や人生のあり方は変化している。今回の推察がどれほどか当たっているとすれば、トメのようなヘイトを抱えた人はどんどん減っていくと思われる。
将来「嫁姑問題」が無くなる事を願うばかりである。
しかし、家父長制度の衰退はツイフェミやインセルなどの新たなモンスターを生み出してもいるので、なかなか楽観的にはなれない。
と、まとめた所で流石に朝が近いのでそろそろ寝ます。
それでは、おやすみなさい。