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何てことない忍ぶの日常

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何てことない忍ぶの日常〜悲哀こもごも授乳のおはなし〜

何てことない忍ぶの日常〜悲哀こもごも授乳のおはなし〜

子が3ヶ月半になった。
2662gで生まれ、退院時は2548gだった彼女は、今や5880g。かぼそかった腕や足には立派な肉がついたのだけれど、それらのむちむちとした感触をたのしんでいるとき、ミルクだけでこんなにも立派に成長できることに感動してしまう。おとなはあまり意識することはないと思うが、わたしたち人間は立派な「哺乳類」というわけだ。
しかし、そう分類されているわりに、この授乳という行為には思っ

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何てことない忍ぶの日常〜赤子とのある1週間〜

何てことない忍ぶの日常〜赤子とのある1週間〜

12月4日(日) 所属していたオーケストラの演奏会を見るために、久しぶりにトーキョーに行く。
子と小池くんは家で留守番。彼女が産まれてから初めて12時間いじょう離れることになる。移動中、つい彼女の写真を眺めてしまい、泣いていないかなとか、小池くんはミルクをあげられるかしらとあれこれ心配しておちつかない。
ネットで乳児がいる場合の母親の外出についてあれこれ検索してしまう。否定的な意見が出てきて落ち込

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何てことない忍ぶの日常〜あなたとわたしの1ヶ月〜

何てことない忍ぶの日常〜あなたとわたしの1ヶ月〜

子が我が家にやってきて1ヶ月が経った。

ようやく3200g。この体重でうまれてきてもおかしくなかったのに、小さなからだで1ヶ月間けんめいにのみ、ねむり、ここまでになった。

忍ぶは最近、毎日のように、子が生まれた日、看護師に撮影してもらった動画を見返している。
まだ目のあかない子が、小さくこえをあげながらうごいているようす。胎のなかにいるとおもっているのだろうか。ねむそうに右手を目のところにあて

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何てことない忍ぶの日常〜あなたに会えた日〜

何てことない忍ぶの日常〜あなたに会えた日〜

帝王切開の時間が予定より4時間も後ろ倒しになったら、助産師や看護師の「そろそろです」という言葉も真に受けることはできなくなる。
だから、その何回目か分からない「そろそろです」もふーんという感じで、軽く聞いていた。夫に「そろそろって言われた」みたいなことを一応LINEで連絡すると(そのたびに律儀に返信をくれる彼の心情はどういうものだったのか)5分とたたず手術室に行くことになった。

手術室には歩いて

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なんてことない忍ぶの日常〜あなたに会える前日〜

なんてことない忍ぶの日常〜あなたに会える前日〜

 大変だ。何が大変か分からないけど、とにかく大変だ。

 忍ぶはこれを、病院のベッドのうえで書いている。14:00ごろせっつかれるようにシャワーを浴びた後、手には点滴をするための管が入れられ、怒涛のように腰椎麻酔やらなんやらの説明を受け、サインを求められた。
腰椎の略図をみながら、「中学生時代に理科で習った気がするのに部位も何も覚えてないものだなぁ」と、初老の麻酔科医のはなしを聞いているふりをした

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何てことない忍ぶの日常〜どうにもならないこと〜

何てことない忍ぶの日常〜どうにもならないこと〜

最近忍ぶはよく夢を見る。
洋服の販売員になった夢だ。
なった、というよりも、であったという方が正しい。
なぜなら店にいるのは元同僚や上司だし、隣のショップの人まで同じ。
忍ぶはもともと服を売る仕事をしていた。

忍ぶは焦る。何故なら忍ぶの今の会社は副業禁止。見つかったら懲戒モノだ。
頼まれたから仕方ない…でも、今の会社にバレたらどうしよう。というか、なぜ私はここにいるのだろう…。
と途方にくれた気

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何てことない忍ぶの日常〜恋のお葬式〜

何てことない忍ぶの日常〜恋のお葬式〜

忍ぶは聞きたい。街ゆくみなさん、みなさんは終わってしまった恋をどこに埋めているの?

伝えられなかった気持ち、手も握れなかった学生時代の淡い思い出、向けられた好意を交わした日々。

忍ぶにとって過去の恋は苦々しいところだけが記憶に残っていて、時たま頭を抱えたくなるほど恥ずかしい。不器用でしかない過去の恋愛を、うまく埋められないままでいる。
少しだけ付き合った人、好意を向けられた人、告白を断られ

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なんてことない忍ぶの日常〜忍ぶの欲望〜

なんてことない忍ぶの日常〜忍ぶの欲望〜

銀座はトウキョウの中で1番好きな街だけど、中でも夜の銀座は最高だ、と忍ぶは思う。

職場の飲み会の後に、二次会に向かう列からそっと離れて、夜の銀座を歩いて見て回るのが忍ぶは好きだった。

眠らない街。
ずらりと軒を連ねるそうそうたるブランドショップが全部店じまいをしていても、そこには閑散とした寂しさがない。

夜には、それらの立派なショーウィンドウが良く映えるからだ。
手の届かない美しくきらびやか

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何てことない忍ぶの日常〜彼らの受難〜

何てことない忍ぶの日常〜彼らの受難〜

最近忍ぶは、毎日恋人の小池くんのことばかり考えている。
というのも、小池くんはこの春から、長い学生生活に終止符を打ち、地元に帰って就職したのだ。
つまり、春から忍ぶたちは、東京とふたりの地元の、遠距離恋愛をしている。

小池くんの顔、忘れそうだよ。と忍ぶは思う。まだ、離れて3週間と経たないのに、忍ぶは小池くんのいない日常が退屈で退屈でしょうがない。常に小池くんのことを考えている。
小池くんのつんと

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なんてことない忍ぶの日常

なんてことない忍ぶの日常

忍ぶは毎朝、ため息をつきたくなる。
布団の中で、朝の準備の算段を立てなければならない。眠気に思わずまけてしまいそうになりながら、今日着る服のことや化粧のこと-あの色のアイシャドウを使おうとか、アイラインは濃く引きすぎないようにしようとか、そういうことを考える。
ほんとうは瑣末なことと思っているのに、まるで義務のようにきっちりとそういうことを考える。

だから、肌をきれいに見せるためのものたちを塗る

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