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親ガチャのハズレは、子離れしない親?

学生の自己紹介文に「確定申告を学習中」とあった。2回目の講義で趣旨を聞くと、起業を考えているという。就職したかった名だたる企業が、そのうち無くなるとの記事を読んで決めたそうだ。
さらに彼は、実家が自営業だと言い添えた。いつもなら『起業もいいが、(修行先としても)サラリーマンも検討したほうがいいよ』と念押しするのを、自然とやめた。
せっかく、親ガチャで事業主が当たったのだから、引き継いだ感覚を大切にしてほしい。

レアキャラになった事業主の親

いまや、日本では労働人口の9割が雇用を受けている。自営業を含め、事業主・経営者の親はレアキャラだ。
雇用者、いわゆるサラリーマン。所属する組織が大きいほど、外部接触が固定されるほど、収入が安定するほど、楽かもしれない。ただし、自分で考える機会も、自分で動くきっかけも、その分だけ減りやすい。むしろ生きる術として「自分ゴト」で考え動く習慣を失くした人は、少なからずいる。
社会に出ようとする子に、自分で考える術を伝えられる親御さんは、どれだけいるのだろうか。所属や地域から離れて生きるヒントを、どこまで出せるのだろうか。
それ以前に、独身者の私などとは比べるまでもなく、親御さんは大変である。我が子に、自分で考える術まで伝えろと求めるのは、”子育て罰”な状況に追い打ちをかけるようなものだ。

凡人親こそ、奇人変人を使うべし

あえて悪く表現をすると、大多数の『社畜』。20世紀後半以降の日本は、子どもの養育費や住宅ローンを人質にして、単一企業への長期間労働を強いてきた。かかるお金を高く見せかければ見せかけるほど、給料の良い大企業は人材流出を防げた。
気がつかないうちに親の世間が小さくなっていた状況は、今に始まったことではない。諦めたほうがいい日本の病巣部で、武士の世がなかなか終わらなかったのと同じぐらい、サラリーマンの世は続くだろう。
大多数な生き方を選択するのは決して悪いことではない。一つの処世術であり、立派な凡人として尊重されるべきだ。そこへきて、我が子の主体性を高めろといっても、経験が薄いのだから、無理難題でしかない。

私のような、奇人変人を使ってくれればいい。
おかげ様で、自分だけでなく様々な人間関係から得た、考える糸口のレパートリーが広がった。「こういう例があるよ」「ああいう人もいるよ」を、要望に応じて出していける。

親が全てに責任を持つ必要はない

主体性の養成は、組織がしっかりしているほど難しい。慣れないことを無理にやる必要はない。特にサラリーマンの親御さんが、子の行動に対して責任を負うのは、個人レベルで目が届く家庭と中学校区ぐらいの地域内でいいだろう。
地域の外に出てからは、私を含めた他の大人に丸投げでいい。我が子が、丸投げ先で上手くいかなければ、帰ってくれる城を用意しておくぐらいにして、しばらくすれば、城すら要らなくなる。

私がここまで所帯を持っていないのは、親は何でもしなければと思い込んでいたからでもある。
特に母は、ローマ字でもかなでもキーボート入力が可能な事務員で、持って帰ってきた経理仕事を父と私で手伝っていたぐらいだ。なのに、地区委員までやっていた時期さえある。自分とついでになるとはいえ、中高の弁当まで作ってくれていた。身勝手な私は、連れ合いにも自分にも過度な負担はかけられぬと、どこかで避けていた。

ところが私の親こそ、地域の外に出た私について、徹して丸投げしていた。
中学の頃には同級生で遠出はするし、高校の頃は街中に出て、府県レベルの社会活動に精を出していた。せいぜい、連絡もなしに3日ほど家に帰らなかったことを叱ったぐらいだ。

親離れより、子離れの促進を

『バランスをとる気配がみえたら、手を離せばいい』
父が、補助輪なしの自転車を乗れるようにしてくれた時の経験談だ。
万事に言えることではないだろうか。手を離した後は、行った先のルールに従ったり疑問を抱いたり、現地の人々の世話になればいい。

自分が、地域の外に出た学生たちを預かる立場になって、やっと気が付いた。やっと恩返しをしている。
後期科目3コマのうち、2コマは今年度限り。むしろ非常勤講師のメリットととらえ、少し自由にやってみるつもりだ。

追記・題名変えました。(10/4 18:30)

親ガチャの当たりハズレは結果論です。高収入あるいは高い地位にある親が、必ずしも当たりではないとの意図で、タイトルを変えました。

元農水省事務次官が、引きこもりで家庭内暴力をふるい続ける息子を殺害した事件は記憶に新しいかと思います。実は、暴力を受けていた母親が、かつて極端な教育ママであったりなど、因果応報?と思われる情報も出ています。一定年齢を越えたなら、世間に丸投げしてしまえばよかったのにと思われる典型例です。
この事件をどうとらえられるかは、それぞれにお任せします。

私でもわかる、ハズレ親ガチャの条件が一つあります。苦手な分野への努力を、思春期に入っても続けさせる親です。得意なことは、助けなくとも邪魔さえしなければ十分です。
「やらなくていい」ことですから、年収や地位に関係なくできますね。

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SDGs的なことを書いていると思いきや、情報社会関連、大学でも教えているボランティア活動などを書き連ねます。斜め視点な政治経済文化評論も書…

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