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旅にまつわるエトセトラです。
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苦くて甘い「乾杯」を、一緒に。

あのお酒とあの思い出ハタチを迎えてから10年が経った。10年もあれば、大学や地元、会社や旅先でのいろんな「お酒」の思い出がそれなりに降り積もっている。 学生の懐にもやさしい値段の飲み放題のお店で、おそるおそる飲んだカシスオレンジ。だだっ広い河原でバーベキューをしながら、喉に流し込んだ缶チューハイ。寒い冬の恒例だった誰かの家での鍋パーティーに、必ずといっていいほどあった梅酒。たまに帰る実家で「せっかく季世が帰ってきたから」と、家族が用意してくれていた地元の日本酒やワイン。社会

公文から始まった「世界旅行」

たまたま立ち寄った恵比寿の書店で見つけた本の中で、そんなおしゃれな問いを見つけた。山手線のなかでも特におしゃれな街と呼ばれる恵比寿。本の品揃えも中身もさすがにハイセンスだ。 息も凍るくらい寒さの厳しい北国の片隅で暮らしていた10歳の自分は、34歳の自分をどう思うのだろう。 たぶん「嘘でしょ?でたらめばっか!オトナってそうやっていっつもコドモをからかう!!」とませた調子で怒るに違いない。 気づけば10歳の自分自身すら信じられないような現在地にいる。 ■「世界のオオタニさ

まだ終わらない旅

「それ」が長い旅の始まりになるなんて誰が知っていただろう。 高3の冬。 センター試験の数学で大コケ。 2次試験でも数学に泣いた。 死刑宣告を待つかのように迎えた合格発表の日。 私は高校の職員室で発表を見ることになった。 志望大学のホームページを開き、自分の番号を見つけた瞬間。 涙があふれて止まらなかった。 先生たちはうれしくて泣いているのだと思っただろう。 でも違った。 もちろんうれしかった。 けれど、「合格してしまった」という気持ちの方が強かった。

憧れの向こう側−10年越しの夢の先にあったもの−

■プロローグ来た。ついに来てしまった。10年以上憧れ続けたこの場所に。いつか大切な誰かと来るのだと信じていたこの場所に、私は今、一人で立っている。 ■旅の始まりこの旅はきっと、初めてこの場所を知った10代半ばの頃から始まっていた。『冷静と情熱のあいだ』。1999年に江國香織・辻仁成の両名によって小説が発表され、2001年には竹野内豊とケリー・チャンが主演で映画化されたこの作品。この作品の中で主要な舞台の一つがイタリア・フィレンツェ、さらに言うならフィレンツェのドゥオモことサ

5月日記|ユーラシアの向こう側–光を追いかけて

■プロローグ日本から飛行機を乗り継いで25時間ほど。ロンドン、ヒースロー空港。子どものときから好きで、年末にはいつも観たくなる映画の舞台。人生2回目のヨーロッパ旅行はそこからスタートした。 イギリスへの入国手続きはあっけなく終わる。EU諸国やカナダ、オーストラリアなどといった国のほか、日本や韓国のパスポートを持っている入国者は、無人ゲートでパスポートを機械にスキャンさえすれば、すぐに入国できる。それ以外のパスポート保有者は、有人ゲートに並ぶ必要がある。映画やドラマで見るよ

4月日記|瀬戸内、生まれなおしの島

■穢された豊かさ。そしていま。1日1日の密度が、それまでの1年をぐらぐらと煮詰めたくらいに濃かった4月。旅に出た。 成田空港から飛行機で西日本へ。初めて降り立った土地や懐かしい土地を歴訪した数日間。最後に訪れたのは、香川県は豊島にある豊島美術館だった。 訪問の数週間前に読んでいた冒頭の小説にも登場するこの美術館。私がその存在を知ったのは、元々は親友夫婦に勧められてのこと。いつかは行きたいと思っていたその場所が小説に登場した瞬間、旅の最終目的地は決まった。 瀬戸内海沿い

1月日記|ソウル、そして日常。

■6年ぶりの海の向こう 2024年の2日目。10年ぶりに韓国を訪ねた。人生3度目の訪韓。 海外旅行は実に6年ぶり。コロナで海外渡航も難しかった2021年、海外に行けるようになったらすぐに行けるようにと新調したパスポートは、お披露目になるまでに実に3年がかかった。 成田空港とも6年ぶりの再会だ。6年前も今回も、年明け早々日本を発つ。クリスマスや年越しのシーズンを過ぎてから海外渡航するのは、飛行機のチケットやホテル代が少し安くなるというのが理由。だけど、非日常的な季節に旅

きっとまた会いに行く。

朝、ラジオから流れてきたニュースに私は耳を疑った。出かける時間が迫っている。バタバタと出かけ、画像付きで首里城の様子を見たのはお昼過ぎのことだった。   記憶の中の沖縄沖縄の青空の下、くっきりとした鮮やかな赤で堂々たる存在感を放つ私の記憶の中の首里城は、暗闇の中、炎に包まれていた。こうして書いているだけでも胸が痛む。私はかつて一介の旅人として沖縄を訪れたことしかないのだけれど、それでも。   沖縄を訪ねたのは数年前のちょうどこの時期。その頃私は心身ともに本当に疲弊して擦り

長崎からの手紙

そんな旅の「楽しみ方」を私に教えてくれたのは、大学の同級生だった。 旅先から、家族や友達にではなく、自分に手紙を書く。それまで学校の修学旅行以外に旅行らしい旅行をしたことのなかった大学生の私にとって、彼女のその習慣は、ひどく大人びた、特別な楽しみ方のように思えた。 * * * 今でこそ旅先から自分に手紙を出すことは、私の旅の定番になっているけれど、初めて旅先から自分に手紙を書いたとき−−もう10年近く前になる−−はひどくドキドキしたのを思い出す。 そういえば、あの手紙

ゆめはいまもめぐりて。

年末年始、地元に帰った。高校卒業までを過ごした街。 新幹線で北へ向かうその車窓からは、トンネルをくぐるたび、視界に白の面積が増えていくのが分かる。雪が、枯れ木に花を咲かせているのだった。 駅のホームに降り立つと、お馴染みの凛と冷えた空気が身体を包むのがわかった。春夏秋冬をどれも等しくこの街で過ごしたはずなのに、この街を思い出すとき真っ先に浮かぶのは冬の記憶だ。 最高気温すら氷点下を記録することも珍しくないこの街で、寒さに奥歯を震わせながら足早に歩いた通学路。夜寝る前、凍

連なる記憶

夜空という名のキャンパスに、大輪の花が次々に、そしてどこまでも咲き誇る。視界いっぱいの、いや、視界を優にはみ出すほどに大きな、一瞬だけ咲いては消える花たち。 花火の開始直後はとにかく大興奮で、この壮大な景色をどうにか記録しようと必死でスマホの撮影ボタンを連打していた。でも今はただ、この夜を記憶しようと空を見上げている。スマホの代わりに、慣れ親しんだブランドのお酒の缶を持ちながら。 * * * 遡ること、数時間前。ユキさんと私は、人で混み合う東京駅地下・グランスタにいた。

一人じゃできない一人旅。

わたしはよく一人旅をする。でも最近思う。 「一人旅って一人じゃできないんだよな」 もちろん、旅先で誰ともそれほど関わらず帰ってくることもある。でも、わたしをその場所へ運んだのは、ガイドブックごしに知る「誰か」の情報だったり、身近な人のお土産話だったりする。 そしてやはり、一人旅は旅先で誰かと関わることが圧倒的に多いと思う。道に迷っても、一緒にいる誰かが代わりにガイドしてくれるわけでもない。自分で、地図や周りの人に助けられながらなんとかなる、そんな経験をどれだけしてきたこ

駅から駅へ ドアからドアへ

乗り換えを間違えることも 出口を間違えることも 迷子になることも すべて想定済み。  間違えながら、迷いながら 最終的にたどり着けばいい。 「絶対間違えちゃいけない」。 「絶対迷っちゃいけない」。 そう思うと苦しい。 そういうこともある。 と想定した上で、できる限りのことを。

飛び立とう、国内外の「異国」へ

■映画「君の名は。」映画「君の名は。」を観たことのある人は少なくないだろう。直接観たことはなくとも、タイトルくらいは知っているのではないだろうか。「トウキョウ」で暮らす男子高校生と、「ド田舎」で暮らす女子高校生の、夢を通じた入れ替わりの物語。 エンディングがどうなるかは観てのお楽しみといったところだが、わたしの夢は、「海外留学」だけではなく、「君の名は。」のようないわば「国内留学」を通じて、より多くの人に実写版「君の名は。」の主人公になってもらうこと。そして、「ここ」以外の