「お腹が減るのは誰のせい?」
彼女は結婚して、ほとんどないと言っていいほど、旦那さんと食事をしたことがありませんでした。
なぜか?
なぜかって?
理由なんてないのです。
彼女と旦那さんは好き同士で、利己的な関係でした。
彼女は朝は遅く起きて夜は遅く寝るの繰り返し。
旦那さんは朝早く出て、夜遅く帰るけれど食事は外で済ませるの繰り返し。
そちらの方が効率的だったからです。
彼女はそれでも、料理を作りました。
一緒に食べたくて。
旦那さんは彼女のために終わらない仕事をしました。一緒に生きていきたくて。
彼女は帰らない旦那さんに気を使って、料理を作っていないふりをしました。
旦那さんは彼女に気を使って、お金をたくさん渡してこれで何か食べておいでと言いました。
彼女はこんな事ならお腹が減らなければいいのにと、神様にお願いしました。
すると次の日から彼女のお腹はすかなくなり、代わりに彼女はずっと涙が止まらない病気にかかってしまいました。
旦那さんは毎日泣く彼女にこう言いました。
「どうして泣いているの?」
わからない彼女はこう答えました。
「お腹が減らないの」
お腹が減らない彼女に聞きました。
「どうしてお腹が減らないと涙が出るの?」
彼女は泣きじゃくった顔でこう答えます。
「わたし、生きたいのにお腹が減らなくて困ってるの。食べないと力が湧かないのに、のども乾かないし、お腹も減らない。どうしたらいいの?」
嗚咽する彼女をみて旦那さんは一緒にご飯を食べようと言いました。
二人はまぁるいおにぎりをパクパク食べました。
二人は泣きながらモグモグ、小さい口を動かしました。
「おいしい…」
彼女はそう言いながら笑いました。
「うん、美味しいね…」
彼女の病気は治り、お腹はまた減るようになりました。
好き同士の二人は、毎日向かい合ってご飯を食べるようになりました。
どんなに忙しくても、目を見て、笑って、食べるようになりました。
夫婦は、いつの間にか効率的なことばかりに目を奪われていました。でも一番大切なものに気付いたのです。
「どうしてお腹が減るの?」
あなたが、食事を一緒にしたい人は誰ですか?