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腰痛あり

腰の痛みは日常動作の色んな場面で支障を来します。突然発症すれば、急性腰痛症、じわじわと痛みが増して日々痛みが消長すれば慢性腰痛症です。かつてB747の機長を長年勤めてこられたエアマンが、退職後に自家用機でフライトを楽しみたいと思っていたところ、操縦姿勢が持病の腰痛に差し障り、泣く泣く長年の夢を諦めたという例を見たこともあります。腰の痛みで操縦していられないとなれば、インキャパ状態と言わざるを得ません。

若年のエアマンでは慢性腰痛は稀であり、多くは急性のギックリ腰です。これは最近増えていて、その背景には肥満と運動不足があります。体が重く、広背筋が脆弱だと、ちょっとした体の捻り動作で筋を捻挫してしまいます。コルセットを装着して痛みを和らげることが出来ますが、それに依存するのは宜しくないという整形外科ドクターの意見もあります。まずは装具装着で痛みを早く和らげ、その後は地道に減量と筋トレに励むのなら、それが王道でしょう。

中年以降のエアマンでは、脊椎の辷(すべ)り、椎間板ヘルニア、それに脊柱管狭窄といった骨と関節の変性疾患の割合が上がります。多くの消炎鎮痛剤は航空業務に支障を来しませんが、痛みが強くなってオピオイド系鎮痛剤など準麻薬を使わないと痛みが緩和しないとなれば、それは不適合状態でしょう。手術という整形外科的な治療を検討しなければなりません。しばしば相談されるのですが、実直なところ、この領域の外科治療は手術適応と術式標準化の途上にあり、診察医師によって意見が異なることが稀でありません。患者側は当然不安となり、口コミ程度の情報まで判断材料にしている有様です。是非セカンドオピニオンを仰ぐべきでしょう。

今後女性の中高齢エアマンが増えてくると、骨粗しょう症による椎体骨折や硬化症にも注目すべきです。女性ホルモン分泌が急速に低下する40歳代以降、骨代謝異常による腰痛が増えてきます。脊柱側弯がある女性は、特に椎体へ体重がアンバランスにかかるため、軽微な楔状の陥没骨折を起こします。普段からカルシウムと蛋白を積極的に摂り、運動機会を作る努力が実を結びます。

今後、職業操縦士の引退年齢が更に引き上げられて高齢者でも飛び続けられるとなると、慢性骨髄腫や腎・尿管癌といった悪性疾患も慢性腰痛の原因として重要となってくるでしょう。多くのエアマンがより長く飛ぶことが出来るのは喜ばしいことですが、第一種航空身体検査が乗客の安全第一を使命とする以上、自己の健康に関する普段からの不断の努力が一層求められています。


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