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寺田蘭世さんのお店=HONEY ROSIE HOUSE でおしゃれをしよう!〔後編〕
ここまで色々なアイテムを選んできたわけだが、お会計する前にしておかないといけないことがある。すなわち、これらがいくらになるのかの合算だ。
このたびの私はコスパでアイテムを選んではいない。それなら他の店に行く。かといって、何かしらの権威を求めてお高いものを買いにきたわけでもない。心にビビッときたら後はなんでもいいやぐらいのノリでやっている。しかし私の財布には予算という限界がちゃんとあり、そうなると1つ問題がある。
暗算が意外と……。
両手にアイテムをたくさん持ったままチマチマ暗算して予算とすりあわせるのは思いのほか難儀した。一応、ちゃんとした大学を出ているハズなのだが、こういうときの私はびっくりするほどか弱い生き物になると知る。たぶん、今ここでやったらそんなには手こずらないと思う。本当にか弱い生き物だ。
バカ③:絶望的な暗算力
そんなこんながありつつも、いくつかアイテムを足し引きして辻褄合わせを完了する。さあここからはお会計だ。蘭世さんが待っている。
レジへと向かう列に並んでいるとき、私は妙に穏やかだった。ちらちら蘭世さんが見えている。話し声も聞こえてくる。その割に手が震えはしなかった。チケットを申し込むだけでお手々がぷるぷるするような人間なのに。
もはや言うまでもないことだが、私は蘭世さんのことを人として尊敬している。なので気負いはある。しかし不思議と緊張はしていない。
これはひとえに寺田蘭世さんが醸す空気感ゆえかもしれない。一言で言うなら自然体。いや、それを言うならこの空間そのものがニュートラルだ。
考えてみると、私はおしゃれというものに対してそういうイメージを持っていなかった。おめかしなるものは改まってするものだと考えていた。しかし蘭世さんは違う。日常でも非日常でもそれら全てにおしゃれがある。
1週間ほど前、道に迷わないよう下見に来たとき、ちょっと気後れしていた自分を思い出す。しかし今の自分にそういうものは全くなかった。蘭世さんが求めたこの空間にはびっくりするぐらい虚飾がない。
遂に目の前まで来る。この日は100円玉が少なくなっていて、私の前に並んでいた人達もしっかり配慮ある支払いを行っていた。ならばとばかり、私もそれに倣って100円玉から出していく。
1枚、2枚、3枚……
4枚、5枚、6枚……
7枚、8枚、9枚、10枚……
蘭「!?」
私「 ( ̄ー ̄)ニヤリ」
11枚、12枚、13枚、14枚、15枚……
16枚、17枚、18枚、19枚、20枚……
蘭「どうやって貯めたの!?」
私「この日のためにコツコツと」
21枚、22枚、23枚、24枚、25枚……
26枚、27枚、28枚、29枚、30枚……
蘭「そのお財布どうなってんの?」
私「じゃあ次は千円札で」
1枚、2枚、3枚……
4枚、5枚、6枚……
7枚、8枚、9枚、10枚……
11枚、12枚、13枚、14枚、15枚……
16枚、17枚、18枚、19枚、20枚……
百円玉30枚と千円札28枚でお会計!
今を去ること4月。チケットを取れなかった私はヤケクソじみたテンションでいいねとリポストを行った。その途上で小銭や千円札が不足しがちだと知ったので、自分が行くときはありったけ持っていこうと思っていた。
多少なりとも喜んでもらえたようで良かった良かった。持ってきた甲斐が……、
ん?
レジ打ちを担当していたスタッフさんが数えなおしている。
しまった……!
一応、念のため、この58枚を一から数えなおさなくてはならないのだ。そんなこと1ミリも想定していなかった。ナンテコッタイ!
私「すんません。ちょっと調子乗りました」
蘭「やりおったな (*゚▽゚)ノ」
バカ④:調子に乗りすぎた
正直に本音を白状すると、この辺のくだり全部ひっくるめて超楽しかった。スタッフさん、ごめんなさい&ありがとうございました。
私がアホなことをしている間、持参した袋に蘭世さんがアイテムを入れていた。58枚をしっかりと数えてもらったあと、購入したアイテムを蘭世さんからこれまたしっかりと受け取る。ありがたい。
名残惜しいが一礼して部屋を出る。得難い体験ができた。今年中にここに来れて本当に良かった。うん、よし……、次の時間帯でもっぺんお店に入ろう。
実はもう1枚チケットがあった。
「ありがとうございます! また、またいつかどこかで……!」みたいな目力で退店しておきながら、しれっとまた普通に来店する。
2度目には2度目のおもしろさがあった。今回はもう少し視野を広くして、自分には買えない服の数々を今一度まじまじと眺めてみることにした。
2年前、不完全に語り尽くしたときも思ったことだが、蘭世さんが好むものはこまやかにあらぶっている。奇抜さのみを追い求めてはいないが、さりとて普通の枠には収まらない。どこかでなにかが混沌としている。
デニムの上着の1つ1つを眺めてみても、蝶の模様が刻んであったりボタンに特徴があったりする。ネタに一手間加える江戸前寿司のような衣服が並んでいて、私達は一筋縄じゃいかないぞ……と言っているかのようだった。
既に買われていったアイテムのことを想うと、誰もまだ手を付けていない開幕1ターン目のスターティングラインナップも観てみたいと思った。しかし片鱗をうかがうのも、それはそれで一期一会の醍醐味かもしれない。
ひとしきり見学を終え、今度は自分のことを考える。欲しいものはあらかた手に入れたが、まだもうちょい何か買ってもいい。しかしここで、極めて深刻な問題が発生する。いや、その、ホント、実に、実に言い辛いのだが……、
千円札がない。
Suicaに突っ込んだ電車賃含めて既に30枚の千円札を消費している。もしここで3千円ぐらいのアイテムをレジに持っていった場合、財布から予備の1万円札を出すしかない。そうなるともちろんお釣りは千円札。(他の人の支払い方法によっては)自分がさっき湯水のごとく出した千円札を回収するまである。これはダサい。どのツラ下げて1万円札を出すのかという話である。
バカ⑤:未来を見据えていない
よし、600円のポストカードにしよう。(一定額以上を支払うとおまけでもらえる)直筆メッセージ入りポストカードは既に品切れだったようなので、普通のポストカードを買う理由はある。そうだ、そうしよう。
そして何事もなかったかのようにレジへ行く。
レジにて蘭世さんに「これからもがんばってください!」系の言葉をいくつか伝えるが、この文章を書いてる内に「いやおまえががんばれよ」という気分になってきた。ちゃんとがんばって生きていこう。
そのぐらい何もかもぐだぐだであったが、これにてお買い物を終了する。去り際に手を振ってもらえたのが純粋に嬉しかった。
購入したアイテムと共に建物を出る。なんやかんやで私はホクホクだった。後は家に帰るのみ。家に帰るまでがお買い物……、
そうだ、建物の写真を撮ろう。
店の中を撮影するのは禁止されている。だが、借りているスタジオハウスの外観を記念に1枚写すのは良かろうと思い、少し離れたところからiPhoneを構える。
しかしそこでふと気づく。この建物を訪れたのは来店5分前であり、そのときは意識になかったのだが……、2階の大きな窓から商品ががっつり見えている。
奥の方こそ角度的に見えないが、窓際に服が並んでいる形だ。これは……、いわゆるショーウインドー的なものなら問題ないのか? いや、でも、この場合……、
うわああああああ! 蘭世さんが窓際を歩いてるううううう!
遠くからなので色彩と輪郭ぐらいしか見えていないが、先程まで話していた人間を見間違えるハズもない。蘭世さんが普通に窓際を歩いている。
撤収! 撤収! 何も写さない! 何も残さない!
もはやちゃんと考えるまでもなかった。私の中で問答無用のNGアラームが鳴り響いたのであたふたしながら撤収する。そしてちょっと道に迷う。そんなこんなありつつも、私はなんとか家にたどり着く。愉快なアイテムたちと共に。
……
…………
……………………
あー、楽しかった。
ここまで読んでくれた方々には一目瞭然だが、まったくもって完璧なお買い物ではなかった。謎の手とか暗算とか数え直しとか謎の手とか謎の手とかあと謎の手とか、生来の粗忽者っぷりを存分に発揮してしまった。
何かとゆれまくっていたので、自分を貫けた自信はあまりない。しかし楽しんではいた。いざ書いてみても「こいつ楽しんでやがるな」と思う。買ったアイテムについても、日々の生活で既に使わせてもらっている。「これどの局面で使おうか」となるものも多少あるが、それを考えてみるのもおもしろい。
あたたかな空間だった。
私なんぞが蘭世さんの、おしゃれに込めた想いを丸ごと全て汲み取れるとは到底思えない。だが伝わったこともあると思う。
お店に入る前後でいろんな感情があったのが、いざ入ってみて特に大きかった感情は「ホッとした」だった。チケットを取れたときもホッとはしたが、それともまた違う感情だった。そうなるとは考えもしなかったので意外だったが、9ヶ月前の蘭世さんの言葉がふと頭をよぎって腑に落ちた。
houseにはここがお家のように安心できる場所になってほしい 絶対に帰ってくる場所をhouseに込めました(2023年3月19日)
発する言葉にまわりくどさはない。その場でもひととおり理解はできるが、ちゃんと実感するのは大抵もっと後になる。ようやくちょっと追いつけた。
1人の人間として、そしてセレクトショップの主としても見栄を張らない。世の中に迎合せず、かといってその逆を行くわけでもなく、はたまた斜に構えるのでもない。適度な距離感で自分の道をまっすぐ歩いている。私の目にはそう映る。
何もかも初めての事ばかりですが自分がやるということに意味がある。こだわりとあたたかさをもって頑張ります(2023年3月16日)
寺田蘭世さんは "個" を大事になさる人だ。その一方でみんなのために間を作る。時には矛盾する要素を抱え込みつつ歩んでいる。世界を広く渡り歩くのも、等身大のお店を開くのも、この人はどこまでも寺田蘭世なのだと改めて思った。
今の令和という時代において、この在り方がどこまで行けるのかはわからない。きっとこれから大変なことがいくつもあるのだろう。だが私にとって、蘭世さんが世界を歩いてお店を開くのは愉快なことだ。だから末永く続いて欲しい。
HONEY ROSIE HOUSEがこの先も繁栄することを祈りつつ。ほんのちょっとのささやかながら、ちょっくらおしゃれをしていこう。
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