【1分ショート小説】頬の香り
電車の時刻を気にしながら駅まで向かう。
本屋の前の狭い歩道で、前から来たベビーカーを押す女性とすれ違った。
その瞬間、何かが香り、頬のなめらかな感触と首筋がフラッシュバックした。
振り返ってもそこに知った人はいない。
これはファンデーションの香りだ。M先輩がつけていたものと同じの。
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電車の扉にもたれながら、M先輩を思い出していた。
あの人を思い返すときはいつも、頬を寄せる感触と薄い化粧の匂い。唇を重ねるとピリピリとして、その違和感に夢中になった。
いまどうしているのか気になることもあるけど、それほど調べようとも思わない。
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渋谷に着いて、スクランブルスクエアの地下に向かうと、先にSが待っていた。
Sは香りがしない。いやな匂いもよい香りもしない。白いTシャツに鼻を近づけると、たまにSの家の柔軟剤がうっすら香るがすぐ忘れてしまう。
これからさき、道を歩いてふとSの肌を思い出すことがあるだろうか。
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物理学の学び直しに使って次の創作の題材にします!