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イタリア滞在記(12) イタリア映画

Cinema di Francesca はチェファルの旧市街にある小さなクラシカルな映画館。週末の夕方にオープンする。学校の先生の一人がここで映写技師の仕事もしていて、「来週末は何を上映するの?」と聞いても、「うーん、まだ決まっていない…」 という答えが返ってくるようなのんびりした映画館だ。

Cinema di FrancescaでIl Postino を観た。これが4回目。
最初に観たのは多分20年以上前。ニューシネマパラダイスが日本で大ヒットした後だったから、きっとこの映画もいいはずと期待して観たのだけれど、正直その時は主人公の話し方があまり好きになれず、日本語字幕があるにもかかわらずストーリーが全く頭に入ってこなかった。

それから何年も月日が流れてイタリア語学習を始めてから、イタリア映画も観るようになった。先生から勧められる映画を次々と観るうちに、どんどんイタリア映画が好きになっていった。

そして、Il Postino
チリから亡命してきた詩人パブロ・ネルーダと知り合った一人の無気力プー太郎青年の成長譚。
一言で言えばこうなるのだけれど、まるで境遇の違う二人の間に芽生える友情と詩人への半端ない主人公の畏敬の念が、あまりに純粋過ぎて泣ける。
2回目に観た時、1回目に観た時のことが嘘のように本当に感動した。

主人公マリオを演じたマッシモ・トロイージの話し方はやっぱりあまり好きではないけれど、役作りなのかもしれないことと、彼は心臓の重病を患っていて、この映画撮影時もかなり状態が悪かったということも関係していたのかもしれない。映画監督でもあるトロイージが原作に惚れ込んで、友人の英国人映画監督に頼んで映画化に漕ぎつけたという。
そして撮影終了の12時間後に息絶えた。。。こんなことを知ると、文字通り映画の中で彼が命を削りながらマリオを演じている姿は、もう涙なくしては観られない…となってしまう。

そして今回は4回目。
これまで日本ではサブスクシステムを通してテレビ画面で観ていたけれど、本場イタリアの小さな街角の映画館。ここから外に出て5分歩けば、白い砂浜が続き、透き通った海に夕日が沈んでいく景色が目の前に広がる環境の中で、Il Postinoを観る贅沢と言ったら… 
自分がここに今居るという幸せを改めて噛みしめた。

祖国へ帰ってしまってからのネルーダからの連絡をひたすら待ち続け、詩人がこの島で過ごした日々を忘れないようにと、島のあちこちで一生懸命自然の音を録音する場面は、もうスクリーンが涙で霞んで見えなかった。

私は次いつここに戻ってこられるんだろう。そんなことをぼんやり考えながら、私もこの街のあらゆる光景を、脳裏に焼き付けておきたい衝動にかられた。

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