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世界征服やめた 解説にはならない解釈

自分なりの解釈&感想を記載します。
説明無しに現実世界と概念世界が交互に出てくるから短編ながらに複雑で、解釈の難しい映画だと感じた。

大前提として、歌詞の解釈と照らし合わせると、この作品で藤堂日向は初めから亡くなっていて、萩原利久が友人の死に引っ張られながら、それを受け入れて進むまでを描いた物語なのだと思う。

そしてこの映画は、概念世界と現実世界をふんわりと分け、2つの世界が相互に作用しあっている構成と考える。

概念世界:通勤中の道、会社の中、屋上
現実世界:萩原の家の中、居酒屋

冒頭の夕焼けを見ながら映る藤堂くんの背中は、彼の生前の最後のシーン。おそらくあのシーンで藤堂くんは自殺していて、それからサラリーマン萩原のシーンが始まる。
最初の通勤のシーンで、周りのスーツを着た人物は皆止まっており、萩原だけが歩いている。藤堂日向はスーツ姿だが鞄を持たず、萩原にひたすら話しかける。
会社のシーンも、MVのような大仰な演出だったのでおそらく仕事の概念世界。屋上でパンを食べるシーンで藤堂が登場するものの、それも萩原が見ている幻と考えられる。藤堂と会話する萩原はうざったそうに藤堂に言い返すものの、じゃんけんには答え、線を踏んだらどうこうのフリにも答え、そのうえでほんの少し悲しい顔をしているからだ。

私が観ていて何より痺れたのは萩原の家の中のシーン。この映画の中では恐らく現実世界に該当する。歯を磨き、スマホを弄る日常シーンが続いたと思えば、自然な動作で踏み台を取り出す。部屋全体を映す定点カメラで、歯磨きシーンでは萩原が手前に立っているためそちらに視線が行く。踏み台を取り出したところで、観客がはじめて首吊り用の縄に気づくようになる演出は見事だと思う。
歯磨きして、携帯の充電までして、そのまま自殺するなんて、と驚くような流れ。萩原の演じる人物が、日常の至る所で常に「自殺」という選択肢を持って生きていることが分かる演出。
首吊りの縄が切れ、咽せる萩原の演技はさすがだった。この男はほんっとうに苦しそうな演技が上手い。最近だと「晴れたらいいね」の兵士役がエグかった。

予告から超〜楽しみにしていた居酒屋シーン。ローテンションで会話していたかと思えば、箸を置いた瞬間に怒りだして、視線で圧をかけてくる感じは萩原の真骨頂で最高だった。
藤堂は幽霊的な存在だと思っていたが、このシーンでは普通に店員に注文して飲食している。わたしはこのシーンは回想なのかなと考えた。「明日死ぬんだ」という藤堂を止めるどころか、さらに追い詰めるような言葉をかけたことを後悔している萩原が、居酒屋で1人で飲んで回想していると考えれば、卓で目覚めて井浦新に水を渡されるシーンで1人だったことも納得がいく。

深夜に「お前はもう居ないんだよな」と呟いて走り出す萩原からの屋上の藤堂の長セリフ。藤堂の「世界征服やめた!」という宣言を受け、萩原もその後のシーンで「世界征服やめた」と呟く。
このシーンの後、萩原がどこかすっきりした表情になって映画が終わる。これを解釈すると、明るくポジティブな事ばかり言っていた親友が突然自殺して、どうして彼が死んだのか、彼より暗くて後ろ向きな自分がなぜ生きているのか分からなかった萩原が、屋上の藤堂の叫びで、彼が色んな葛藤を抱えながら生きていて、何かを諦めて死に至ったことを理解し、彼の死をようやく受け容れる。親友の死を受け止めたことで、辛いだけの日常をなんとか生きていこうと踏み出せるようになる…という描写に思えた。

解釈は人それぞれだと思うけど、私が考えた答えはこんな感じです。萩原の視線の強弱の使い分けと、藤堂の常に神経を張り巡らせて明るく振る舞っている演技が凄く良かった。謎が多いけど、いい映画でした。

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