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100年前に描かれた理想の杜 明治神宮に造られた植生遷移

東京の中心部に生い茂る豊かな緑。
初詣や結婚式などで有名な明治神宮は、100年ほど前に人の手によって造成されました。

大正9年(1920年)に創建された明治天皇と皇后の昭憲皇太后をおまつりする神社。
境内に広がる鎮守の杜は、広さ約70ヘクタール。全国から寄せられた約10万本の献木を植栽し、永遠のもりが造成されました。

明治45年(1912年)に明治天皇が崩御されると明治天皇を祀るための神社を建立しようという気運が高まりました。
建立地の候補には全国各地の霊地や景勝地などが挙がったのですが、縁故や参拝者の利便性を鑑み、最終的に武蔵野の一部である代々木御料地が選定されます。

造成当時、代々木の地のほとんどは農地や草地。林地は僅か1/5程度に過ぎなかったため、神宮にふさわしい荘厳な神社林の造成計画が立てられます。
当時最先端の技術者や専門家から構成された明治神宮造営局によって、全国からの献木が、将来、自然林に近い状態となっていくように植栽されていきました。

理想の神社林を造るために、この地の気候風土に適し、天然更新の可能な樹種を選択。
かつてこの地方に存在した森林の状態を再現することができれば、人手を加えなくても長く林相を維持できると考えられたのです。

鬱蒼と茂る神社林を造営するため、暗い環境に適した照葉樹を主木に各種の常緑広葉樹、都市の大気汚染にも強い樹種、神社の林苑であるため日本の樹種などが選ばれ、50年、100年といった将来の様子を予想して植栽計画が立てられました。

林苑ノ創設ヨリ最後ノ林相ニ至ルマデノ遷移ノ順序
(参照: https://www.meijijingu.or.jp/midokoro/

【第一段階の森】
一時的な仮設の森。主な上冠樹に先駆樹種であるアカマツ、クロマツを配し、その間に成長の早いヒノキ、サワラ、スギ、モミといったやや低めの針葉樹を交え、下層には将来の主林木となるカシ、シイ、クスノキなどの常緑広葉樹、さらに下木として灌木を植栽。

【第二段階の森】
林冠の最上部がヒノキ、サワラなどに入れ替わり、数十年後には林冠支配木へと成長。マツ類は点在する状態にまでに徐々に枯れていく。

【第三段階の森】
カシ、シイ、クスノキ類の常緑広葉樹が優位となり支配木に。その間にスギ、ヒノキ、サワラ、モミなどが交じり、さらにクロマツ、ケヤキ、ムクノキ、イチョウなどを混生した状態へ。

【第四段階の森】
カシ、シイ、クスノキ類がさらに成長し、大木を混生した天然相林に。

全国の篤志家、役所、団体、学校などから寄せられた献木は実に350種類以上。原宿駅からは引き込み線が設けられるなど、大がかりな搬送・植栽が行われ、その作業には日本各地で組織された青年団も奉仕として参加していました。

常緑広葉樹林が成立するためには300年以上の時間が必要という報告書がある一方、的確な予想、良好な生育、行き届いた人の手入れと管理によって、神宮の杜の植生遷移は大幅に短縮され、既に森は成熟期を迎えています。

明治神宮の森は自然林の状態を造るという計画のもとに造営されましたが、それは人の手を加えないという意味ではありません。
掃き集められた落ち葉はすべて林内にもどされ、参拝者の安全のため参道に張り出した枯れ枝は自然樹形を損なわぬよう切り落とされるなど、自然の森を守るためのきめ細かな配慮がされています。

森の成長段階において人工的な状態を整えているため、これからも森が更新期を迎える度、正しく維持し引き継いでいく必要があるそうです。

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もし、この地に武蔵野本来の森が残されていたとしたら、自然条件のせいで限られた少数の樹種しか生息していなかったと考えられています。
全国からの豊富な献木樹が植栽された明治神宮の森は、自然林に近い森林に成長していますが、植物社会学的に言えば、あり得ないような林相へと生い育ちました。

境内の森は公園でも庭園でも林業地でもない、永劫に維持されるべき神社のもり
立地条件に合わず衰退枯死した種類も多いそうですが、それでも極めて多様性が高く、また、よく似た樹木が隣り合って植栽されているので簡単に互いを見比べることができる不思議な森です。

シイ、カシ、クスノキなどの大木が頭上に広がる「永遠の杜」。
樹冠を見上げながら、ゆっくりと歩いてみませんか?

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参考文献:
大都会に造られた森―明治神宮の森に学ぶ
松井光瑶 / 谷本丈夫 / 内田方彬 / 北村 昌美 共著

明治神宮、内苑、外苑、表参道、裏参道など、大都市の都市整備・開発計画、造営に尽力した人々、二度に渡る世界大戦や関東大震災の影響、どうして神社に付随する土地に野球場があるのかetc. より詳しく知りたい方はこちらもどうぞ。

明治神宮―「伝統」を創った大プロジェクト―
今泉宜子 著

2022年6月21日 夏至

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