植物と切り開く未来 その行先は?
人の生活に欠かす事のできない植物。
身近な存在と思いきや、なかなかに謎多きお隣さんです。
さて、その種類は一体どれくらいあるのでしょうか?
地球の植物の種類は名前がつけられているだけで約27万7千種。分類の仕方によっては30万にのぼるとも言われています。
普段から目にしている草木はほんの一部に過ぎず、毎年2000種以上の新種が今でも発見され続けているそうです。
人が活用している植物の種類は31,000種以上。その内、18,000種は医療目的。6,000種は食物。11,000種は建築用資材や繊維。1,300種は社会的目的。1,600種はエネルギー資源。4,000種は飼料。8000種は環境目的。25000種は毒物。全植物の約1/10が人によって直接利用されているのだとか…
なんだか気が遠くなってしまいますね。
進化の過程において全く異なった戦略を取った植物と動物。
機能や性質は大きく異なっています。
それでは、人や動物には備わっていない、植物の特性を活かした新たな可能性はないのでしょうか?
人が何かを新しく作り出そうとする時、自らに備わる機能や要素を参考に倣おうとします。
果たしてそれはベストな選択なのでしょうか?
近年では、自然を観察したり、生物のもつ優れた機能や形状に着想を得て模倣して、工学や医療分野に応用するバイオインスピレーションというアプローチが始まっています。
ロボット開発においては、動物や昆虫の生態を学び模倣するアニマロイドやインセクトイドが製作され、成果を上げているそうですが…植物にヒントを得たロボットというのは存在しないのでしょうか。
アンドロイド(人型ロボット )やアニマロイド(動物型ロボット)に対し、植物を模した新世代のロボット。動くことができなくても、環境に順応し、ネットワークを築きながら解決方法を探ろうとする、プラントイド(植物型ロボット)の開発は既に始まっています。
夢のようなプロジェクトの向かう先は宇宙、火星探査プロジェクトです。
約10センチ程度の大きさの小型のプラントイドを多数作成して、惑星探査のために地表に散布。大気中で種子のように弾けて広範囲に散らばり、落ちた先で根付いていきます。土壌に差し込まれた根は地下を探索、互いに連絡を取り合いながら土壌データなどの送信を進め、葉は光電池を使ってエネルギーを自給する…
莫大な費用がかかるのに動きは遅く、探査範囲も限られた大型ロボットの代わりに、無数のプラントイドを送り込めば、たちどころに火星の地図が作成されるかもしれません。
植物の大きな特徴であるモジュール構造。
いくつもの同じパーツから構成されるだけでなく、接ぎ木にみられるような複数の個体が結合した集合体という特性は、今後もロボット開発に応用されていくでしょう。
植物のモジュール構造は、既に建築において大きな成果を上げています。
その発端は、1851年に開催されたロンドン万国博覧会。
ロンドンのハイドパークを会場とする世界初の万博では、予算と工期の関係で会場施設の建設が難航していました。
が、そこに突如、ジョセフ・パクストン(英:1803-1865)による革命的なアイディアが登場します。パクストンは造園家として手掛けていたオオオニバスの葉から大きなインスピレーションを受け、巨大なアーチの天井や、半円形天上を設計。あらかじめ製造した同一のモジュールを利用して、鉄骨とガラスでできた画期的な巨大建造物、水晶宮を短期間で建てることに成功します。
この工法は、後のプレハブ・ユニット建築へとつながっていきます。
植物は生まれた場所から動くことができないため、動物の協力がどうしても必要なことがあります。
種を撒き散らしたり、受粉を行ったり、敵から身を守ってもらったり…
利用される方は、蜜や果実、生存に必要な食糧や、美しい花や樹木による癒しや鑑賞といった報酬を受けています。
人は食糧確保のため、コムギ、トウモロコシ、コメといった特定の種を保護・改良して生存性を高めるだけでなく、塩分濃度の高い土地や海水への耐性が高い塩生植物の研究や、無重力という宇宙環境下での植物の適応力の調査などを進めています。
植物にとって、人は守り手や運び屋といった資源のひとつなのかもしれません。様々なアイディアやインスピレーションを与えて、次のステージを待ち望んでいるようですが… 人が期待に応えるには、まだまだ時間がかかりそうです。
参考文献:
植物は〈未来〉を知っている 9つの能力から芽生えるテクノロジー革命
ステファノ・マンクーゾ / アレッサンドラ・ヴィオラ 著
2022年10月23日 寒露