マガジンのカバー画像

コミネキ緑樹園

25
今まで読み溜めてきた森林、樹木、木材から環境や生物、水資源等に関するまとめ
運営しているクリエイター

記事一覧

緑の世界は果てもなく…

今年ももう12月。樹木に関する投稿を始めて1年が過ぎようとしています。 仕事の関係で足を踏み入れた緑の世界。 バックグラウンドとしての知識を身につけようとして始まった渉猟なのですが、改めて読書録を振り返ると森林をテーマとした文化史・環境史からスタートして、林業や建材、水利や生物の進化、街路樹の見分け方に雑草の知識など結構幅広く読み漁っていました。 今回の投稿はこれまでの読書録をまとめる良い機会となったのですが、内容を森林・植物に絞り、投稿日を二十四節気(月2回)にしてみ

死んでいるのに生きている? 樹齢1000年 樹木が送る長い生涯

私たちを取り巻く緑の植物… あまりに身近でありながら、あまりにも異なる存在です。 同じ世界に存在していても、同じように年月を経てことはできそうにありません。 人に関して言えば、現在では100歳を越えるような方々も珍しくなくなってきていますが、長寿な樹木は1000年以上も生きていきます。 人がここまで長く生きるのは無理ですが、なぜ、樹木はこんなにも長く生きられるのでしょう? 樹木は動物よりとても長く生きるだけでなく、老化もしないように見えます。例えば、10年生のスギの葉と10

街や学校で季節を告げる 公孫樹と桜はちょっと特別な樹木です

秋になり、街路樹が黄色く色づき始めました。 日本の街路樹で最も多いのは公孫樹。学校の付近に植えられていることも多く、この季節になると、黄色の絨毯の上を銀杏を踏まないよう気をつけながら通学したことを思い出します。 イチョウといえば葉の形が特徴的。 扇形に広がって真ん中に切れ込みが入っていますが、植物を葉の形で分類したとき、この仲間に入るものはまずありません。 イチョウは針葉樹でも広葉樹でもなく裸子植物に分類されるのですが、なんと世界で最古の現生樹種の一つで、中生代(約2億5

植物と切り開く未来 その行先は?

人の生活に欠かす事のできない植物。 身近な存在と思いきや、なかなかに謎多きお隣さんです。 さて、その種類は一体どれくらいあるのでしょうか? 地球の植物の種類は名前がつけられているだけで約27万7千種。分類の仕方によっては30万にのぼるとも言われています。 普段から目にしている草木はほんの一部に過ぎず、毎年2000種以上の新種が今でも発見され続けているそうです。 人が活用している植物の種類は31,000種以上。その内、18,000種は医療目的。6,000種は食物。11,00

目や耳や脳を介さず感じる世界… 植物の静かで知的な生活

植物といえば静かに動かず穏やかで、芽吹いた場所に適応して生き抜いていく、環境に束縛された受動的な生物だと思われています。 が… これは本当でしょうか? 自由に動けなければ自発性がないのでしょうか? 目や耳を持たなければ、世界を認識することはできないのでしょうか? 発達した頭脳を持たなければ、考えることはできないのでしょうか? 知性を「生きているあいだに生じるさまざまな問題を解決する能力」と考えれば、明らかに植物は知性を持っています。 植物は外界からの刺激に対して適切に対応

緑が地に満ち 従わせ もたらしたもの

海の中に最初の生物が生まれ、光合成をするバクテリアが生まれ、そのなかから光合成の副産物として酸素を発生するシアノバクテリアが生まれたのが、今から約27億年前のこと。 やがて、光合成をするシアノバクテリアを体内に共生させた生物から植物が生まれます。 大気の中に酸素が満ちはじめると、上空の酸素が紫外線のはたらきでオゾンに変化。オゾン層が形成され、生物にとって有害な紫外線を吸収するようになると、酸素を使って呼吸をし、活発に動くことのできる好気性生物が生まれ進化していきます。生物の

緑あふれる青い地球 どうしてこうなった!? かというと…

昔読んだ小説もしくはマンガに海の底から水面に揺らぐ太陽を見上げるシーンがありました。気が付けば、私たちも大気の底から空を見上げています。 私たちは大気の海の底に沈んでいるのだ  Noi viviamo sommersi nel fondo d'un pelago d'aria ー エヴァンジェリスタ・トリチェリ(伊:1608-1647) 青い空、青い地球… 青く見えるのは大気のせい。とは言え、この惑星も初めから大気に包まれた緑の惑星であったわけではありません。 大気の主

緑のダムが森林ならば 地球のダムは何でしょう

「豊葦原の瑞穂の国」 葦がよく茂り稲が豊かに実る国 とは古事記や日本書紀に著される日本の美称。 水を豊かに湛えた草原は、古来より日本を代表する風景でした。 日本は古い国名を秋津嶋と言いますが、あきつとは蜻蛉の古名。トンボが多いということは湿地の多い場所。 日本の国生みにおいても、 伊邪那岐、伊邪那美の二神が、天沼矛 を渾沌に差し掻き起して島を生み出します。二神の初めてのこども水蛭子は不具であったため葦船に乗せて流されたとありますが、この情景として思い浮かぶのは果て無い沼沢地

きれいな水はどこから来るの? 緑の森の奥底抜けて

天然水、おいしい水、湧水、泉水、深層水 etc. 日本でも地下水を原水とするものや、ミネラルを添加したもの、水道水といった飲料水を詰めたものなど、さまざまなミネラルウォーターが売られています。 六甲、南アルプス、富士山といった名前が付いた天然水であれば、その地域で汲み上げられた地下水が適切に処理されてボトリングされたもの。 地下から汲み上げる天然水は、厳しい基準での品質チェックや、周囲の環境影響調査や地下水位を検査を通じた取水制限などが定期的に行われているに違いありませ

樹があるから水が保たれるのか 水があるから樹が育つのか

木漏れ日の下、鳥のさえずりが遠くに響き、爽やかな風が吹き抜けていく…とても素敵な森の情景ですが、これは人の手入れがあってこそ。 豊かな自然と言っても、人の手の入らないような原生の森で癒しを得るのは至難の業。 鬱蒼とした藪を分け入れば、生い茂った樹々の枝葉が明るい太陽の光を遮り、薄暗い足元にはハチ、ヒル、ダニといった虫たちがウロウロと… 手つかずの自然、といえば聞こえは良いですが、実際は人を寄せ付けない危険で厄介な場所なのではないでしょうか。 森に限らず、どうやら人は自分の

木を伐採するのに適した時期 新月伐採をどう思いますか?

オーストリアには「新月の頃に伐った木は虫がつかなくて、材が長持ちする」という古い言い伝えがあるそうです。 木の伐採には適した時期と月相があり、最適なのは冬の新月または下弦の月。このような時節に木を伐り出すことを新月伐採と言います。 春夏は緑に茂り、秋冬は葉を落とすといった成長サイクルからも、木を伐り出したときの季節が木材に影響するというのは、なんとなく理解できますが、月相が製材後の木材の質に影響するというのはいかがなものでしょう。 クリスマスのミサの日に木を伐って家を建

100年前に描かれた理想の杜 明治神宮に造られた植生遷移

東京の中心部に生い茂る豊かな緑。 初詣や結婚式などで有名な明治神宮は、100年ほど前に人の手によって造成されました。 大正9年(1920年)に創建された明治天皇と皇后の昭憲皇太后をおまつりする神社。 境内に広がる鎮守の杜は、広さ約70ヘクタール。全国から寄せられた約10万本の献木を植栽し、永遠の杜が造成されました。 明治45年(1912年)に明治天皇が崩御されると明治天皇を祀るための神社を建立しようという気運が高まりました。 建立地の候補には全国各地の霊地や景勝地などが挙

里山と木質資源 里山資本主義を振り返る

2013年に発行され、大きな反響を呼んだ藻谷浩介氏による「里山資本主義」。 2008年にリーマン・ショックが起こり、お金がお金を生みだすというマネー資本主義が崩壊。 2011年には東日本大震災が発生、これまでの原子力に頼った電力供給や東京一極集中型の社会構造が顕在化するとともに、持続可能性や再生可能エネルギーに対する関心が一気に高まりました。 再生可能エネルギーといえば太陽光や風力、地熱といった自然環境から得られるエネルギーと結び付けられがちですが、日本にとっては伝統的で

山林と里山 荒廃の意味するところ【日本・近現代】

在りし日の山林の姿… もはや目にすることは叶いませんが、当時の風景画からその様子を窺い知ることができます。 江戸時代の浮世絵師、歌川広重によって描かれた東海道五十三次。日本橋から京の三条大橋に至る道中には緑あふれる森林など見当たらず、遠景の山の木々も貧弱で樹木もまばらにしか描かれていません。 さらに時代を下り、明治時代から昭和の中期に撮影された農村の写真にも、豊かな森の姿を見つけることができないのです。 江戸時代には森林資源を確保するため、幕府や諸藩、社寺等が伐採の禁止や