小説「仮縫」著・有吉佐和子 読書感想文
大好きな肉乃小路ニクヨさんのYouTubeで紹介されているのを見て読み始めた。
有吉佐和子さんの作品は今まで映像でしか見たことがなく。
「和宮様御留」、「悪女について」、「不信のとき」など。
「仮縫」という作品は、以前に舞台化されていたことを知っていたのみ。
読み始めてまもなく会話の小気味良さに舞台にはぴったりの作品なのだと納得。
洋裁学校へ通う清家隆子は、学校の先生からオートクチュールデザイナーである松平ユキを紹介される。
ユキは隆子の様子を見て、自分のサロンであるパルファンで働いてもらいたいと希望する。
隆子はパルファンに入り、周りとの実力の違いに驚くが、少しずつ頭角を現し、野望を募らせていく。
ユキは自分の感性の衰えに恐れをなし、若かりし頃に過ごしたパリへ渡り、それを取り戻したいと考えていることを隆子に伝え、留守の間の切り盛りを彼女に託す。
その責任に喜びを感じていたのもつかの間、蓋を開けて見たパルファンの実態は隆子の想像を超える無理難題の巣窟だった。
ユキがパリへ旅立った後半あたりからは、怒涛の展開が繰り広げられ、若い隆子はその都度実力以上の力をひねり出す。
女性として、経営者として、デザイナーとして自分で自分を越えていく隆子。
やがて、パリにいるユキとの音信が途絶えるあたりから、読者であるこちらも不安になってくる。
若く美しい以外取り柄のないユキの弟でドアボーイの信彦、紳士で洗練されているものの軽薄な画商の相島など、うさんくさい男性たちとの交流の変化も物語の展開に不穏な空気をもたらしていく。
特にこの男性二人と隆子の会話が魑魅魍魎の詐欺師同士のようで薄気味悪い。腹を見せ合わない上辺の会話の面白さというのを楽しめる部分でもある。しかし、隆子はいつしか忙しさや成長する自分への過信からその「上辺」の部分を忘れてしまう。
ラストで「大人ってすごいなあ」と大きな荷物を持って歩き出す隆子が、洋裁学校にいた頃の子どものようで何だかとても可愛らしく思えた。
以前に、ある作家が向田邦子と有吉佐和子は同時代に活躍したのに前者の方が美人で亡くなり方がミステリアスだったからか編集者に気に入られていまだにやたら特集を組まれることについて苦言を呈していたが、私もこの「仮縫」を読んでその意見に納得した。
向田邦子作品は何作か読んだことがあるが、この「仮縫」はそれらよりもはるかに面白かった。
たぶん漫画家一条ゆかりの作品が好きな人は大体いい印象を持つのではないかと思う。一条ゆかりの世界観に似ていると思ったからだ。
これぞ娯楽、大衆小説というような作品に久々に出会えた。
他にも有吉佐和子作品を読んでみたいと思う。
ニクヨさん、素敵な出合いをありがとうございます。