#85. ヤドカリ生活1年目。今年最後のお引越し
今年、私は人生で一番「移動する年」を過ごした。
引っ越しの回数、なんと8回。
細かな行ったり来たりも数えたら、もはや「定住」という言葉がほど遠く感じられるほどに。
私は引っ越しを繰り返す生活の中で、気づいたことがある。
それは、「場所を変えること」に対する自分の概念が、少しずつ変わってきたということだ。
初めての引っ越しは、ものすごく気力と体力を消耗した。
部屋を片付けて、荷物をまとめて、新しい場所に移る――たったこれだけのことが、どうしようもなく重くて面倒くさかった。
特に私のようにマルチタスクが大の苦手な人間にとって、引っ越しはまさに「試練」だった。
それに加えて、私は物を捨てられない性分だ。
母からもらった、どう考えても一生使わないであろうメルヘンなカチューシャも、
誰がどう見ても私には似合わないキラキラのピン留めも、なぜか捨てることができない。
「いつか使うかもしれない」という言い訳なんて必要ない。捨てないことそのものが私にとっての安心だったから。
そして、大好きな人からもらった物はなおさら。
時間が経っても手放せないし、いつまでも残しておきたい。
だからこそ、家の中には物がどんどん増えていく。
そんな私が、8回も引っ越しを繰り返すうちに、少しずつ変わっていった。
最初は「引っ越し」と聞いただけで、面倒くさい気持ちに支配されていた。
腰を上げるだけで精一杯で、荷物の山にうんざりした。
だけど今は、引っ越しの知らせが来ても「ああ、またこの時期か」と静かに受け止められるようになった。
レンタカーを借りて荷物を積み込んで、移動して、搬入して、すぐさま高速に乗って車を返し、自分の車に戻り再び転居先のお家へ――
そんな流れを淡々とこなすようになった。
「大変だ」と思っていた作業が、いつの間にか「いつものこと」になっていたのだ。
場所を変えることは、決して楽なことではない。
新しい環境に馴染めるか、今あるものを手放していいのか――心の中にはいつも不安がつきまとう。
けれど、繰り返し引っ越しをしてわかったことがある。
住む場所が変わることは、決して「終わり」ではなく、「新しい始まり」だということだ。
部屋が変わり、窓から見える景色が変わり、行きつけのスーパーが変わっても、
私自身の「大事にしたいもの」は変わらない。
たとえ、いくつもの物を手放さなくてはいけなくても――本当に必要なものだけが、自分の手の中に残る。
変化は怖いし、面倒だ。
でも、「変わる」ということは、時にはこんなふうに自分を軽くしてくれる。
8回の引っ越しを通して、私は変わることに耐性がついた。
変えられない出来事に一喜一憂しなくなったし、変わることそのものに動じなくなった。
大切な物は、きっと自分が思っているよりずっと少ない。
あなたがこれから迎える新しい場所には、今の自分がまだ知らない風や光や人との出会いが、静かに待っている。
引っ越しを繰り返すたびに、私は少しずつ身軽になって、少しずつ強くなった。
そして気づいた。
場所が変わるたびに、私たちは少しずつ迷い、戸惑いながらも新たな自分の一面を見つける。
何度も繰り返す引っ越しは、まるで人生そのものだ。
手放すこと、受け入れること、そして新しい風景の中でまた歩き出すこと。
新しい場所で待っているのは、知らない日々や小さな出会いかもしれない。でも、そこに「今の自分」がいる限り、その場所は必ず少しずつ自分の色で染まっていく。
心が落ち着かなくなったときは、ゆっくり深呼吸してみよう。大丈夫。人はどこにいたって、何度だって自分の居場所を作り出せる。
変わり続ける日々の中で、どうか怖がらずに――自分らしく、次の一歩を踏み出してほしい。
新しい場所で、あなたが見つける景色が、どうか光に満ちたものでありますように。
自分を信じて、一歩ずつ進んでいこう。
どこへ行ったって、あなたはあなたのままなのだから。