アヴリルラヴィーンを卒業して、ちびまる子ちゃんになった私
私の髪色は、何色だっただろう。
何色にも染めて来て、本当の色が分からなくなるほど染めていた時期もあった。
初めて髪を染めたのは、高校生の時。
当時住んでいたアメリカで、日本の高校じゃ絶対に許されないブリーチをするのは留学中の目標の内の1つだった。
大好きなアヴリルラヴィーンになりたかった。
もちろん、選んだのはブロンドのハイライトとピンクのメッシュ。
米国では黒髪ブリーチの技術がなく、アジア人の柔らかい髪の毛の施術を苦手とする美容師さんも多い。
悪いけど…案の定、出来は悪かった。
ブリーチしたところはチリチリに傷んだにもかかわらず汚いオレンジ色に染まったし、ピンク色も入りきらなくて何だかよく分からない朱色になってしまった。
光の当たり方によってやっとピンクに見えるくらい。
でも、私はそれでよかった。
ずっと憧れていたアブリルに近付けたことが嬉しくて、
自分がしたい髪型が出来たことが嬉しくて、
ルールに縛られず自由に振る舞えることが嬉しくて。
アヴリルとは似ても似つかない変なブロンドのピンクメッシュを鏡の中で眺めては、彼女の曲を何十回とリピートしていた。
自分の曲になったように感じていた。
それから何度も何度も髪を染めた。
日本に帰ってからも長期休暇になるたびに髪を染めたし、大学に入れば染髪出来ることを大前提にバイト先を選んだ。
ピンク
紫
オレンジ
赤
黄色
銀
金髪
メッシュ
もちろんパーマやウルフカットなんかにも挑戦した。
とんでもなくたくさん、自分の髪で遊んだ。
成人式の日だって前髪に金髪のメッシュが入っていたんだ。
当時90近い年齢の祖母が不服そうにしていたっけ。
「せっかくの振袖なのに、そんなやんちゃな髪の毛にして」
「やんちゃで、かわいい?」
私がおどけると祖母はふざけて今から切る、と私を洗面所に押し込むふりをして笑いながら、私のやんちゃっぷりを何だかんだ、喜んでくれた。
そして突然。
30歳になった直後、完全地毛黒髪のおかっぱショートヘアに踏み切った。
もう、この髪型にして1年以上が経つ。
アブリルラヴィーンに憧れていた私は消え、鏡の中には大人になったちびまる子ちゃんがいた。
周りは驚いたはずだ。
社会人になっても服装髪型自由の職場にずっといて、どんな奇抜な髪型も恐れなかった私。
なぜ突然髪の毛を染めるのを止めたのだろう。
考えてみると、私はその頃「転職」について考え始めてもいた。
社会に出て正社員として勤めた初めての会社。
7~8年勤めた会社に愛着もあったし、とんでもなく色々な経験を積ませてもらった。
数年前からやっと、自分の意志を大事にできる様になった。
それまでは「誰かになりたい」「もっと認められたい」と自分に自信が持てていなかったように思う。
強い承認欲求と愛情不足からくる、コンプレックスの鎧を何層にもまとっていた。
そして、そんな自分に気付いてもいた。
髪を染めることできっと「他人の目を気にして生きる私」が「自分らしさ」を表現し、「自分らしい個性」を持っていると自信を保っていた。
年を取ることで白髪にはなれど、生まれてから変わる事のない髪や瞳の色は、立派な自分のアイデンティティ。
そこに色を重ねることで、自分の個性を見つけて自分の強さを確立した買ったのだと思う。
効果はテキメン。
髪を染め、派手な見た目で自分の好きな格好をしている時、私の心は、とてつもなく満たされていた。
転職を、考え始めた時。
それは自分の人生や自分の未来と向き合い、
少しずつ、ありのままの自分を認めてあげようと思い始めていた頃でもあった。
カラフルな髪色。
奇抜な見た目、アクセサリー。
アヴリルラヴィーンに憧れて繰り返し繰り返し、私は私を作り上げて。
そんな風に「実験」していたのかもしれない。
自分らしさの表現を通じて、
自分らしさを見つけようとしていたのだと思う。
そして結果、今、私は立派なちびまる子ちゃんになった。
ちびまる子ちゃんは、数々の失敗を繰り返す。
お母さんに怒られ、おじいちゃんに甘やかされ、たまちゃんとケンカし、お姉ちゃんに隠し事をしてバレ、泣き、逆ギレする。
そんなちびまる子ちゃんは、とても、とても愛されている。
自分がちびまる子ちゃんになり、
アヴリルとは程遠い自分が悪くないと思えるのは、成長なのだろうか。
諦めや妥協ではない、と思う。
どうしたってアヴリルにはなれない私。
ありのままの私を、ちびまる子ちゃんな私を愛せる今に至るまで。
本当にたくさんの髪色で本当にたくさんのことを表現してきた。
この期間で経験してきた様々な色が、きっと、今の私のちびまる子色を見つけさせてくれたのだと思う。
またいつか私は髪の毛を染めるのかもしれない。
その時はきっと、誰かになりたくて髪の毛を染めるのではなく、自分が好きな色を選ぶようになっている様な気がする。
…となると、水色かな。
良い美容師さんに出逢えますように。
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