障がい者は、いっしょに未来をつくっていく大切な仲間である|人成塾(日本理化学工業(株)・大山隆久社長)
ノンフィクション作家・小松成美がゲスト講師を選び、次の時代を生きるためのヒントをありのままの言葉で学ぶ『人成塾(じんせいじゅく)』。今回の対談ゲストは、小松の著書『虹色のチョーク - 働く幸せを実現した町工場の奇跡』(2017年幻冬舎)の取材先である、日本理化学工業の大山隆久社長です。
対談場所は、川崎市内のチョーク製造会社「日本理化学工業」のチョーク工場。同社の社員の7割が知的障がい者だといいます。1960年から障がい者雇用に取り組んだ故・大山会長の信念、「働く幸せ」とはどういうことなのか、日本理化学工業が社員と一緒にどんな幸せな未来を目指していくのか。1時間半のロングインタビューでは大山社長の想いもふんだんに語っていただきました。
<文>ロマーノ尚美<編集>池田アユリ,yasu
ベストセラー『虹色のチョーク』
小松: 私は『虹色のチョーク』のおかげで大山社長とお知り合いになることができました。この本の出版は2017年ですが、出会いはさらに3~4年前ですよね。2013~2014年頃からのお付き合いでしょうか。
大山: もう随分経ちましたね。
小松: 初めてお目にかかったときに、大山社長が「何でも聞いてください。自分に話せることなら包み隠さず全てお話しします」とおっしゃってくださったのですが、今振り返ってみるとすごいことだと感じます。私のような者が突然やってきて、取材をして、自分の会社のことを本に書かれるというのはどんな感覚でしたか。
大山: 自分たちの現実とは全くかけ離れた世界のお話でしたので、すごくフワッとした不思議な気持ちでした。ちゃんと本として形になるかどうかはわからないけれど、僕らがやってきたことはお話しできる。そんな感じでした。
小松: 障がいを持つ社員の方も健常者の方も本当に優しく接してくださって、いつも社員のみなさんが迎えてくださるので、今もこうして訪れることができます。
大山:小松さんはもうメンバーの一員ですからね。
小松: ありがとうございます。私もときどき「社員だったかな?」と思ってしまうぐらいです(笑)。
昨年には新型コロナウイルスの感染拡大という、誰も想像できなかった、そして人知ではどうすることもできない状況が訪れました。日本理化学工業もまたそれに直面されたわけですよね。1月、2月と感染が増えて、3月になり緊急事態宣言が出たころ、工場はどうなったのでしょうか。社員の方たちはどのように過ごしていらっしゃったのですか。
大山:2月の中旬以降ぐらいからイベントや展示会がどんどん中止になりました。ウイルスの感染がニュースで大きく取り上げられていく中で、弊社も3月始めくらいから時短労働と時差出勤を取り入れました。緊急事態宣言が出た直後からは、川崎工場の障がいがある社員たちには自宅待機をお願いし、障がいがない社員たちはリモート勤務に移行しました。
職場が、居場所である
小松:いつも工場に来ると、障がいがある方たちが、職人として、プロフェッショナルとして本当に喜びを持って働いていますよね。働けないという状況を理解し、自宅待機をするというのは、きっと皆さん辛かったでしょうね。
大山:その決断をするのにはすごく大きな葛藤がありました。ここが居場所だって思ってくれている人も 少なからずいるので、来ちゃダメなんだよと言ってしまうと、居場所を取り上げることになる。そのため、自宅で待ってもらうにしてもコミュニケーションをちゃんと続けていこうと、必ず週に1度は電話をしていました。「今どう? 常に気にかけているよ」と電話することで、孤独や疎外的な雰囲気を感じないように、できる限りのことはしました。
ここから先は
¥ 200
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?