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何度も読み返す、中谷宇吉郎著「雪」

 この記事を目にしてくれた皆様、はじめまして。
 私は日本気象協会に所属し、天気予報に関わる技術開発や研究に取り組む会社員です。
 noteでは、私の専門分野である雪氷分野を中心に、読者の皆さんが興味を持てるような天気や防災に関する豆知識を深掘りして伝えていきたいです。
 初回となるこの記事では、私が気象学の研究を志す最初のきっかけになった1冊を紹介します。


雪の結晶を目にしたことはありますか?

 雪の結晶は大きなものでは数ミリあるので、この記事の写真のように、頑張って目を凝らすと肉眼でもその形が分かる時もあります。(顔を近づけて息がかかってしまうとあっという間に溶けてしまうので注意!)
 雪の結晶は水蒸気からできるものです。上空数kmから10kmの高さで水蒸気から小さな氷の結晶(氷晶(ひょうしょう)と言います)が生まれ、そこから徐々に成長しながら、私達が目にする高さまで下りてくるのです。下りてくる間に、他の雪結晶とくっついたり、溶けてしまうこともあるので、私達が目にするのは必ずしも整った形の結晶とは限りません。

 雪の結晶を見たことがあるという方は、どんな形をしていたか思い出すことができるでしょうか?
 針状や六角形など色々な形があります。
 雪の結晶の形を分類して、ある形の雪の結晶がどんな気温や湿度の時に出来るのかということを調べ、人工的に雪が出来る環境を作り出して、世界初の人工雪の生成に成功したのが、この記事のタイトルにある中谷宇吉郎先生です。

中谷宇吉郎先生の著書「雪」

 これらの話がまとめられているのが、中谷宇吉郎先生の著書「雪」です。 初版はなんと1938年。私が持っているのは岩波文庫ですが、著作権が切れているため、青空文庫でも読むことが出来ます。(2023年11月時点)

 本の内容は、雪害に悩む地方の話から始まり、中谷先生が雪に興味を持った理由につながります。観察から実験へ、その結果を理論立てて世界初の人工雪の生成へと、話の内容はいつの間にか高度になっているのに、一気に読み進めることが出来ます。

 中谷先生は理化学研究所在籍時代に、「天災は忘れた頃にやってくる」などの名言や多数の著作を残した物理学者で文筆家である寺田寅彦先生に師事していました。その影響を受けてか、中谷先生のエッセイも多数出版されています。高度に専門化して、個々の研究内容を理解するのが難しくなってしまった現在と違って、科学と文学の距離が比較的近かった時代を感じることが出来ます。

私が好きな中谷宇吉郎先生の言葉に「科学と芸術の間には硝子の壁がある」(*)という言葉があります。

*菊地勝弘, 2002; https://metsoc.jp/tenki/pdf/2002/2002_05_0423.pdf

中谷宇吉郎先生を感じられる場所

 中谷先生は北海道大学理学部に研究室を構えていたのですが、現在も北海道大学の総合博物館には、普段は入ることが出来ないものの、当時を再現した研究室があります。(映像でも復元研究室の様子を見ることが出来ます)
https://www.museum.hokudai.ac.jp/topics/17644/

研究室の引越作業をした時に、中谷先生の時代に使っていた木のスキー板(スノーボードのような太さでした)が出てきたことを思い出しました。

 中谷先生の次女である芙二子(ふじこ)さんは、霧を用いたアーティスト活動をしています。
 NHK「日曜美術館」ホームページに中谷芙二子さんによる「霧の彫刻」を体験できる場所の記載がありました。興味を持たれた方は霧の中にいる不思議な感覚を味わってほしいです。(私は札幌国際芸術祭2014でその不思議な体験をしました)

おわりに

 この記事を目にした皆さんが、この冬、空や雲を見上げたり、中谷宇吉郎先生の本を眺めたりするとき、雪を近い存在に感じてもらえたら嬉しいです。

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