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小説|見えないI
ABCDEFGH JKLM
NOPQRSTUVWXYZ
愛の教授は黒板にアルファベットを書き連ねます。板書をする学生たちを見まわして、愛の教授は言いました。「この文を一生、忘れないように」
学生たちは愛の教授が言わんとしていることを理解しようと努めました。誰もが教壇に立っている愛の教授の次に発する言葉を待ちます。愛の教授は学生たちが手を止めるのを待ってから、講義を続けました。
「無償の愛というものがある。見返りを求めぬ愛。そこに主語はない。ただ相手のことのみを考えて、尽くすこと。相手がそれに気づかずとも、相手が幸せになればそれでよいと思う気持ち。この愛は、見えない。
君たちは知らぬまに愛を受けている。だが、それに気づかない。なぜなら愛は見えないから。それを生涯、忘れてはいけない。私が、俺が、僕が、と愛は語らない。Iは見えない。ゆえに黒板の文を一生、忘れないように」
ショートショート No.294
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