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小説|消えたい八月三十一日
八月三十一日の夜。それは長く続いた夏休みが終わるときです。小学生のころ、彼は毎年その日に手つかずの宿題と向き合っていました。明日、九月一日が来るのが怖くて「消えたい」と考えたこともあります。
こつこつ宿題をこなせなかった彼は、大人になると毎日小説を書くようになりました。創った物語はインターネットで公にします。執筆を始めてから一日も欠かさず、彼はある年の八月三十一日に二百作目を書いていました。
彼はさまざまな小説を書いてきました。コーヒーカップの中で走る少年の話、呼び鈴を鳴らす石ころの話、街の人々が手を上げる話。筋書きは違えどテーマは同じ。いつも彼は、消えたかった過去の自分を励ましていました。
二百作目を書きながら彼は考えます。苦しい時を振り返り「消えたい」と四文字で人生を要約するのはあまりにも寂しい。そして思います。これまで書いた二百の物語をただ四文字で要約するなら、それは「生きよう」だと。
ショートショート No.200
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