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3月の俳句(2023)
一年
今日は3月31日。締め切りに追われるような気分でPCに向かっている。
昨年の4月から始めた「毎月俳句」。今回でちょうど一年になった。
今日はいわゆる「年度末」の最終日になる。非常勤で勤務していた高校の雇用も、今日で完全に切れる。実質的にはすでに終わっているのだが、職場と繋がっていたPCのTeamsやメールにもう入れなくなっているという事実が、今の自分の立場を表しているようだ。
それにしても、3月はあらゆることで変化の大きな月だった。
こうしてひと月を振り返るのも、「毎月俳句」を書く意味かもしれない。
雛の節句
娘が生まれたとき、今は亡き義理の父が大阪の松屋町で雛人形を買ってくれた。段飾りは場所を取るので、お二人だけの内裏雛だ。今は2人の孫が楽しみにしている。
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お雛様を飾ったのは2月のことだが、いつも左右の並べ方を迷ってしまう。京雛は古式にのっとって、向かって右が男雛、左が女雛だ。
妻がちらし寿司をつくる。子どもたちは学校だ。
ちらし寿司作り孫待つ雛の夕
雛祭りが終わると、お雛様は早く片付けたほうがいいという。昔、娘を他家へ嫁がせることを「片付ける」と表現したことから、いつまでも雛人形を片付けないでいると、娘が片付かないという言い伝えが生まれたとか。
いま一度お顔見つめる雛納め
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「雛」といえば、『奥の細道』で最初に出てくるのは次の句だった。
草の戸も住替る代ぞひなの家
いよいよ奥羽行脚に出る準備ができた芭蕉は、住み慣れた庵を人に譲って、杉風の別宅に移る。間もなく旅立ちである。
少しずつ春
3月第一週。春が少しずつ、しかし確実に近づいていることがわかる。毎日からだが感じている。
通勤時に通る川沿いの道。桜のつぼみはまだかたそうだけど、命の誕生を感じさせる。柔らかそうな薄黄緑の丸い粒に、ふと触れたくなる。
良いことがありそう春が蕾んでる
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日が少しずつ長くなる。夕日が遠くのマンションをオレンジ色に染める。その中の一部屋の窓が輝いている。春の暖かさを独り占めしている。
夕照をひとり集むる春の窓
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大阪はもう春の兆しがはっきりと感じられるが、東北はまだ冬の寒さが残っているのだろう。この時期、テレビや新聞で必ず大きく採り上げられるのが、2011年3月11日に発生した東日本大震災だ。未曾有の被害と大きな教訓を残した地震の記憶は、阪神淡路大震災とともに、いまなお新しい。
東北忌地震の国に生まれけり
別れの季節
春はまた別れの季節だ。
6年生の孫の卒業式に出席した。コロナ対応が緩和され、複数参列が可能になった。
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卒業歌体育館に薄日さし
将来の夢宣言し証書受く
男の子はほとんどがスーツにネクタイ姿だ。慣れない服装だが、普段とはちがい、凜々しく感じる。女の子もお姉さんに見える。
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卒業の子のネクタイやゆがみたる
そして、私にも、いよいよ最後の授業の日がやって来た。できるだけ心静かに、ふだんと変わらず淡々と・・・。
放課後、男子生徒が2人、職員室にやって来て名前を呼ぶ。いつも手を焼いたかわいい悪童だ。何と花束とチョコレートを差し出した。
悪童の春の花束胸あつき
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3月20日、この日が最終勤務日となった。教科会で挨拶をし、机の私物を片付け、不要物をシュレッダーにかけ、貸与機のPCを返却した。7年間の勤務で蓄積した捨てられないものを、段ボール箱に詰めて持ち帰る。形のないものは、胸に詰めて。
七年の歳月わずか箱五つ
七年の歳月箱に詰めて去り
春分
翌21日は春分だった。国民の休日だ。この日を境に、昼の時間が夜よりも長くなるという。実際にはそれほど厳密ではないそうだが。夕方遅くまで明るいのを見ると、日が長くなったなと実感する。
夜のうちの雨が、明け方に上がった。
春分の雨や葉群に消え残る
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花桃の一枝も折らず散りにけり
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大山崎山荘美術館
アサヒビールの大山崎山荘美術館で、「没後40年 黒田辰秋展―山本爲三郎コレクションより」を観た。
黒田辰秋(1904-1982)は京都の塗師屋に生まれたが、早くから分業制の木漆工芸の制作に疑問を抱き、一人で素地から塗り、加飾、仕上げまでを行う一貫制作を志した。柳宗悦や河井寬次郎の民藝運動と関わり、1970年には木工芸分野で初となる重要無形文化財保持者(人間国宝)に指定される。
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昼間は暖かく、朝夕は肌寒い一日だった。桜の開花にはまだ早かったが、美術館前の白木蓮が、見事に満開の花をつけていた。
春の空枝垂るる花の蕾かな
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青空に染まぬ清さや白木蓮
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沈丁花の花も今が盛り。香りだけでなく、目も楽しませてくれる。
沈丁花姿なき香にみちびかれ
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椿は種類が多い。いろんな形や色が目を楽しませてくれる。幾重にも重なる花弁を眺めていると、級数の世界にはまり込むようだ。
椿花ふと迷宮に誘はれり
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命尽き地にても白き落ち椿
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大山崎山荘美術館は天王山の中腹にある。山荘を出て坂道を下り始めると、道の脇にツヤツヤとした黄色い花が咲き乱れている。後で調べると、キンポウゲ科の立金花(リュウキンカ)という花だった。
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幻郷に誘う花や立金花
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展覧会よりも春の庭が印象に残る一日だった。
檸檬忌
「えたいの知れない不吉な塊が私の心を始終圧えつけていた。」
梶井基次郎の小説『檸檬』はこんな一文から始まる。青年の鬱屈した心理を描くこの小説は梶井基次郎の代表作となり、若くして亡くなった作者の忌日の名前ともなった。
梶井基次郎の命日は3月24日。その翌日、偶然通りかかった常国寺という寺院に彼の墓があった。ずらりと並ぶ墓石の列の中に、ただ一つ明るい色が際立つ。供えられたレモンの黄色だ。
檸檬忌やここにも春の光あり
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徳川園の春
月末に、小学校を卒業した孫と2人で、名古屋2泊の旅をした。移動は車。1日目はトヨタの博物館と記念館に行く。一度にこんなにたくさんの自動車を見たのは初めてだ。記念館には歴代の織機も展示されていた。
2日目は名古屋市科学館と徳川美術館。科学館は春休みとあって子どもたちがいっぱい。大人も楽しめる充実した施設だ。
徳川美術館は国宝源氏物語絵巻を所蔵するが、今回は展示していなかったのが残念。庭園の徳川園は春の庭だった。
しかし、俳句を作る余裕はまったくなかった。思い出して作ることはできそうだけど、今回はとりあえず写真だけ・・・。
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