創業137年、変わらないおいしさを。老舗天ぷら屋「大和家」様
東京葛飾、帝釈天へ向かう参道にある大和家様。明治18年(1885年)に創業され、天ぷらと草団子、おでんを販売されており、名物の天丼には20年来、秋田県大潟村産あきたこまちをご使用いただいております。
雰囲気のある店内には、山田監督や寅さんのお写真も。名監督や名俳優、たくさんの方に愛されてきた変わらぬ味を守りながら、ご自身も毎日食べるくらい天ぷらが好きとおっしゃる店主様にお話をうかがいました。
歴史
─天ぷら屋さんを創業された背景や、創業者のエピソードを教えてください。
いつから始めたかは定かではないのですが、残っている記録によると130年ちょっとです。
今、葛西は江戸川区の方になってしまったけど、昔、この辺り一帯が葛西と呼ばれていたことにちなんで「かさい米」という米が穫れたそうです。ここで穫れたものを「かさい米」と呼んで、帝釈様にお参りに来るお客さんたちに出していました。
丸めてついたのが団子で、焼いたのがおせんべい。土手にある草を入れて出した草団子が、商売の始まりだったのではないかと言われています。それでここは、草団子と塩せんべいが名物なんです。うちはその時からずっと、お寿司とか天丼、天ぷらをやっていました。
─百何年前もこういう参道があったのですか?
今の参道みたいな形になったのは大正になってから。人車鉄道(※1)というのができて、きちんと参道になったみたいです。もともとは江戸川の方に船着き場があって、川の方からお客さんが来ていました。だから昔は参道ではなく川に近い土手の方、寅さん記念館のある辺りで商売をやっていたんですよ。後に電車で来る人が多くなったのと参道もできたんで、土手の方をやめてこっちに移りました。
─お客さんが、船で来たというのは?
矢切の渡しだと思いましたよね。まあ、そのようなものですね。江戸時代とか昔は汽車や電車はないし船しか手段がないから、みんな船で江戸川をずっとのぼって来たんでしょう。今はもうなくなっちゃったけど、川甚(※2)さんには船着き場があって、そのままお店に入れるようになっていました。
(※2)江戸時代から続いた老舗川魚料理の名店。2021年1月閉店。
大日本帝国政府、菓子小売…今でいう『営業許可書』ですね。明治18年のなんですよ。これよりも古いのがあるんだけど、それは年号が載ってない。明治18年の7月1日にもらったから、135年ぐらいでしょう。この浅右衛門っていうのは、実際に天保の生まれでこの時は45歳ぐらいなんですよ。だから150年ぐらいは少なくともやっているんでしょう。
著名な先生やいろんな方が、この許可書を見せて欲しいって来られるんです。伊藤博文が総理大臣になったのは明治18年だから、総理大臣になってすぐ出したもので、政府が出したこれより古いものはないんじゃないかという話です。(諸説あり)
─明治の許可書を見たのは初めてです。
これを他に持っている人を見たことがないし、聞いたこともない。これで嘘じゃないってのが分かった?
(一同笑)
こういう書面がないと、いつの間にか年号かなんか増えちゃったりすることもあるでしょう(笑)。それで、お参りにくるお客さんにお団子を売ったりしたのが始まりらしいんですね。
昔はそれだけだとどうしても食べられないんで、寅さんみたいに出店をやって屋台でお寿司や天ぷらを売っていました。よく吉原なんか行くのに、寿司屋で寿司食ってちょっと腹ごしらえしたなんて落語もあるじゃないですか。それで、お米のことは結構色々と研究したり、勉強したりしましたね。
お店について
─お店を続けていくうえで大事にしていることを教えてください。
最近はそんなにないけど、こう長くやっているとやっぱり自分より古いお客さんがいるわけです。
「お前より俺のほうがこの店との付き合いが古い」とかっていうお馴染みさんに怒られないように、いつでもずっと味が変わらないようにとか、やっぱりおいしいって言っていただけるようにでしょうね。
山田監督さんにも召し上がっていただくんですけど、「大和家へはこの雰囲気でこの場所でこの形の天丼を食べに来る。だからこれを変えちゃダメだ。このためにわざわざ来るんだから、違う形で物を出しちゃダメだよ。これを一生懸命頑張ってやりなさい」って言われたことがあるんですよ。そういうのも勉強の一つとして覚えています。
味を変えずにというか、そのままずっと同じように、変わらないようにっていうのが一番大事かな。
─変わらないようにやるのも、今の世の中だと逆に大変ですよね?
うん、うん。でもね、それが最近ちょっと面白いかな。同じように、変わらないようにやっても上手にできる時もあるし、できない時もある。上手にできるように昨日より今日、今日より明日っていうようにやってきたら、ものづくりがだんだんとちょっとずつ面白くなってきたかな。
─食材選びで大事にしていることを教えてください。
これはね、もう変わらないものを。天ぷらのたね(食材)もずっと入れてくださる材料屋さんは河岸で変わらずに、もう50年も60年付き合いをしてるところなんで「うちのエビをくれ」って言うと、それでだけで何も言わずに持って来てくれます。やっぱり自分のとこに合う食材がありますから。
前の話と同じになるかもしれないけど、変わらないように、おいしいようにって。前はもともと寿司屋もやってたもんですから、お米を結構……お米屋さんだからお米の話ししなきゃいけないからさあ!
(一同笑)
庄内米とかいろんなお米を試してみたんですよ。今でこそネットなりいっぱいあるけど、50年も60年も前には無いですから、買える範囲、できる範囲でいろんなとこのお米を試して、それで現在はあきたこまち協会さんのお米に至っています。
─本当に長く、ありがとうございます。
おじが私の師匠だったんですけど、そのおじがお米の炊き方から何からこだわる人でした。昔は釜だったから、すし用の炊き方、どんぶり用の炊き方とそれぞれ変えていたぐらいこだわってやっていました。昔はお米を買うのは大変だったけど、今は流通も良くなって良いものをだしてもらえるようになりました。いろいろ試して、あきたこまち協会の皆さんのところに今は落ちついています(笑)。
─例えば海老は、その年その年で出来が違ったりするものですか?
やっぱり天然ものだから出来は違うし、大きさ、サイズでうちは買っています。電話してこれ持って来てくれって言うと、その時によってうちのサイズにぴったり合わせてもらっていますね。
天然ものは機械がパッと同じようにつくるわけじゃないから。魚でも何でもみんな大体うちのサイズっていうのがあります。届いた海老は殻を全部剥いて、全部自分のところで手をかけています。団子もあんこも、みんな自分のとこで作っています。
─おいしい天ぷらを作るうえで大事なことを教えてください。
なんだろう…。奥様方は家族の分を揚げているうちに自分で食べるのが嫌になっちゃうって言うけど、毎日揚げて毎日食べるぐらい天ぷらが好きってことかな。忙しくってまかないが間に合わないと天丼を食べちゃう。それはちょっと違うかもしれないですけど、大事なことは好きなことかな。
他には、いつも同じように、変わらずにおいしくできるようにっていうのは心がけています。
お米のこと
─おいしい天丼を作る上でお米にはこだわっていますか?
「それはもうね、めちゃくちゃこだわっています」って言われないと(質問者が)困るんだよな!先ほど話したように、いろんなところのお米を試しました。こういう形とかああいう形とか、炊き方をちょっと変えて試してみたり。
今の人はわからないかもしれないけど、昔はそれこそ流通が悪くて、この時期(取材当時2月)から梅雨あたりになると、だんだんお米が変わってくるから心配…なんてことがありました。ちょっと置いておくと乾燥して割れちゃうし。でも今はほとんどそんなことないから、コンピューターでちゃんと制御してるんだろうか?
─そうです。精米する機械も性能が良くなっています。
お米にも水にもこだわって、いろんなお店のやり方があるのでうちで使ってないからこのお米はダメだとかっていうのではなく。他のお米、業者さんもあるだろうけど、たまたまうちの天丼にはあきたこまち協会さんのお米が良かったので使わせていただいています。
─ガスの五升釜で炊かれていますよね。
その時によりますけど、お米の量はだいたい五升釜で三升ぐらい(釜に対して少なめ)で炊くのが一番良い。羽つき釜でね。羽つき釜って若い方はわかんないだろうけど「はじめちょろちょろなかぱっぱで赤子泣いても蓋取るな(※3)」って言って、最後にワラを入れてね。昔はそういうやり方をしていたんですけど、今はもうガスでコンピューター制御の良いのがありますから。
(※3)はじめちょろちょろ中ぱっぱ、じゅうじゅう吹いたら火をひいて、ひと握りのワラ燃やし、赤子泣いてもふた取るな(地域によって違いあり)=始めは弱火で、中頃は火の粉が飛び散るくらい一気に強火にし、吹きこぼれてきたら火を弱め、ワラで追い焚きををして釜内の余分な水分を飛ばし、火を止めて蒸らす(赤ちゃんが泣いてもふたをとったらダメ)という炊飯の火加減、手順のこと。
昔の人は釜で炊いたらうまいって言うけど、師匠はね、うまいわけないんだって。昔の釜で炊くと火がムラになるから結構大変だけど、今の釜は性能が良くなっているから、同じお米を炊くと絶対に今の方がうまいって。だけどそのノスタルジーというか昔の哀愁というか、そういうやり方があるから、釜の方がうまいよって言う人もいるんでしょう。上手く炊けた時は本当にうまいんだけど、やっぱりその平均値っていうと、今の釜の方がうまく炊けるって言ってましたよ。
五升(7.5kg)釜で三升(4.5キロ)で炊くのが一番理想的。昔から4kg、4.5kg、5kgの間が一番良って言うけど、機械でもやっぱそうなんですよ。コンピューターで制御するんだから、五升炊きで五升炊いたって、五升炊きで三升炊いたって二.五升炊いたって良いはずだけど、でもやっぱり違うんです。だからお米と、炊き方にこだわってるって言われればそうなんだろうけど、うちとしては普通に昔からやってるから当たり前ですね。
─昔から知らない間に一番おいしく炊ける条件で炊いていた?
師匠がいっぱい試して一番良い今の形にしてくれたと思います。お米屋さんにお米のことを言うのは釈迦に説法かもしれないけど、やっぱりお米がおいしくないと。日本はもともと米文化だったわけだから、どっかに根付いたものがあるんでしょう。それぞれ硬いのが好きだとか軟らかいのが好きだとか、皆さん好き好きがあるんでしょうけど。
─家庭でもできるおいしく天ぷらを上げるコツ等があれば教えてください。
家庭であんまりうまくあげられちゃうと商売あがったりだから、うまいのが食べたくなったら来ていただいて、なおかつうちのが一番うまいって言っていただけると良いですね。
おかげさまで、皆さんがおいしいって食べてくださいます。中にはおいしかったから幸せな気持ちになりましたって言ってくださる方も。だからあきたこまち協会の皆さんも大変でしょうけど、皆さんのお米は人を幸せにする力がありますからね。
皆さんが一生懸命お米を作ってくださるおかげで、うちも良いものが作れます。皆さんにもそれをお伝えしていただきたいなと思っていたんですね。おいしいですよって、なかなか消費者の声ってわからないですから。
それとやっぱりお米を作っている皆さんにも食べに来て欲しいです。こんなにおいしくて幸せになったって、そういうことを言ってもらえると、僕らもそうだし皆さんも張り合いが出ると思いますしね。お米を作っているとお休みがないだろうから、大変なところもあるでしょうけど、頑張って良いお米を入れていただきたい。これからもよろしくお願いします。
店舗情報
大和家(やまとや)
インタビューを通じ、大潟村あきたこまち生産者協会のお米やパスタを選んだ理由、おすすめの調理法などを紹介します。
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