EUの観光事業者への公的資金支援から学ぶ復活のプロセス 地域復活の仕掛けを訪ねて -後編-
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國學院大學メディアの公式サイトから、note担当者がおすすめ記事を転載!
今回は、ギリシャ・サントリーニ島「復活」のプロセスに魅了され研究を続ける、石本東生教授(観光まちづくり学部)のインタビュー記事・後編をお届けします。近年、関心を抱くのは、過去の歴史を未来へとつないでいく、そんな仕組みだそうです。
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ギリシャのサントリーニ島のように、一度は荒廃してしまったものの、その歴史的な町並みを生かして見事に観光地として「復活」する地域――そんなあり方に魅せられてきた経緯を、インタビューの前編ではお話ししてきました。
そのうえで、近年関心を寄せるようになってきたのが、EUの域内で観光振興として取り組まれている資金支援政策と、さまざまな関連基金です。
たとえば、私がサントリーニ島と並行して足を運んできたクレタ島やペロポネソス半島では、ルーラルツーリズム施設が隆盛しています。農村のなかで都市生活者が時間を過ごすアグリツーリズム、そして、お洒落なレストランを併設した現地ワイナリーで過ごす観光体験をイメージしてみてください。ゆっくりと地元産のワインを楽しみながら、地産地消の美味を堪能できる。そんな素敵な施設がクレタ島やペロポネソス半島をはじめとして、ギリシャの田舎のあちこちにあるわけです。
私のかねてからの疑問としては、正直な表現を用いれば、「なぜ、こんなにお洒落でセンスのある施設が、田舎で可能なのだろう」というものでした。そこで実際に運営者に話を聞いてみたところ、EUからの後押しの力が大きいというのですね。私が調査したある施設では、総工費の半額に至るほどの資金助成をEUから受けていました。こうした施設が立ち上げられることによって、雇用も生まれれば、サプライチェーンも活性化するわけで、地域経済にも好影響を与えていたんです。
こうした直接的な民間観光事業者への公的資金支援は、日本国内ではそれほど一般的ではない様子です。コロナ禍以降、Go To Travelキャンペーンや全国旅行支援といった日本政府が実施する観光需要喚起策などは存在し、たしかに観光事業者を直接支援するものではあるのですが、EUのように制度化された定期的、且つ継続的な支援の枠組みは主流になっていないように思います。
これを比較研究的な視点で見ていけば、大きな参考になるのではないか。そう感じて、徐々に調査・研究を進めています。
EU域内で観光セクターへの支援に関わる基金をざっと列挙しますと、まず「戦略的投資のための欧州基金」と「欧州構造投資基金」に大別され、さらに後者は5つの基金――「欧州地域開発基金」「結束基金」「欧州社会基金」「農村開発のための欧州農業基金」「欧州沿海漁業基金」により構成されています。
名称をご覧いただければわかるように、これらの基金はそれぞれ、観光セクター専用の基金ではありません。しかし直接/間接的に観光事業との関わりをもっていることで、横断的な資金支援が実施できているわけです。民間にもこうしたタッチポイントが広く用意され、且つ周知が行き届いています。
もちろん、返済無用の公金支援なので、申請は大変ですし、審査も非常に厳しいです。しかし、地域振興への優れたアイディアと実現に至る緻密なプランさえあれば、すべてのEU市民・組織に門戸は開かれているのです。たとえば、かつて観光が停滞していたオーストリアのクリムル滝では、「欧州地域開発基金(ERDF)」の支援を得ました。滝に落下する水による高濃度エアロゾル効果を科学的に検証し、明らかにしていったことで、いまや喘息やアレルギーに苦しむ患者たちが治療に訪れる、ヘルスツーリズムの拠点になっています。
先ほど触れたワイナリーのような場所を訪れると、必ずしも大都会に出ることなく、地元の地域を愛し、そこで仕事をし、生活をおくるという若い人たちに度々出会うことができます。これもまた、EUの支援によってシステマティックに支えられている。EUの側としては、そうした地域振興が、最終的には域内の経済を平準的に活性化させていくという目論見があるわけですが、地方のありようは変わりうるということを実感させられます。
地方というものは、疲弊するばかりではない。やはり息を吹き返すということがあります。インタビュー前編の話を思い返せば、「復活」するということがあるわけですね。その歴史的なうねり、地域の振興を、EUがシステムとして支えようとしているんです。
世界がコロナ禍に苛まれた2020年以降、私もまた、ここまで触れてきたような関心を抱きながらも、現地で調査するということができずにいました。それがようやく昨年(2022年)は、1か月近く滞在し、自分の目で見て、人の話を聞いてくることができました。地域・地方が観光を通して「復活」する仕組みを、ここから改めて、考えていきたいと思います。