【連載】家族会議『何気ないひと言がトラウマになる』
「親戚で一番幸せな家族になろうよ」のひと言から始まったわが家の家族会議。その様子を、録音記録をもとに書き記しています。
前回の記事はこちら。
家族会議11日目#3|何気ないひと言がトラウマになる
――家系図を作りながら、母の父方の親族の話を聞いている。岩手出身の母の親戚には、東日本大震災で津波にあった人がいるのだ。
志津川に住んでいて、海産業を営んでいた。
無事ではあったけど、家は移転したらしい。
そして祖父の兄弟には、船乗りをしていて、若くして亡くなった人がいたという。
母:
なんか、この船で亡くなった人が、私を馬に乗せて、そのおじさんが馬を操って走り回るとか、そんなことをしてたって母親から聞いたことある。わたしは覚えていないけど。
わたし:
すごいアトラクションだね。笑
母:
うん。笑
覚えてはいないけど、そんな感じだったって。おじいちゃんも馬が好きで乗りまわしてた。自動車を乗りまわすみたいに、馬を乗りまわしてた時代があったみたいで。
…二十歳くらいで、そうだね。その人のお葬式は、すごく盛大っていうか、いっぱい人が集まって。わたしは小学校一年生ぐらいかな。
わたし:
覚えてんだね。
母:
覚えてる。ぼんやりね。
父:
船沈没かなんかしたの?
母:
うん。沈没しちゃって。だから見つかってないっていうことなんだよね。体は見つかってない。捜索はしたんだろうけどその頃ね。
――見つかっていないのだ。…家族は本当にやりきれない思いだっただろう。
わたしの近しい人はみな、平穏無事に暮らしている人ばかりだと思っていたけど、そうではないんだなと、改めて思う。
海難事故、行方不明、津波被害、自殺…。
わたしが犯罪被害にあったのも、めったにあり得ない、特殊なことに巻き込まれたと思っていたけど、普通の日常に、普通に起こり得る出来事なのかもしれない。
母:
これで思い出すのは…。ちょっと話それるけど、なんかわたしぐらいの年頃の子供たちが、お盆にみんなで順番に歌を歌ってみろって言われて、歌を歌って。そしたらわたし、すごい音痴で。うち帰ってから、母親にすごい言われたことを覚えてる。それから自分は、もう人前で歌を歌うのはできなくなっちゃった。
わたし:
かわいそう!なんて言われたの?
母:
なんかすごい調子はずれて恥ずかしかったって。
わたし:
えーひどーい!!ひどい!!おばあちゃん、だったら教えてよって感じだよね。
母:
だからなんでも、おばあちゃんはただ言ってるってことだよね。
わたし:
うん、相手の気持ちは考えてないって感じ。本当に何かあれだね、相手の気持ち考えられないんだね、おばあちゃんて。笑
どんな気持ちになるかって…思わないんだねぇ。
母:
よく言われたのは歌のことと、あと字。字が下手っていうことを言われて。この字が下手なのと、歌は…。本当に、もう人前で歌えないし、何か自信もないし、みんなで歌う歌もなんか、なるべく小さな声で歌ったりしてるし。っていう感じ。
実際調子は外れてたとは思うんだけど、これはあれだね、やっぱりずっと、もう…。
わたし:
トラウマだよね。
母:
トラウマだね。字なんか、むしろお姉ちゃんに「そんなお母さん、それくらいの字普通だよ」とか、よくお姉ちゃんに言われたけど。
わたし:
トラウマになるよねでも。こういうのって。
母:
小学校の低学年か、幼稚園かみたいな、そんな歳だから。何にも構わずただ歌ったんでしょうね。上手も下手も関係なく。でもそれが調子を外れてた。
母親はすごい恥ずかしかった。みんなの前で。きっと何か笑ったりしたかもしれないけど、そんなことは全然、お母さんは覚えてもいないし、歌って恥ずかしかったっていうのはないんだけど、母親にやっぱ言われたっていうことだよね。
わたし:
ふうん…。なんかやっぱ、「子供の行動=自分」みたいな。自分のことっていうかさ、おばあちゃんにとって。
そんなちっちゃい子供が音痴なことぐらいさ、ありそうっていうか微笑ましいっていうか。なんか「自分が恥ずかしい」ってなっちゃうんだなと思って。
父:
お母さんは恥ずかしくなかったの?
母:
私はそのとき全然。だから何にもなく、うちに帰ったら母親から言われたって感じで。言われたから自分は下手なんだって。だから人前で歌うのが恥ずかしくなったっていうか、嫌になったっていうか、自信がなくなったというか。言われなかったら何も気にしてないと思う。
もしかしたらそのときいた人が笑ったかもしんないけど、それを恥ずかしかったとか、全然ないから。記憶としては。おばあちゃんに言われたことによって
父:
そっかぁ。なるほどなぁ。
母:
やっぱりカラオケなんて行ったって歌いたくないし。歌もね練習すればね、あれになるとか言われてるけどもね。あとは、歌を歌う環境には全然なかったね。何か音楽が聞こえてるとか音楽を鳴らすとか、そんなの全然うちにはなかったから、余計だった。
わたし:
うちもなかったよね。
母:
そうだね。そうなんだよね。その辺は開発ゼロだ。お父さんもそんな、歌を家で歌うとか、聞くとかなかったもんね。
わたし:
娯楽ゼロの家って感じだったよね。
母:
(お父さんも恥ずかしいって言ってたけど)お父さんは何で恥ずかしくなったんだろ?下手だと思ってたの?
父:
もちろん。環境が歌っていう環境じゃないし。人前で歌ったこともないし。四国電力の宴会があって、「日立代表として佐藤さん1曲」。曲まで言われたのよ。瀬戸の花嫁。
母:
四国だから。
父:
「歌ってください」「え?」。なんか調子っぱずれて歌って、いや恥ずかしかった。その後名古屋でもやっぱり歌って、恥ずかしくて、それから特訓だよ。自分で。
母:
お父さんはね、カラオケを買ってやってたもんね。
わたし:
そうなんだ。そういえばあったかもね。
母:
お父さんは仕事的に歌わなきゃいけなくなることがあるんだろうけど、わたしはそんなことあんまりないから。
友達と行っても「歌いたくない」って言えばそれで済んだし、何か飲み会があってもカラオケのときには先に帰っちゃうとかで済んだけど、お父さんは仕事の付き合いだと、そうもいかないときがあるんでしょうね。
父:
だからそれで、歌には金使ったよ。
わたし:
そうだったんだね。
父:
だから今いっちょ前に、人並みくらいまで…いってないけども。だから畑仲間で必ずカラオケ行くわけ。そこに参加できるようになったから。
わたし:
そうなんだ。2人ともなんか、そういうのが苦手なんだ。
- 今日はここまで -
何気ないひと言がトラウマになる。
植え付けられた苦手意識は、生涯にわたって苦手になる。
親の言葉というのは本当に、良くも悪くも子供の人生に影響を与えるのだ。
少し前の読売新聞の『人生案内』のコラムに、70代半ばの主婦からの相談が載っていた。
同居の長男が結婚後、話しかけても返事をしなくなった。理由を聞くと「小学生のころに怒られたことが許せない」と言われたという。
それに対する回答は作家の山口恵以子さん。
とあった。
だけどわたしは、その息子さんは、何気ないひと言がトラウマになっているのではないかと思ったりした。その一言が、人生を生きづらくさせてしまっているのではないかと。
確かに、50代になって妻子ある社会人と考えれば、普通ではないかもしれない。わたしの母も、祖母からのひと言に傷ついたからといって、無視したりはしていないし関係は良好だ。
だけどこの人は、50代になって妻子があっても、そんな態度しか取れない。そんな態度しか取れない大人になっている現状に、苦しんでいるのではないかと思った。
それを母親にぶつけるというのは、甘えかもしれないし、恨みかもしれないし、わかってほしい何かがあるのかもしれない。
山口さんが言うように、単なる性格の違いかもしれないけど。
<次回に続く>
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