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【連載】家族会議『噛み合わない』
「親戚で一番幸せな家族になろうよ」のひと言から始まったわが家の家族会議。2020年1月6日から約4ヶ月に渡って行った会議の様子を、録音記録をもとに書き記しています。
前回の記事はこちら。
【家族構成】
父:自己愛性パーソナリティ障害。頭に血が上ると大声で威圧する。
母:自己肯定感が低い。自分の意見を言えない。
姉:うつサバイバー。心理カウンセラーをしている。
わたし:性犯罪サバイバー。家族会議を主導する。
※遠方に住む姉は家族会議には参加していない。
※家族会議の目的は、夫婦仲の改善と、うつを抱える姉の気持ちをわかってあげられるようになることである。
家族会議27回目#4|噛み合わない
――母は過去の言動を振り返り、自分が「精神的虐待」を行っていたことに気づき、姉に謝罪の手紙を書いた。それをきっかけに、自責と本当の反省の違いについて話し合っている。
自分の行動や状況や気持ちをあらゆる側面から検証して、相手の気持ちを理解した「本当の反省」をする必要があると。
しかし、その過程で「過剰な反省」や「表面的な謝罪」が逆効果であることも指摘してきた。
「事の重大さに見合った反省をしなければならない」と。
そんな話をしてきた家族会議を終えようとしたところで、母が黙っていた父に問いかけた。
母:
お父さんも、何か一言ぐらい発する?
父:
はい。今のね、内容ずっと聞いてて、その通りだと思うんだけど、結構大変だよこれ。なぜこれやったかやらないか。いろんなケース考えられてさ、なぜこっちに行ったかこっちに行ったかって。それ各々で分岐していくわけじゃん。それ全部想定して、こっちに行ったらどうのこうのと、いうやつをやってって、結局は気持ちをわかるっていうことなんでしょう?わかるっていうことは近づけるってことなんだよな?
で、こういうことやってても近づかないかもしれないから、途中で1回やっぱり、我が家で一番不得意な気持ちのキャッチボールやった方がいいんじゃないかなって、どっちに転ぶかってのをずっとやっていくより、途中でキャッチボールやって、軌道修正してった方がいいような気がするんだけど。
母&わたし:
・・・
父:
俺はそうする。
母:
え?何かよくわからない。これをやっていくのは大変だ。そのまま行くと
父:
いや何故やったか何故やらなかったかと。そのタイミングでね。
母:
何?自分のことを考え‥‥自分のそのときを考えるんだから、あらゆる側面っていうのは自分の事を中心にだよ?考えるのは。
父:
うん、自分のことが中心
母:
誰かのことのために考えないよ。あらゆる側面って。一つの枝からいっぱい、そりゃわかれていくけど、自分に関係ないところはやらなくていいと思う。自分に関係あるとこだけを、あらゆることを考えるんだよ。
父:
うん、だって条件があるでしょうよ。自分のことだけでも。なんでこれがやったかやらないか、できたのか。条件によってはできるできないとか、もっと出てくるからさ。
母:
自分のそのときの条件で考えればいいんじゃないの?自分のそのときの条件じゃないものまで考えることはない
父:
いや、いいですそれで。その通りです。
ただなんていうの、このロジックが全部、まず考えなきゃいかんでしょうよ。自分が検討する項目っちゅうの。そこがズレてると、ズレちゃうじゃん、全部。
母:
だから、それは泉が、話しながら、おかしいこととか足りないこととか、また自責に入ってるとか、そういうのは泉と相談しながらというか
父:
はい。わかりました。
母:
それがコミュニケーション?って言ってんの?お父さん。それのことをコミュニケーションって言ってんの?
父:
いや気持ちのコミュニケーションだよ。気・持・ちだけ。その手段とか何かじゃなく、気持ちのコミュニケーションが最も欠けてるような気がするわ。
母:
だれ?いつ?なに?
父:
我・が・家・の!
母:
我が家の!?
父:
うん。我が家の普通のコミュニケーションもかけてんだけど、それ以上に気持ちのコミュニケーションなんていうのは、かなり欠けてると思うんだけど?
わたし:
‥‥お父さんに言われたくないって感じだけどね。
父:
うん、もちろん俺が一番欠けてるよ?
あ、ほんじゃ俺がそう思ってるだけでみんな、できてんだったらいいんだよそれで。俺とにかく聞いてて、俺それやらなきゃいかんなと思ったもん。気持ちのコミュニケーション。
母:
‥‥やってください。
父:
やります。
わたし:
うん‥‥なんか、わたし今ちょっとそういう気分には全然なれないんだけど。
まず、まずさ、自分のことを聞かれるのを一旦やめてほしいって言ってさ、気持ちのコミュニケーションを拒否したのお父さんね、まずね。今、拒否してる状態だよね?
なんでそこで、そういうこと言えるのかなって、ちょっと理解に苦しむ。
父:
今の話聞いてて、気持ちのコミュニケーションがかなり大切だなと思ったから。
――「あらゆる側面から検証するより、気持ちのコミュニケーションのほうが手っ取り早いと思ったから」の言い間違いだろう。
わたし:
うん‥‥ちょっと‥‥うーん‥‥どうしたらいいのか、もう本当にわかんない‥‥。
父:
むかつく?
わたし:
むかつくっていうか、ちょっと本当に、価値観が違いすぎちゃって、どうやっていけばいいんだろうなっていう感じかな。
父:
そっかぁ。
わたし:
むかつくとかでもないなって感じ‥‥なんか、わかんないなぁって感じ。
父:
価値観ねぇ
わたし:
でも、むかつくといえばむかつくかもな‥‥。
一番さ、お父さんが‥‥。お父さん言われるの嫌だろうから本当、言いたくないんだけど、でもそういうツッコミしてくるから言うけど。
もちろんさ、考えていく上では気持ちを見ていくことは、本当大事。なんだけど、まずは考えて感じてみることも大事。だし、お姉ちゃんのメール見てもね、今コミュニケーションを取りたい状態じゃないよね?だから、わたしはこのメールも踏まえて、まずはここで、自分たちでとにかく考え尽くしてみることが、今やるべきことはそうだよね?って。
特に今みたいな状態で、どんどんお姉ちゃんとコミュニケーション取ってやってこうっていうのは、それこそこっちの自己都合でしかないわけよ。
母:
お姉ちゃんのことを考えてない
わたし:
そう。今度こっちが気持ちのコミュニケーション取りたい取りたいって言って
母:
今頃になったからって‥‥
わたし:
そう。今こうなったからってね、相手の状況を考えてなさすぎる行動になっちゃうわけ。それだとね。
父:
あのーちょっと、俺のが伝わってないような気がすんだけど。
わたし:
うん。
父:
(気持ちが)大切だから、最初から最後までコミュニケーション持ってってやりましょうっちゅうんじゃなくて、自分で考えて、ある程度まで作って、その途中で1回、このデータをもとにコミュニケーション、気持ちのコミュニケーションしてみると。
すと、自分がやってきたことが合ってるのか合ってないのか、要するにお姉ちゃんの気持ちに寄り添ってる行動を起こしてるのかどうかの確認コミュニケーションの方で言ってたんだけど。
わたし:
それはわたしもさっきから言ってるから。じゃあお父さん、わたしの話聞いてないんだなって思っちゃうね。
父:
‥‥言ってたな確かに。
わたし:
うん。
父:
聞いてないわけじゃないんだけど、うーん‥‥聞いてないのかねぇ。
わたし:
まあいいけど。お父さんにっていうよりはお母さんに言ってたわけだし。
ただその、家族に一番足りてないのがコミュニケーションだっていうのも、そりゃそうだと思ってるけど、まずさ、コミュニケーション取れる状態じゃないわけじゃん?この家族が。気持ちを出せないんだもん。
で特にお父さんが今、わたしがいろいろ言ったことでいっぱいいっぱいになって、一旦やめたいって、自分のことじゃない違う話でやってって。そう言ったよね?そう言っときながら、コミュニケーションとっていきたいとか言われると、もうちょっと混乱‥‥しちゃうわ。
父:
ん?なに?どういう意味?
わたし:
一番コミュニケーション取りたがってないのお父さんじゃん?
父:
はぁ。
わたし:
自分がコミュニケーションをとることを拒否しておきながら、こういうときに「コミュニケーションが大事だろ?」とかわかった風なことを言われてもなあ。っていう感じ。
父:
わかりました。
わたし:
本当、言いたくないんだけど‥‥っていうか、お父さんに何も言いたくないんだけど。でも‥‥。しばらく何も言わないようにしようと思ってたのに‥‥だけど、あまりにもって感じ‥‥だな。
父:
そっかぁ‥‥
わたし:
出てこないだろうけどなんか、反論があったら言っていいよ。反論があったらっていうか‥‥どういう、どういうことなの?って感じかなぁ。どういうつもり?で言ったの?今。
なんかあれかな、自分のことは置いといて言ったって感じなのかな?どっかこの辺の立場から?
父:
‥‥なんか、会議をやる資格がないんだな。お父さんには。
わたし:
会議を?うーん‥‥わかんない。
父:
乱すだけみてだな。
――これがよくない自責だ。「会議をやる資格がない」と落ち込んだ姿を見せられても、「噛み合わないなあ」という感覚にしかならない。
わたしが聞いているのは、今までの父の発言や態度と、今言ったことに矛盾があるのがなぜなのか説明して欲しい。そこにどういう思いがあるのか教えてほしい。ということだ。
こうやって噛み合わないのはまさに、視野が狭いからである。そのためにあらゆる側面から物事を考えて感じてみたほうがいいと言っているのだ。
まあ、父はそれは嫌だ。と、いうことなんだろうけど。
‥‥トントントントン、テーブルを鳴らす父。内心イライラしているのだろう。こういうのが威圧になるということを、父は考えもしないだろうな。
わたし:
なんかほんと、わかんない。
いやみんな、お母さんもお姉ちゃんもさあ、一番、お父さんとコミュニケーション取りたがってると思う。思うよって感じ。
でも一番さあ、気持ちとか感情を出してくれないの、お父さんなんだよね。それでさ、「コミュニケーションが一番足りてないと思う」みたいなのって何か、どういう気持ちから言うんだろうって思っちゃう。
― 今日はここまで ―
なんで父が窮地に追い込まれているかといえば、原因はふたつある。
ひとつは、気持ちを言わなかったこと。
もうひとつは、自分を省みていないことだ。
父は、例えばこう言えばよかった。
「今の話聞いてて、本当、気持ちのキャッチボールが大事なんだなと心底思った。俺はそれが、できないんだな。今までできてなかったんだな。だけど、気持ちのキャッチボールをもっともっとやってみたいと思った。その前に、自分でよくよく考えてみることが必要なんだな」などと。
父はまず、自分が自分の気持ちをわかっていないこと、当然相手の気持ちもわからないことを、自覚しなければならない。「自分は人と気持ちのキャッチボールなどできないのだ」という大前提が、すっぽり抜け落ちているからおかしな発言になる。
そうでなければ、そもそも家族会議も必要なかっただろう。
それができないから今に至るという、その過程があることが抜け落ちているから、堂々と「気持ちのコミュニケーションが真髄だろう。あらゆる側面から検証なんてそんな七面倒くさいことをやるのは無駄だ。」と言える。
まあ父は、気持ちのコミュニケーションも、あらゆる側面から検証するような面倒くさいことも、結局のところどちらもできないのだけど。
<次回に続く>
これまでの家族会議記事はマガジンにまとめています。お時間あればぜひ、わが家の会議をのぞきに来てください!
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