【連載】家族会議『オオカミ少年』
「親戚で一番幸せな家族になろうよ」のひと言から始まったわが家の家族会議。その様子を、録音記録をもとに書き記しています。
前回の記事はこちら。
家族会議7日目#9|オオカミ少年
――父はテレビの健康番組が大好きだ。健康番組を見ては「俺、あの病気だ」と思い込む。
それで最近は「俺、メニエール病なんだな」と言っている。
そうやって家族の心配を引き出して満足感に浸っているのが父だ。まるでオオカミ少年のようである。
わたし:
言われたあと、メニエール病のことをちょっと調べてみたんだけど。
テレビでは何て言ってたのかわかんないけど、回転性のめまいとか耳鳴りが特徴で、その回転性のめまいが数十分続くっていうのが書いてあったの。あと繰り返すこと。
お父さんから詳しく聞いてなかったなと思って。数十分続く感じだったの?
父:
1分ぐらいでした。
わたし:
1分ぐらいか。なんか、診断が難しいって書いてあって。でもめまいは診断するときのポイントになるって書いてあったのね。
母:
聞かれるってことだね。
わたし:
テレビでなんて言ってたのか分かんないけど、長く続くことと繰り返すことが、診断のポイントって。
父:
繰り返すことは言ってたわ。お父さんの繰り返しという意味では、半年に1回くらいなんだわ。
わたし:
その繰り返すっていうのも、どのくらいっていうのは書いてなくって。テレビでは言ってた?
父:
そこまでは言ってなかったわ。繰り返すっていう意味では、今まで3回なったの。
母:
3回?
父:
うちで2回、畑で1回。とにかくぐるんぐるん回るやつだから立ってられないからさ。
わたし:
メニエール病以外にもめまいの原因っていくつかあるみたいだからさ。
なんか朝、「メニエール病なんだな」。みたいな感じで言ってたからさ。
母:
もう診断しちゃってたのね。
わたし:
ってことは病院行くのかな?って思ってたんだけど、行かないんだーって、ちょっと思って。行ったらいいんじゃないのかな?1回。
父:
あと何て言うんだろうな、今表に出てるのは、そのめまいが3回、今まであったと。あと今現在ね、公園で歩くじゃん。歩くときにまっすぐ歩けないんだよな。
それもやっぱり3半規管に関係するんじゃないかと思って、メニエール病じゃねーかと思って。
わたし:
そしたら病院に行こうよ1回。嫌なの?行きたくない理由はなに?
父:
いや何もない。
わたし:
ない?じゃ1回行ってくれる?
父:
はい。
わたし:
心配だからこっちも。
父:
えーっと耳鼻科ね。どこだ耳鼻科。ま探していきますわ。
わたし:
うん。
――父が病院に行かないときというのは、本人も大して心配してないときだ。そもそもメニエール病だとは思っておらず、重大な病気を抱えているかもしれないことをアピールして、相手の同情を買いたいだけ。
つまりこの議論もまぁ、無駄ではある。
わたし:
あとさ、ずっと前から気になってるんだけど、足腫れたじゃん?9月くらいに。あれで今、病院行ってないよね。あれは何でなの?っていうのをずっと聞きたかった。時々聞いても、なんだかんだって言って行かないから、行きたくないんだなって思ってもう聞かないようにしてたけど。
父:
いや別に。治ったと思ってるわけ。
わたし:
治った。なるほど。ふーん・・・わかった。
お医者さんは「時間かかりますよ」って言ってて、治ったかどうかの判断って血液採らないとわかんないんじゃないかなって思うから、何で勝手にやめちゃうんだろうって。
父:
そう…
わたし:
何回か聞いても「あの医者何曜日にいるかわかんないからな」とかって。「治ったって思った」って言うのを聞いたのは今が初めて。
父:
そうですか(小声)
わたし:
今まで、行きたくなさそうなのだけはすごい伝わってくるんだけど、なんか言い訳っぽいことだけ言われて、なんでなんだろう?って。
父:
そうですか(小声)
わたし:
なんか知らないけど行きたくないんだなって。でも、あのとき結構大変だったじゃん?心配もしたし。わたしも病院行ったし。2回も付き添ったし。先生の話も聞いたから。
だからわたしも気になってるわけよ。薬を飲み続けて、皮膚とか血管を強化するのを、何ヶ月かやった後に血液検査して結果を見てわかるっていう話だったと思うんだけど、2ヶ月ぐらいでやめちゃったから、何でなんだろうって?って。
父:
あれ病院どこ行ったんだっけ?
わたし:
大山病院。
父:
大山か、そこの皮膚科じゃねえか?
わたし:
皮膚科だよ。
父:
今度皮膚科に行こうと思ってんだけど、背中に何かおできみたいのでてるから。ついでにそれも見てもらおうか。
わたし:
期間空いちゃったからどうなんだろうと思うけど。
父:
血液はそこで採ったっけ?
わたし:
採ったよ。最初のとき。それで足りない栄養として亜鉛を新たに出されたんだもん2回目に。何かいろいろ騒ぐわりに、ちょっと良くなるとやめちゃうみたいな感じのところ、気になるよね。
父:
すみません(小声)
わたし:
何か行きたくないなら行きたくないで。例えば長生きしたくないならしたくないで、その意思があればしょうがないと思う方だけど。だけどお父さんってよくわからない。
だからそれで、また同じことがあっても「もう知らない」でいいのかな?みたいな気持ちになっちゃうわけよ。でもそれって不本意なんだよね。
「あのとき何回言っても病院行かなかったんだから、もうほっといていいんでしょ」って、次に足が腫れたときに言いたくなる気持ちになるけど、言いたくないんだよね、本当は。なんか、そういう気持ちにさせられることがあるなって。
本当は言うつもりもなかった。「もう、次何が起きてもほっとこう」って思ってたから。だけど、こういう話し合いの場が始まったから、やっぱり言おうかなって思って、今日言った感じなんだけど。
父:
ありがと。いや、今日は2人にガンガン責められてる感じがして
わたし:
そうだよね。ちょっとつらいよね。
父:
ちょっとつらい
わたし:
ごめんね。じゃあなんか楽しい話で締めようか?
母:
私何責めたっけ?
父:
なに?
母:
今日、2人に責められてって言ったけど私が
父:
責めたつもりないんだよ
母:
いやいや、だから何責めたっけ?って。お父さんに聞いたの。お父さんは何を責められた感じ?って。
父:
言われてることが責められてる感じだよ。
わたし:
だからお父さんもイライラしたってことだよね。
なんか、今の感じだよね。2人の良くない部分を引き出す感じで。もうお父さんも、ここ数日のお父さんじゃない。違うお父さんのスイッチ入ってたなって。イライラと、もう有無を言わさない感じで論理的に片付けるっていうか。こうでこうでああだから何か文句ある?みたいな。
父:
そっか
わたし:
それが始まっちゃうと、おそらくここにわたしがいなかったら、もっと喧嘩になってるよね。
今現在の話すると、こうなっちゃうよね。今の心配とか、今の不満とかがお互いに乗ってきちゃうから。ま、しょうがない。
父:
いやーそういうことか。
わたし:
うん。お母さんは責めるっていうか、何だろう、お父さんのああいうの(プライド)引き出すような感じなわけよね。
でも責めてるっていうより、ただ焦ってパニックになってるように見えるんだけどね。で、押し付けがましくなってるのがお母さん。
それがうっとうしくて、それに反応して、押さえ込もうとするのがお父さんって感じかな。
父:
そっかあ
わたし:
でもそういうのも、我慢しようと思ってできるもんでもないから、しょうがないと思うし、出していけばいいと思うけど。
まあ、だいぶ抑えてたとは思うけどね。お父さん。抑えながらも出てるっていう感じで。
父:
そうですか
わたし:
抑えてくれてるんだなとは思ってた。まあ、わたしはちょっと、責める感じになっちゃったと思うけど、お母さんは、攻めるっていうより1人パニックって感じだよね。心配で心配で、自分の心配を押し付けるみたいな感じ。
母:
まあそうだね。運動のことで言えば、2人で話し合えるといいね。
父:
はい。コミュニケーションが全てなんだほんとに。
わたし:
うん。そうそう。
吹き矢の話(吹き矢講座に行かない代わりに代替案を考えた話)も、ちょっともったいないなって思ったから今日出したって感じ。
せっかくお父さんなりに考えてても、それを言わないとか。ちょっと惜しいっていうか。プラス、もっとお母さんが心配してることとかに配慮できると、よりいいよね。みたいな話しようかなって感じだったんだけど、ちょっと責める感じになっちゃったね。
母:
なんか、しゃべらせちゃったね。泉一人に。
わたし:
そう?
お母さんは、そういうのを出す(責める言葉を出す)のにちょっと抵抗があるって言ってたんだよね。わたしがいることに甘えて、わたしがいることで言いやすくなって言うっていうのが、なんかずるいって。
1人だったら言えなかったかもしれないことを、こういう場だからって言うのって、なんかちょっとずるい気がする。みたいな。ちょっと躊躇する気持ちがあるって。
父:
いやこういう場だからこそ、言えるんじゃないの。
母:
もちろんそう。それに、お父さんが聞こうとしてくれるのはものすごく嬉しいっていうか。もう、「聞くよ」って言ってくれるのは、もう半分ぐらい聞いてもらったような気持ちぐらい、気持ちが楽になるっていうのはあるけど。
ただ、お父さんが、さっき2人に責められたってなったじゃないですか。
やたら責めるようなことになるのもな、みたいな感じかな。
父:
いやいや、今まだ始まったばっかりだから。小学校一年生なんだよ。これ取り組んでね。これから2年生3年生になっていくんだから、いいと思うよ俺は。
母:
わかりました
父:
何があっても。言いたいこと言って。そういう場で設定したんじゃない。
――強がり。何かがあると受け止められず怒り出すのが父なのに。
母:
そうだよね。
父:
それでいいんだよな?
わたし:
うんいいよ。言いたいこと出してもらうっていうのは。
いいけど、それってさ、お父さんもそうだと思うんだけど、何も感じずに出すわけじゃないから、そういうのを知っておくことも大事かなって。
お母さんからのきつい言葉が来たときに、それをお父さんが、ただ怒りとか恨みだけで言ってるって受け取るのと、いろんな罪悪感とか抱えながらがんばって言ってるっていうのを知っとくのとでは、ちょっと受け取り方が変わってくると思うの。
お父さんなんか特にさ、思いがあってもそこの部分言わないから誤解を生みがちじゃん?こういう思いでっていうところを言わないから。お父さんも言った方がいい。
父:
だから、今1年生だから、そんな高級なことできないから。だから言って、今この発言はどういうところから出てくるの?というようなことまで聞くから。おめえも、そういうところで聞いてほしいんだけど。おめえじゃねえな。
わたし:
さっきも「おめえ」って言ってたなと思ったけど。笑
そういうことだから、隠してる気持ちも全部出すってことね。言いたいことだけ言うんじゃなくて。そうじゃないと成り立たないんだよね。
父:
言いたいことだけ言ってたら、今までとおんなじだ。
わたし:
ただの喧嘩になるだけだから。気持ちを全部出すっていうことね。
- 今日はここまで -
父はちょっとした身体の不調を訴えては、家族に心配されたり、同情されたり、大切にされたりする状況を作ろとする。父が本当に病んでいるのは、身体ではなく心だ。
それを隠して、ずっと嘘をついている。
これではオオカミ少年のようになってしまう。「また言ってるよ」と話半分に聞くことは、一方で不安でもあるのだ。本当に身体が重大な病気だった場合に、気づけないんじゃないか…と。
それが嫌だから、つい責めてしまう。わたしも、病院に行ってほしいというより、嘘をつかないでほしいだけだ。
でもそれをハッキリ言うと、受け止められないのが父。自己愛性パーソナリティ障害の人との付き合いは、非常に難しいものである。
<次回に続く>
これまでの家族会議記事はマガジンにまとめています。お時間あればぜひ、わが家の会議をのぞきに来てください!