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【連載】家族会議『気持ちが通じ合わない。母が抱えてきたさみしさ編』

「親戚で一番幸せな家族になろうよ」のひと言から始まったわが家の家族会議。その様子を、録音記録をもとに連載で書き記しています。

前回の記事はこちら。

家族会議2日目#5|気持ちが通じ合わない…。母が抱えてきたさみしさ

わが家にはわだかまりがある。その小さなわだかまりが積み重なって、修復できない溝ができている。そうなった今、母はなにを思うのか。

「幸せな家庭について、今思うイメージは?」というわたしの問いかけに、母はぽつりぽつり、思いを言葉にしていった。


:そうだね、今思うのは、幸せな家庭っていうか…。お父さんとどうなりたいかっていうので言えば、話が通じたいというか、気持ちが通じたい。

:それは随分前から、気持ちが通じないことがさみしいっていうか、気持ちが通じ合いたいなってずっと思ってたけど。でも、それはどうしたらいいかわからなかった。

わたし:気持ちが通じ合えれば、幸せな気持ちになれそうってことだよね。

:うん、そうだね・・・。いつか自分の気持ちをわかってもらいたいなって、ずっと思ってたかな。


母の気持ちが切ないほどに伝わってくる。ずっとずっと、さみしくて、でも母親としてしっかりしなきゃいけないって、気持ちを抑圧してきたんだろう。


:結婚して、いつ頃からだろう。数年、あたりかな。はっきりしないけど、結構早い段階から、いつかお父さんに自分の気持ちをわかってもらいたいなってずっと思ってたかな。

わたし:うん。そうなんだね。

:だけどなかなか・・・まぁ、やり方も分かんなかったからだけど。なんか段々に、お父さんが仕事を辞めたら、分かってもらえるのかな、仕事を辞めたら、分かってもらうようにしたいなっていうか、分かってもらえたらいいなって・・・。

わたし:うん

:だからなんだろう、仕事仕事って言われることも、仕事だからダメなんだ、みたいな。

:なにか言ったときに「仕事」っていわれることが多かったから。仕事だとダメ・・・。とにかく、仕事やってるうちはダメなんだって。


父は仕事を優先に生きてきた。それは家族のためでもある。

母もそれを分かっているから、家族に問題が起きて相談したくても、「仕事だ」と言われれば口をつぐむしかなかった。

父は仕事をすることで家族への義務を果たしているつもり。でも、仕事だけをしている間に家庭が崩壊してしまったら?その義務も意味がなくなってしまうというのに。


:ただね、お父さんはあっちに向かって歩いてて、わたしはこっちに向かって歩いてるって感じはしなくて、ふたりとも同じ方向に向かって歩いてはいる。けど、お互いにときどき見合って話をしたい感じが、ずっとできないって、いう感覚かな。

わたし:そうだね。目的とか目標は大きくズレてないイメージがあるよね、ふたりとも。子育てに関しても、「こういう家庭がいいな」っていうのに関しても。そんな大きくズレてないけど、

:心が通いあえない。

わたし:そうだよね。ちょっとした違いはあるにしても、なんか大きくはズレてない感じ。でもすごく通い合ってない感じ。

:形だけは・・・形だけはやってる。お父さんは仕事をやってる。働かない人ではない。お母さんもやってる。でもなんだろう、そこに心が・・・。

わたし:そうだね、なんか残念な感じだね。


形だけの家族。まさにそう。わたしはずっと、自分の家族を『仮面家族』だと思っていた。

だからわたしも、仮面をかぶって家族っぽい振る舞いをしてきた。わたしは正直、それでいいやと思っていた。

だけど、もちろん良きことではない。それは母にとっても、姉にとっても同じなのだった。そして諦めていないふたりの存在が、わたしを家に呼び戻したのである。


:心が通わないうちに、小さな悪いことがいっぱいあって、それが積み重なって、心を通い合わせるには、ものすごく難しい・・・どんどん難しくなって、邪魔なものがいっぱい増えて。

:それでお姉ちゃんの時とかに、そういうのもいろいろ影響して。コミュニケーションを試みようとお母さんなりにはしたけど、なんかなかなか上手くいかなかった。っていうので今に至る感じかな。

わたし:お母さんがお父さんに通じてほしい気持ちって、どういう気持ちなの?

:んー・・・

わたし:さみしいことか。

:そうだね、通じないことがさみしい。

:普通に話がしたいっていうか…。そうだね、何かあって言ったときに「仕事だ」って押さえられた感じ。なんか、詰まる感じ。いろいろ話をしたいなぁって感じではあったけど…。通じ合えないのがさみしいって感じかな。

:だから、もしかしたらお母さんは、最近ちょっと自分的に自立出来てきたような気がするって言ったけど、その前は自立してないことも知らなかったけど、自立してないが故の甘えみたいなものを、お父さんに求めてたのかなって。

わたし:そっか。お姉ちゃんもよく言うよね、通じなくてさみしいって。

:自分は通じたことないから、通じるってなんだか分かんないって感じだったのかな。

わたし:お母さんが?

:お姉ちゃんが親に対してそう思うわけでしょ?


姉はうつを患い、今は回復してカウンセラーをしている。でも、気分の浮き沈みは今もある。そういうとき親にサポートしてもらいたいのだけど、サポートどころかさらに落ち込ませてしまう。

原因は、気持ちが通じないことだ。

この家族会議も、一番の目的は「姉をこれ以上傷つけないため」なのである。


わたし:そうだね、気持ちが通じる・・・気持ちが通じるっていうのは

:わかるってことかな。

わたし:ん~なんだろうね。でも通じるとすごく嬉しかったり、満足したりするんだよね。

:今までも話しようとして、ちょっとでもお父さんが「話を聞くぞ」ってなったときは嬉しかった。

わたし:うんうん

:たぶん、聞くぞじゃダメなんだろうなぁ


しみじみと言う父・・・。


わたし:ん?聞くぞってなったら嬉しいって言ってるけど。

:はっはっはっ笑

わたし:たぶん、聞く姿勢になってないってことだったんじゃないかな?そのときにさみしく感じるって。


父はこれまでの自分がどんな態度であったのか、まったくわかっていない。

「聞くぞじゃダメなんだろうな」とは、聞くだけは聞いていたことが前提だ。もちろん、聞いてくれたこともある。でもほとんどが、仕事を理由に聞かなかったり、聞いたとしても途中でいびきをかいて眠りだしたりした。

国会議事堂で居眠りしている議員と同じである。

学生時代の、とある日常を思い出した。リビングでテレビをみながらソファーにのけぞる父に、わたしは聞いてほしい話があってしゃべり始めた。

父の視線は相変わらずテレビのままだけど、とりあえず相槌はうっている。でも次の瞬間、相槌ではなくいびきが聞こえてきた。眠ってしまったのである。

「え。ウケる!なにこの人。娘が話してんのに寝ちゃったんだけど」

そう思った。わたしは行き場を失った言葉を回収して、そっとその場を立ち去った。

そんな父を見ていれば「家族にまるで興味がない」という印象を持たざるを得ないのだけど…。


:うんあのね、お母さんもその、話したいんだけど話にならねぇと、聞きたいんだけど聞く気にならねぇ、ということで前に進まなくて引っかかってんだけど、お父さん側から言うと「話したいんだけど」って悲壮感漂わせてくるわけ。そうすると、「うわ~」となるわけな。

わたし:苦手意識がでちゃう感じか。

:だからそこをもっと、軽く言ってくれないかなぁと。

わたし:お母さんは真剣になっちゃうって感じなんだね。

:・・・だから、いろいろわたしも試行錯誤したつもりだけど。まだまだ足りないってことかもしれないけど。なんかわたしからすると、どこからいってもダメだったって感じ。下からいっても横からいっても上からいってもダメなんだって…。


悲壮感を漂わせてくる人にウッとなる。それは分かる。それを受け止めるには、受け止める側に心の広さが必要だから。

当然、父にその余裕はない。それに、そうでなくても話を聞かないのが父だ。

そもそもだけど、父はこうして「俺には聞く気がある。だけどお前のせいで聞く気になれない」と主張し母に責任を押し付ける。それがなんとも言えず、胃もたれする主張なのである。


- 今日はここまで -


父には父の主張がある。それを聞くのも家族会議の目的なのだけど、いつも父の主張には矛盾がある。

その矛盾を水に流してやる心の広さは、残念ながらこちらも持ち合わせていない。わが家はそうやって、噛み合わない話し合いを続けるのだった。

この先に分かり合える日がくると信じて。

<次回に続く>

これまでの家族会議記事はマガジンにまとめています。お時間あればぜひ、わが家の会議をのぞきに来てください!


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