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【連載】家族会議『「私はやれる」逃げ場のない育児』
「親戚で一番幸せな家族になろうよ」のひと言から始まったわが家の家族会議。2020年1月6日から約4ヶ月に渡って行った会議の様子を、録音記録をもとに書き記しています。
前回の記事はこちら。
【家族構成】
父:自己愛性パーソナリティ障害。頭に血が上ると大声で威圧する。
母:自己肯定感が低い。自分の意見を言えない。
姉:うつサバイバー。心理カウンセラーをしている。
わたし:性犯罪サバイバー。家族会議を主導する。
※遠方に住む姉は家族会議には参加していない。
※家族会議の目的は、夫婦仲の改善と、うつを抱える姉の気持ちをわかってあげられるようになることである。
家族会議21回目#4|「私はやれる」逃げ場のない育児
――姉が幼いころから感じていたむなしさ。無価値感。
その原因のひとつに、母が抱えるむなしさの影響があったのではないか。
姉とわたしでそんな話をしている中で、姉は母から聞いた、ひとつのエピソードを思い出した。
わたし:
なんか、(踏切に)飛び込みそうになった。っていうのがよぎった。っていう話、それをお姉ちゃんが聞いたのも、「そんなに前じゃないんだよね」って言ってて。
母:
ちっちゃいときじゃないかもね。
わたし:
うん。4,5年前って。
母:
いつ言ったのか自分でも覚えてないけど、まあ、聞いた人ははっきりわかるよね。
私の頭の中にはずっとあるから。普段、ずっと覚えてるってわけじゃないけど。
それは、そのときのことは自分でも覚えてるから。話したのは覚えてんだけどいつだったか‥‥。
――姉がこの話を聞いたとき、母もサラッと話し、父も姉もサラッと聞き流したのだという。
母:
そのときのことを言えば‥‥、また同じようにサラッとになるのかどうかわかんないんだけど、とにかくぼうっとしてたというか、きっと疲れ切ってたと思うね。
わたし:
それはなにに?
母:
やっぱり、育児に疲れてたんだと思う。お姉ちゃんが生まれて数ヶ月だから。こうしなきゃああしなきゃっていう、本に書いてある通りとかさ。なんかそういう‥‥。もう、一生懸命やろうとしてた。けど、なかなかうまくいかなかったりとか、とにかくそれで疲れてた。で、だからボーっとしてた。
(踏切で)立ち止まらなきゃって感じじゃなくて、なんだかボーっと、そのまま歩いていきそうな感じに一瞬なって、「ああ駄目だ」って。
わたし:
育児ノイローゼみたいなことかな。
母:
まあ、そうだろうね。まあね。(子育て)練習したこともないしね。
わたし:
親も近くにいないしね‥‥
母:
なんか、自分としてはもうちょっと、自分がしっかりしてると思ってた。親の助けをもらわなくてもやっていけるって、思ってたから。ちょっと荷が重かったのかも‥‥
――言葉に詰まり、声を震わせる母に、録音を聞きながらも胸が痛む。
わたし:
そういう話、お父さんに愚痴こぼしたりとかもしなかったのね?
母:
ないね、してないね。
その頃、時々新聞に、旦那さんがうちに帰ったらお母さんと子供が死んでたって‥‥無理心中みたいに、子供を殺して自分も死んでたって、よく載ってたのね、新聞に。
もう、その気持ちがわかるっていうか‥‥。
で、旦那さんは全く知らない。その状況がすごくわかる。「知らないだろうな」みたいな感じ。
もう、旦那さんはそれを見てただびっくりして、「一体何が起きたのかもわからない」って、よく新聞に旦那さんのコメントが載っていたけど、「そうだろうな」「何も知らないだろうな」みたいな感じかな。
そういう記事は、気になってたね。
わたし:
目にもつくっていうか
母:
自分がやろうとは思ってないけど。意識ではね。思ってなかった、けど。だけど「すごくわかるな」って。死ぬ‥‥。死んじゃった人の気持ちっていうか。まぁ、思った通りかどうかわかんないけど。
で、旦那さんが「何にもわかんなかった」っていうのも、「よくわかるなぁ」みたいな。
わたし:
言ってないもん、見せてないもんっていう感じ?
なんか‥‥無理心中する、気はなかったっていうけど、ある意味さ、無理心中してしまった人も、もしかしたらそんな気はなかった。かもしれないよね。
母:
発作的にね。
わたし:
お母さんが、発作的に立ち止まったのと同じぐらいの感覚っていうか。
ずっと、悩んで考えて決断したっていうよりは、やっぱりもう、正常な判断ができないくらいに気持ちが追い詰められて、勢いで。むしろそういう人の方が、多いかもしれないよね。
母:
そうかもね‥‥。
とにかく育児‥‥。こうしなきゃああしなきゃっていうのがいっぱいあって、その通りやろうとしてなかなか‥‥。自分も疲れるし、うまくいかないしみたいな。そんな感じだったな。
わたし:
おばあちゃんとかには?相談したりもしなかったの?
母:
あんまり言わなかったような気がするな。なんかこう、自分でがんばるっていうか、なんていったらいいんだろう‥‥「自分でやれる」みたいな気持ちに、もうなってたから。「やれる」っていう‥‥「私はやれる」みたいな。
私はやれる‥‥。
実際やってみたら、大変だっていうのと、なんだろう‥‥
わたし:
難しさに打ちのめされてる自分を認められなかったというか、できない自分を受け入れられなかった。みたいな感じなのかな。
母:
生まれるときはもちろん、(母親や義母に)手伝いには来てもらってたんだけど。1週間とか10日とかせいぜい。1ヶ月は居なかった気がする。それで帰っていったでしょ。だからあとは、それからはひとり。
それで、お姉ちゃんが生まれて半年ぐらいして、岩手に飛行機で帰って、その間に鹿島に引っ越ししたから、大阪はそれきり。
その岩手に帰ったときに、当然(親たちが)手伝ってもくれるじゃん?そのやり方を見てて、何かすごく手抜きしてるわけ。私から見ると。
それで、「ああ。これでもいいんだ」みたいに思ったのは覚えてる。
だからもう本当、きっちりきっちりやろうとしてたっていう感じ。
わたし:
情報を知ってるからね。
母:
あの頃は本だったけどね、本とか新聞とか、育児雑誌みたいなの。
わたし:
ありとあらゆることがね、書いてあるもんね。
母:
うんうん、よくそういうよね。赤ちゃんによって違うしね。
父:
おんぶしてたの?そのとき。
母:
おんぶしてたような気がする。
父:
あれじゃねえの?ベビーカー。
母:
ベビーカー?だったのかな。ちょっとよくわかんない。
だいぶ離れた踏切で、買い物行くのにその踏切を渡っていく。ちょっと大きな街が踏切の先だったのね。自分たちが住んでるとこはあんまり商店街とかは少なくて。
その踏切も、すごい何本も何本もあるような幅広い踏切なの。だいぶ歩いていくところなんだけど、なんかぼうっとしてたと思う。
手抜き‥‥こんなんでいいのかーみたいな、なって、なんかちょっと楽になった感じはあったかな。
なんか、汗かいたときのやり方だったりとか。汗かいたら取り替えてとか、なんかいろいろやってたの、おばあちゃんが簡単に済ましちゃう。のを見て、ちょっと楽になったっていうのがあったけど。帰ってきたらまた1人だからね。
あとはそう。大阪のときはお姉ちゃんあせもが出ちゃって。生まれて数ヶ月でしょ。で、「お風呂に入れるといい」って言われて、1日に何回も入れて。そんなことをやってたりとかしたから‥‥。
やっぱり、育児ノイローゼってやつだよな。まあ、鬱っぽかったとか。
わたし:
そっか。
母:
なんか鬱っぽいって言えば、お姉ちゃんが幼稚園ぐらいのときもなんか自分で‥‥何か今思い出すと、そう。なんかそうだったのかなって思うときがあるね。
お姉ちゃんを幼稚園に送ってって‥‥違うな泉だな。泉を幼稚園に送ってって、うちに帰ってくると、なんか何もする気がなくて、何もしないうちに迎えの時間が来て、迎えに行って。で、泉が帰ってきてから、それから何かするみたいな感じかな。泉が幼稚園に行ってる間にすればいいのに、なんかその間ぼうっとしてたっていうのが、しばらくあったような気がするんだよね。
それを後で、お姉ちゃんが鬱になってからね、思い出すと、なんかさ、ちょっとそんなだったのかな自分もって。
― 今日はここまで ―
育児ノイローゼ、もしくは産後鬱とか育児鬱とか、母はそんな状態だったのだと思う。
疲れ果てていた。
それに気づかずに、「私はやれる」と思っていたのだ。
「私はやれる」と自分を鼓舞することが、なにかを成し遂げるために力になることもある。
だけど母のように、自分を追い詰めてしまうこともある。
その線引きが、難しいのかもしれない。
とくに育児は待ったなしだ。
小さな命が、自分の手にかかっていると思えば、手抜きなんてできないと思う。
だからこそ、発想の転換が必要なのだろう。
手を抜くのではなく、誰かを頼る。
核家族化が進んだ今、そして情報があふれている今、母と同じような思いを抱えている人は多いのではないだろうか‥‥。
たまたま見つけた『ひろせこころのクリニック』さんのブログを引用させていただく。
育児ノイローゼは、言葉通りの疲れから来る神経の過敏症です。
一人で、育児の責任を負い、不眠の疲れなどからイライラ感。ストレスの高い状態です。
むしろ、全員がノイローゼになりやすいといえます。目標を下げてください。
完全な育児は疲れます。孤独も問題です。何か気晴らし、支えが必要です。
アプリで「見てね」がありますが。自分だけでなく、夫、両親、兄弟、友人で見てもらって、ともに支えあう環境づくりなども大事かと思います。
この時代ですからアプリやメールをうまく活用してください。
HSPに関しては、次のように書いてある。
「こだわり」を疑いそれと距離を置くことです。幼児期からの自分の環境から解放される、自己理解が必要です。
そして産後鬱には、治療が必要だと。
<次回に続く>
これまでの家族会議記事はマガジンにまとめています。お時間あればぜひ、わが家の会議をのぞきに来てください!
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