【連載】家族会議『父の本音を聞けるヨロコビ』
「親戚で一番幸せな家族になろうよ」のひと言から始まったわが家の4年前の家族会議。その様子を、録音記録をもとに書き記しています。
前回の記事はこちら。
家族会議14日目#5|父の本音を聞けるヨロコビ
――この日はずっと、父の仕事時代の話を聞いてきた。父は被害者意識が強くはあるものの、真面目に働いてきたことは事実だ。
身を粉にして働くことが良しとされた、時代背景も影響しているのだろう。
わたし:
真面目なんだね。
父:
真面目。馬鹿が付くくらい。
母:
苦しくなる。
わたし:
お母さんも真面目だよね。
母:
そうだねぇ。
わたし:
だからお姉ちゃんも真面目だし。わたしもそこそこ真面目だし。
母:
どうしよう、この家族。
わたし:
それも時代だよねって思う。個人の努力に委ねるみたいなのってさ。
父:
本当そのものズバリですわ。
母:
苦しいね。苦しいね、苦しいね。お父さんのそのときの状況考えると。
父:
だから、中途採用でここまできたっていうのは、ある意味嬉しい面もあるんだけど、それに伴う代償が大きすぎて、最終的にはやっぱり、最後の5年間ぐらいからシステムエンジニア+工事やってたときには本当に楽しかった。それが最大のあれだね、救いかな。
――父はずっと、身体に槍が刺さった状態で働いてきた感覚があると言う。だけど、定年間近から65歳までの約5年、ようやく思い通りの仕事ができて満足しているらしい。
わたし:
代償って思ってるのって何?大きかったなって思ってる代償って、どの辺が代償って思ってるの?
父:
お姉ちゃんなり泉なり、子供たちに、もう少しやりたいように、やらせられなかったなと。そこがやっぱ大きいよな。
わたし:
それなんで?なんでだろう?
父:
今度そこ掘り下げるか?
わたし:
イコールにはならないなと思って。代償で言ったら、お父さんがこんなに自分が苦しかった。っていうのが、ひとつはわかりやすい代償だなとは思うんだけど。
なんかこんなに苦しい思いして、ストレス抱えて、家族に当たったりしちゃって、なんか空気悪くしちゃってって。それが代償だなっていうところはすんなりだけど。
やりたいことやらせてあげられなかったところになかなかさ、どう繋がってそこに行ったのかなと思って今。
父:
うん。要するに自分の心の余裕がない。
わたし:
うん。
父:
それから、お母さんともそうだし、子供たちともそうだし、会話する余裕がなかった全然。それが大きな代償ですよ。
わたし:
会話できなかった。会話する余裕がなかったから、子供たちが何をしたいかを知らなかった。みたいなこと?
父:
そうですね。会話というよりも、なんつうのかな
わたし:
会話はね。会話っていうか、何がしたいかは知ってはいたよね?知ってはいたと思うから、それを受け入れる心の余裕がなかったみたいなことなのかな?
父:
いや知ってもいないぞ意外と。半分ぐらいしか。
わたし:
うん深くはね、知ろうとしなかったと思うけど。大学に行きたいって言ってたのは知ってる。そういうのは単語としては知ってると思うけど、その奥の気持ちとか、どんぐらい行きたかったのかとか、そういうのは知らないってことだよね。そこまで会話してないから。
だから検討することもない、みたいなことだよね。それができなかったのが、余裕がなかったからだっていうことね?
父:
余裕がないというような、そんなもんじゃなくて、なんちゅうかな、ストレスをぶつけてたな。それを余裕がないと言えばそれまでだけど、余裕がないのに、もっとトゲトゲしさがあったんじゃないか?
わたし:
ストレスをぶつけてたような感覚あるの?
父:
あるな。なんかイライラしてるような気がしてる。
わたし:
どういうふうに見えてたんだろう?イライラしながら見る家族って。
父:
イライラしながら見る家族っていうのは
わたし:
なんかイライラさせてくる存在みたいな。よりイライラさせてくるみたいな。
父:
そうそうそう。よりイライラさせてくるって感じだったな。
わたし:
お父さんにとって家族も、ストレスを増やしてくる存在みたいな感じだったのかな。
父:
だからもう、そんなこと言う親父なんて大失格もいいとこなんだけど。槍が刺さってんだな、いっぱい。その状態で、家族に対してコミュニケーションを図って云々なんていう発想がなくって、何か言うと、足手まといするなとかさ。足を引っ張るなとか何とか。そっちの方にいっちゃうなイライラが。
わたし:
うんうん、自分の足を引っ張ってくる感覚ね?
父:
イライラのピークのときにはそんな感じで、しばらく続いてたような気がするな。
――家族がイライラさせてくる。父の本音がようやく出たなと思った。これまできれいごとを言うのが父で、それには違和感があったのだ。
態度と言葉の矛盾。それが気持ち悪くて仕方なかった。
父の態度と一致する本音が出れば、それがひどいものであっても喜びが大きい。
わたし:
何か、存在自体がそういう感じなのかな。家族。
母:
お父さんにとっての?
わたし:
イライラしてるときに、どういうことが足を引っぱられるみたいなことだったのかな?って思うけど、存在がじゃない?おそらく。
父:
存在…。いや存在でもないんだよな。
わたし:
存在ではないの?
父:
居ること自体が何かほっとするときもあるし。
わたし:
うん。
父:
なんか、自分が意図することであれば何か、会話になってんだろうけれども、意図しないことを言われると
わたし:
うんうん。
父:
もうイラッとしてさ、押さえつけにかかったり、そっちの方じゃないかな。
わたし:
うんうん。
――自己愛性パーソナリティ障害の父にとって、家族は自分の欲求を満たす存在だったのだろう。
上手く満たしてくれていれば満足してホッとする。満たしてくれないとイライラする。
そういう意味では必要でもあり、ストレスの根源にもなっていたのがわたしたちだった。
父:
とにかく俺は、今体に槍が刺さってんだぞっていうのがわかんねえのかっていう。わかるわけがないんだけども、わかんないのかという感覚。
わたし:
そういう気持ちだったんだね。自分が一番大変なのに、わけのわかんないこと言ってくんなって
父:
そうそうそうそう。だいたい、言ってる俺がおかしいんだけどさ。ほんじゃ槍が刺さってるって説明してんの?って。説明したのは今回初めてでしょって。支離滅裂だよ。
母:
言わなくてもわかれよみたいな感じかしらね。子供にはそうじゃなかったかもしれないけど私には。
わたし:
そのときはきっとそういう感じだったよね。きっとね。
父:
そうかもね。
わたし:
最初の頃のお父さんの話聞いてるとそういう感じっていうかさ。言わなくてもわかるでしょうって感じ。でもわからない。言わないとわかんない部分も結構あるよね。
――本音も、自分の支離滅裂さも、まるごと全部出してくれれば話が噛み合う。話が先に進んでいく感覚がある。
14回目の家族会議で、ようやくその成果が見え始めたのだった。
(4年後の今になって思えば、父が自分を客観視した数少ない1日だったわけだけど。)
母:
っていうと、余裕がなかったというよりは全くそんな、そんなこと考えてもいないというか、今になって思えばそうだけど、そのときはもうとにかく自分が仕事する。仕事はしようとしてたわけなんでしょうから槍が刺さりながらも。とにかくそれを邪魔しないでくれ
わたし:
お父さんは仕事しないっていう選択肢っておそらくなかったもんね。
父:
ないなぁ。
わたし:
ね。考えたこともおそらくないから。そうすると、一番つらい場所だけど、それを乗り切ることしか考えられないっていうか、辞めるっていう選択肢ない。ない以上は、何とかそこを乗り越えなきゃみたいな。仕事だけでいっぱいいっぱいになるよね。
父:
お母さんに言われたのはあれだよ。辞めてN社に行くと言ったときに、(俺は)N社の茨城で仕事するっていうのをイメージしてるわけよ。
わたし:
お父さんは?
父:
うん。N社が本社大阪。であれば「大阪という手もあったんじゃないの」って言われたときに、なかったんですよ全く。言われて、そういえば大阪もあるんだなと。
母:
昨日ね、昨日の話だよ。
――槍が刺さった状態で働いていた時期、父は転職を考えたことがあった。そのときの話である。
わたし:
ああそっか茨城は人が決まってて、お父さんが入れなかったからね。他の場所もあったかもっていうことね。
母:
N社が大阪にもあるんだって言うから、茨城が駄目なら大阪はどうだったのかね、みたいなことを昨日言った。
父:
家族で大阪まで行くなんてこと、サラッサラ考えたことなかった。
わたし:
そうだね。今となってみればだけど、当時相談してたら、お母さんからそういう提案が出てきたりもして。「大阪行くよ」って「ついて行くよ」って言われただけでお父さんの選択肢がもっと広がった可能性もあるっていうことだよね。
母:
あと思ったんだけど、お父さんが槍が刺さった状態で働いてるんだっていうことを、1人で抱えるんじゃなく家族に言ってたとしたら、もうちょっとお父さんの気持ちも楽。こういう状態で働いてることを家族が知ってるんだっていうので、ちょっと楽になったかな、みたいな感じもするよね。
父:
そこ大きいと思うよ
母:
同じ働くでも
父:
人に何も喋らないでさ。俺んとこさっぱりわかってくれねっつったってさ。わかりようがねえじゃん。
母:
俺のことさっぱりわかってくれないって感じだったんだね。
父:
そうなんだろうね。
――ばつが悪いと急に他人事のような返答をするのが父の特徴だ。
わたし:
そうだよね。お姉ちゃんもそんな感じっていうか。「言わないでもわかってよ」っていう、究極のわがままだけど、でもさ、言わないでわかってくれたときがやっぱ一番、最高に嬉しいわけじゃん。
言ってわかってもらうのは普通に嬉しいこと。で言ってもわかってもらえないのはすごい悲しいことなわけだけど、やっぱ言わないでもわかってもらえたら、それはすごい嬉しいことだから何か期待はしちゃうよね。
ただ本当それって、なんか奇跡みたいな話っていうかさ。
父:
そうだよな。
わたし:
ちょっと理想がね、高過ぎちゃう話なんだよね。だから言うっていう。伝えるっていうね、ことが大事。
母:
お父さんが私に言ってた言葉で、足を引っ張られる感じっていうのはよく言ってたよね。
父:
うん。
母:
何かわかるようでわからない。だったけど
わたし:
とにかく仕事がね、優先なわけだから、仕事に行きたいのに仕事のことだけ考えたいのに、それ以外のことを言われると、もう全てが足を引っ張る行為っていうか、お父さんにとって。そうなるよねって思う。
母:
お母さんもなんか少しずつ変わってる気もするけど…。なんかとにかく、お父さんは仕事が一番だと私も思ってた。思ってた。だからお父さんの邪魔しないようにしてしようとは思ってた。ていうか協力してるつもりだった。
わたし:
うん。
母:
どっちかっていうとね、協力するつもりだったけどなんだろう。自分の協力のつもりと、お父さんのあれとは何か違う。違ってたっていうか、話もしてないから。
わたし:
わかりようがないよね。
お母さんが協力してただろうなっていうのもわかるし、わたしだって、お父さんは仕事が一番大事っていう感覚ずっとあったから。
それでも、足を引っ張られるような感覚にお父さんがなるっていうのは、やっぱりちょっと過剰に、自分の思い通り以外のことを受け入れられなさすぎるのもあると思うし、気持ちに余裕がなかったっていうのもあると思うし、話し合いも本当少なかったんだろうなって思うし。
母:
もうこうなってるとね、トゲトゲが、トゲトゲになって。
話しようとすれば、それは簡単にお互いにトゲトゲになっちゃうだろうから。
わたし:
お母さんもそうやって、協力しなきゃみたいな。その分我慢することもあっただろうから、そうやってストレス溜めていくわけじゃん。
母:
そうだね。
わたし:
そういうのがより足を引っ張る
母:
言葉になったときにね。
わたし:
みたいな。悪循環は起きてたよね、きっと。
父:
大体お父さんの全てを出し切りました。
わたし:
出し切ったの?出し切れた?疲れた?
父:
まあ、疲れたところはあるんだけど、何か今まで言ったことのないようなことをこの2日間で、喋ったんで、何かほっとしたっちゅうか、なんでもっと早く言わなかったのかなと、いうのが強いんだけど。言えなかったのかな、ほんとにな。
母:
言う環境にもなかったかもね。
わたし:
こっちも聞く環境を作ってないしね。
お父さんはそのつらかったときの、嫌なふたりから受けてきたものは、ずっと閉まってたような感覚?
――この日は、父に槍が刺さる原因になったKさんとTさんへのうっぷんを吐き出してもらっていた(前回の記事)。
父:
うんあの、Tはそんな感じないんだけどね。Kさんに関しては
わたし:
今回出したって、蓋を開けたって感覚?
父:
出したって感じするなあ。閉まってたんだろうなぁ。
母:
名前もね。今まで名前も言わなかったもんね。だから名前言ってもいいんじゃないって言ったの。
だって私がその名前聞いたって、その人に何もしないし、誰かに言ったからってその人に聞こえるわけでもないし。ここで名前言ってもいいんじゃないって。
わたし:
そうだね。
なんか、この嫌だった気持ち思い出すのってすごい嫌だと思うけど、嫌だった側の気持ちがわかると、同じような思いしてる人の嫌な気持ちを分かることができるよね。そういうことにも繋がっていくよねって思う。
母:
そうだね。
わたし:
そんな感じでいいかな。今日は。
- 家族会議14回目おわり -
この日は父の本音が聞けた。父にとっては、出したくないものだったかもしれないし、見せたくない弱みを見せた気分かもしれない。
だけど、スッキリしている父もいる。
その感覚を、本音を出したときの感覚を、忘れないでほしい。
心に余裕ができたその先で、周りにいる人に目を向けてほしい。
心が通い合う家族への道のりは、まだまだゴールが見えていない。
<次回は家族会議15回目>
これまでの家族会議記事はマガジンにまとめています。お時間あればぜひ、わが家の会議をのぞきに来てください!